テキトー日記02年10月(2)
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10月16日(水)
昼、起床。(本当は朝食はバイキングが毎日ついていたのだが、遂に一度も睡魔に勝てずに食えなかった。損がなにより嫌いな俺を打ちまかすんだから、「睡魔」は本当に俺にとって天敵。というか、子供の時から宵っ張りの俺に「午前中」という時間はないのよー、めそめそ。「朝食バイキング」昼の2時までにしちくり~)
外に出るとちょうどファンの子らが(いや・・・未成年はいなかったから「子」じゃないな。ファンのアダルティーな人達)がいたので、一緒にお昼を食べる。サティという焼き鳥の定食。ちなみに「サティ」は「串焼き」の総称で、もしも「サティ・アンジン」というメニューがあったら、珍しいので是非食べた方がいいらしい。えっ? 「アンジン」って何かって? まあまあ、アンジンして食べなさい。おいしいかもしれないワン!
それから町に用事で出たついでにマッサージ。まあまあ。1時間1000円位。
「足の指がでかいわー、オーホッホッホ」
と笑われる。そうなのだ。俺はどーも、体の先っぽが人よりでかかったり小さかったりするのだ。爪は人の倍あり、指の上部を全部覆っている。覆っているどころか、丸まって覆い被さっている。なので、爪が伸び過ぎると、丸まっているので、くるりと回転して、自分の指に突き刺さるという、自虐的なマゾ爪なのだ。
一方、頭は小さい。というか、先が尖った感じになっている。普段、俺は帽子を愛用しているのだが、男のSサイズというのはほとんどない。
「そのサイズだと児童用しか・・・」
とか言われてしまう。
「♪黄色いお帽子被って、みんなでお遊戯いたしましょ、ラララララーン、ララララーン」
って、俺は幼稚園児かっ!!
夜はホテルのプールサイドでフェアウエルパーティ。まずはレゴンダンスを見ながら、割と豪勢なバイキング。デザートのケーキだけで何種類もあったぞ。メンバーはそれぞれのテーブルをまわってお話タイム。人生相談なども受けたりしてな。ま、年取ってるだけで相談を受けるほど立派な人生は送ってないけどな。鼻たらしてたら、40を越えてただけじゃ・・・。
次にあらかじめ書いてもらったアンケートを元に質問コーナーをステージにて。
「好きな食べ物は?」
滝本「ゆで卵」
知久「生卵」
石川「半熟卵」
とか、どーでもいい質問に答えて、それからしょぼたまライブを一時間ほど。
「ふくろう」という曲では発作的に俺は後ろのプールに首だけ潜ってブクブクしたが、なんのことやら。
いったん公式にはこれで全イベント終了だが、もちろん俺達のツアーは常に「公式」以降が本番だ。
夜11時過ぎに、また海辺に集合して、メンバー各自のソロをギター弾き語りで5、6曲ずつくらい歌い、
「海にうつる月」では、知久君が突然、
「じゃ、石川さんには踊りを踊ってもらいます」
と振られたが、もちろんしっとりとした曲なので、馬鹿ダンスは似合わない。
ということで、やおらTシャツとズボンを脱ぎ、パンツ一丁になって、暗い海の中に静々と消えていった。
頭がつかりそうになるところまで歩いて、踵を返して戻ってくると、ベストタイミングで曲が終わったという。良かった。俺のことはみんな海の藻屑として消えた物として、とっととあきらめて、別の曲が始まってたら、さすがに涙がチョチョ切れるからなー。
それから持ち歌のなくなった俺は、マネージャーに「ホテルプールタオルの借り方カード」を借りて、即興でその説明書に曲をつけて歌ったり、最後は、3人とも寝っころがって、Gさんと知久君は口琴、俺は腹を出して腹太鼓でインスト・セッションをしてお開き。もう3時近くになっていた。
中島らも「さかだち日記」読む。
10月17日(木)
今日はファンの人達の帰国日。またまた偶然会った、きのうとは別のファンの人とお昼食べて、あとはせっかくの最後の高級ホテルなので、プール等をファンの人達とキャッキャッと満喫。おーい、浮き輪をくれーい。俺は15mで、まじ沈みするんだぜーっ。ブクブクブク。
Gさんは、やっぱりファンの人らと「ウノ」とかして遊んでいたり、知久君もみんなと卓球とかしてたらしい。
ホテルをチェックアウトすると、国際電話代が馬鹿高くてびっくり。最近、日本では「アメリカ、3分で100円」とか言っているので甘く考えてたら、日本に3分ほど電話しただけで4000円以上。おそらくバリの物価で考えたら、2、3万円ぐらいにも匹敵するのではなかろーか。そういえば、発展途上国の国際電話はケタ違いに高い、というのをコロッと忘れてた。くくくー。
夜はみんなで最後の飯を食いに行く。俺が誰よりも早く食い終わるや、デザートの豪勢なアイスクリームを頼んだら、それがなかなかデリーシャスな様子だったので、我も我もと頼んでいるのがおかしかった。おい、みんなもう大人だろっ! って、俺が常に率先しているんだが・・・。
ファンの人を空港で夜10時、見送りしてから、メンバーとも別れ、これから1週間ほど孤独な旅を開始する。
今日はもう遅いし、寝るだけなので、クタの1泊1000円(国際電話40秒分くらい・・・)の安宿に。と、部屋に入るといきなりゴキブリが、
「お待ちしておりやした!」
で、ベッドと柄杓で水を流すトイレだけの部屋に。もちろん、テレビなし、机なし、椅子なし、石鹸なし、タオルもトイレットペーパーも、なーんもなし。
さっきまでのゴージャスホテルライフは、一瞬にして夢になった。
花村萬月「ゴッド・ブレイス物語」読む。
10月18日(金)
さぁ、これからのひとりで1週間の旅。とにかくマッサージだけは毎日絶対に受けるザンス。なんせ、俺の希望来世は「道」だからね。みんなに毎日踏まれていい気持ちだろうなぁ。はぁぁ・・・。
ということで、まずはホテルからも近い、この間の「足指でかい」と言われたマッサージ屋へ。まぁ★★★というところか。
そして空港へ。国内線で、隣のジャワ島にあるジョグジャカルタという町に行くのだ。
と、この国内線の待合所にあった、フットマッサージが、すげえ良かった! 思わずいきなりの★★★★★の最高得点だぁ! マッサージには慣れている俺も、思わずかすかに「ウー、フー」と色っぽい呻き声を上げてしまったぞ。歓喜の呻き声をな・・・。
但し、マッサージというのは、レストランとかと違って、そこに行けばかならずいいというものではない。担当の人の技量によって大きく違うのだ。だから、もしこの5つ星の人をゲットしたいなら、待合所には、二ケ所フットマッサージがあるので、左側の、なおかつ、「眉毛の最も濃い兄ちゃん」、これだ。無表情で、一見、馬鹿っぽい顔しているけど、ツボ当ては天才的だぞ。くれぐれも「眉毛の最も濃い兄ちゃん」だからな。覚えておいて、損はないぞ。眉毛の最も濃い兄ちゃん。
ジョグジャカルタ(通称ジョグジャ)には、1時間程で到着。ここは、ボロブドゥール、プランバナンというふたつの世界遺産の遺跡が郊外にある町だ。ま、行く気はないがな。俺はマッサージして、心地よい昼寝が出来ればそれでいいんじゃい。
ホテルは、ガイドブックによると、直接交渉するより空港で予約した方がディスカウントがきく、と書いてあったので、空港のホテルサービスで予約した「ナトゥール・ガルーダ」だ。4ッ星ホテルだぞ。但し、この町の物価は、物にもよるが、バリの3分の1と言われているので、1泊3000円だけどな。町の中心にあるので、なかなか便利も良さそうだしな。でも、行ってみたら、確かにロビーやレストランは広く、設備も整っているが、なんか雰囲気が暗い・・・ここに6泊分も払ってしまったが・・・うーむ、どうなんだろう。
横森理香「ハッピー・コンプレックス」読む。
10月19日(土)
町に出てみる。ホテルはちょうど、メインストリートに面しているのだ。ところが、客引きが物凄い。まず「ベチャ」という人力自転車に幌を付けた乗り物。この誘いが5秒に1回。そしてバティックや土産物の客引きも5秒に1回。つまり、2.5秒に一回声がかかる。もちろん無視して歩くが、結構精神的に疲れる。だって、ボクちゃん、
「人に何か言われたら『はいっ!』と元気よく返事しなさい」
と教育されて育ってきたのに、全部、相手の顔を見ないようにして無視するのは疲れるよ・・・。
そして義母に、
「何かバティックのいいのがあったら、買ってきて」
と言われていたので、見ようと思ったが、ちょっとその手の店を覗こうとした瞬間、10人ぐらいの人がワッと俺を取り囲んで、
「このバティックはどうだ」
「いくらなら買うんだ」
「こっちの店より、俺の店の方が安いぞ」
と、あっという間の人だかりになってしまい、とても落ち着いて商品を見られる状態じゃない。
なおかつ、このジョグジャに来る人はバリ経由の人がほとんどなので、バリが事実上旅行自粛になった今、観光客が減っているので、わずかな観光客はまさに飛んで火にいるデブおっさんなのだ。
ほとほと疲れて、とにかくホテルに戻る。マッサージは頼めるか、と聞くと、なんと1時間400円と激安。すぐに来てもらう。と、これが・・・60近いバーサンなのに、またセクシーマッサージはどうだ、と目くばせするのだ。あっ、あんたにやってもらうぐらいなら、自分でやるわいっ! で、揉みもへたで時間もなんか短かった気がするので★★。安くても、二度と頼まんわいっ!
しかも「チップよこせ」とか言うので、しょーがねーなーと、小銭を渡そうとしたら、
「そうじゃなくて、大銭寄越せ」
とか言ってきたので、ブチ切れて、
「とっとと、失せろ!」
と怒鳴ってやったら、ピューと逃げていったわ。
山田詠美「カンヴァスの柩」読む。
10月20日(日)
やっぱこのホテル、なんか辛気くさいわー、と思って、プールが工事中なのを言い訳にして、残り4泊分の部屋代を返してもらい、少し町外れの安宿街へ。ホテル・アイルランガという所に決める。木彫りの人形がホテルの至る所に置かれていて、なかなか心休まる感じだ。プールや部屋もそこそこ大きい。1泊1300円。
早速マッサージ屋探し。一件目は子供が出て来て、
「今、おかーちゃんいないので、明日来て」
と言われる。
さらに探すと、路地から人の家の庭のようなところを抜けたところにあるマッサージ。
白いタイルの床の上に布団が敷かれただけの、ローカルな作りだ。
ここはバンダナを巻いた兄ちゃん。兄ちゃんなら、セクシーマッサージはないだろうから、安心だ。(でも、兄ちゃんが急に色っぽい目付きで『どう、こっちの方は?』とか言われたら、もっと怖いが・・・)
で、この兄ちゃんだが、最初は普通かなー、という感じだったが、オイルをつけ始めてからのテクニックは、まさに至上! こっ、こりはまさに★★★★★だーっ。やっほーい! バンジャーイ! 1時間600円と、値段も手頃。
それから、なんかジャワの伝統音楽付きのレストランで晩飯食って、後、バーでビンタン・ビアーにアボガドとシュリンプのミックスカクテルと「ジョグジャの夜に浸る俺」を自己陶酔。ふふふ~ん。
林真理子「ピンクのチョコレート」読む。
10月21日(月)
きのう「お母さんがいない」と言われたマッサージへ。
おばさんが出て来たので、ベッドにパンツ一丁で横たわると、
「それも脱げ」
と言う。
そ、そいつは全裸ということですか、おばさん。
全裸、ということは、金の玉が見えてしまいますよ。
それだけじゃない。
変なダラリとした、いやいつも絶対にダラリとはいえないんだけど、えーと、あの、基本的にはダラリとした、しわしわのウインナーソーセージみたいなものも、見えてしまいますよ。いいんですか、おばさん。
返事がない。
じゃ、いきますよ。性器の、いや、世紀の一瞬ですよ。
ワン・ツー・スリー・ジャァァァァァーン!!
驚かない。あたり前ですね。
きのうのあんな女の子を生んでるんですものね。
こんなもの、山ほど見て、生きてきたんでしょう。
辛いこともあったでしょう?
やっ、別に辛くない。辛くないから、さっさと横になれ。
はいはい、どっこらしょ、と。
えっ、仰向け!?
それじゃ、先程来説明してきたものが、ほぼ、体のど真ん中にありますよ。
どんなに別の方を見ても、目の端に見えてしまいますよ。
えっ、毎日見てるから、なんでもない。
鼻や耳を見るのと、変わらない。
なるほど。
麻痺してしまったのですね。
本来ですね、この部分はちょっとドキドキというか、青春の苦い思い出とか、そういう場所なわけですよ。
確かに、体の一器官としてとらえれば、鼻や耳と変わらない。
おばさんは、間違ってない!!
しかしですね。この部分は裸族とかならともかく、普段はあまり人に簡単に見せるところじゃないんですよ。
えっ、父ちゃんは毎日見せてる?
あぁ、父ちゃんは別です。家族ですからね。家族のは見てもいいんです。ルーペとか使ってじっくり見ても構いません。
でもそれ以外の場合はですね。
あの、普通はいろいろと手続きがいるんです。
それもへたをすれば、
「見たいなー」
と思ってから何年もして、やっと涙なみだで見られる場合だってあるんです。
いや、見られればまだいい方です。
何年も祈り続けても、結局一生その人のを見られないで死んでいく場合だって多いんです。
つまりですね。
その「見たいなー」という気持ちから「見られる」まで。
ここまでがドラマなんです。
いいかえれば、それが人生なんです。
正解なんて、男と女にはありません。
ただ、その過程が、実に様々あるんです。
それが様々なかったら、ほとんどの小説家なんて、おばさん、廃業ですよ、廃業。
廃業は苦しいですよ。しかもそれまで「先生、先生」なんておだてられていた人が、最悪、家も家族も全部失って、公園でテント暮らしですよ。
えっ、楽しそう?
いや、キャンプで行くテントは楽しいですよ。でも、自分の家、というと、それが全然違うんです。
えっ、わからない?
じゃ、テントもなくて、段ボールの家かもしれないですよ。
えっ? ますます楽しそう?
いや、あの、子供の基地ごっこじゃないんですからね。
生活をする家ですよ。
屋根がなかったり、壁がなかったり。
えっ? うちにも壁がない?
風が吹き抜けて気持ちいい?
そっ、それは・・・
それはここが南の国だからですよっ!
あたしらの国じゃ寒い季節だってあるんだ。
雪とかだって降る事ありますしね。
えっ? 雪、知らない?
あのね、雪っていうのは・・・氷、氷わかりますね。あれをかき氷機で粉々にしたようなのが、空から降ってくるんですよ。
えっ、おいしそう?
あのね。それ、食べるんじゃないの。食べられないの。ただ冷たいだけ。寒いだけ。
えっ? 冷たい物頬に当てると気持ちいい?
あのね。気持ちいいとか言ってるうちに寒すぎて死んじゃうの!
わかった!?
えっ、全然わからない?
で、マッサージはもう終了?
い、いつのまに・・・
パンツ早く履け?
履きますよ。別に、こっちが出したくて出したんじゃないんだから。
なんだかよくわからないうちに、終わってたな。
あ、はい。450円ね。安いけど、技術イマイチだったので、★★!
夜はきのうのバンダナ君のところへ。
と、バンダナ君は今日はいないという。バンダナに長髪だったからな・・・。
いかにもバンドとかやってそうだから、リハーサルか何かか?
で、代わりに今日は、バンダナ君の嫁さんか妹さんかわからないけど、シモブクレちゃん、君がやるんだね。
きのうのバンダナ君のテクニックは凄かったからな・・・。
うっ、でも君もなかなかうまいじゃない。★★★★あげようかなー、どうしようかなー。
えっ、足の指のツボをグイッと押して・・・
うっ、うぎゃあああああーーー。
痛いー。
いた、いたいたいたいた、痛気持ちいいー。
これはバンダナ君も持っていなかった技術だ。
凄い、凄いよ、君らは。
夫婦か兄妹かわからないけど、凄過ぎるよっ、えーい、君も★★★★★だー。もってけ泥棒ーっ。
ちなみに本当にこれを読んでマッサージの為なら、世界の果てまで行く、という方へ。ジョグジャカルタのプラウィロタマン地区の、ホテルアイランガのある通りから、平行に走っているふたつ南の路地。その路地には、マッサージ屋はそこしかないので、わかると思う。
「マッサージ」と書かれた家の中庭に入っていくと、長家があるので、そこで、
「ハロー、マッサージ!」
と言えば、誰か出て来るはず。店の名前とかはない。
あとはひとりでプール(意外に楽しい)ひとりで散歩(暑くてすぐにホテルに戻りたくなる)ひとりで読書(当たり前)、などで1日終わり。
豊田行二「野望後継者」読む。
10月22日(火)
ベチャ(三輪自転車)10分75円、バス40分20円(!)で、プランバナンへ。
「えっ、観光地には行かない、と言ったじゃないか!」
お怒りごもっとも。でも大丈夫。一番有名なプランバナンには行きませんよ。なんせ、有名だし、広いし、広いと疲れるので。
でもなんで観光地っていうのは「順路」が大抵決められていて、その通りに歩いてしまうんでしょうねー。まー、もちろん効率がいいとかあるんでしょうが、もっと自由に見てもいい気がしやすね。あっしは。なんせ、人の興味は千差万別。彫刻にキョーミのある人もいれば、植物にキョーミのある人もいる。時間をかけて見たいところが違うのに、誰も彼も同じコースを、「はいはい、後ろがつかえてますよ」ってな観光は、もーそろそろいいんじゃない?
一生に一度のお伊勢参りだけが人生で一度きりの旅行だった時代じゃないんだから。
ってな講釈たれるところが、もうジジイの証拠。
ま、いいや、ジジイで。中年とか、壮年とか、なんか中途半端でしゃらくせえ!
前にも書いたかもしれないけど、辞書によると40から「初老」だ、ってんだから、もうそれをクリアしちまった俺はジジイで充分。よしっ、ジジイ宣言だっ!
ジジイなら立たなくても、
「しょうがないわね」
と許してもらえるし、もちろん「敬老優先席」にも、堂々と座れるしな。
よしっ、ジジイだ。
これから、「たま」の滝本は従来通り「Gさん」そして俺は「爺さん」と呼んでくれ。
呼びづらい時はGさんは「晃司さん」俺は「浩司さん」でいいぞ。
で、なんだっけ。ジジイは物忘れも激しいでな。あっ、プランバナンか。確かにそこでバスは降りたけど、そこでレンタサイクルを借りて、自転車で、
「ヤッホー!」
とその近くの、あまり人のいかない小さな寺院を回ったり、純農村地帯の住宅街を颯爽と走ったんじゃ。
なんせ、わしは昔「サイクル野郎」だったんじゃ。
あ、すぐに昔話になるのも、ジジイの特徴のひとつだぞ。
高校生の頃は佐渡を一周したり、群馬から徳島までひとりで走ったりしたぞ。凄いじゃろう。ほっほっほ。あ、昔話は必ず自慢話だからな。ジジイは。ジジイという生き物は。
で、久しぶりに青春気分に浸って、帰りのバス。
行きと同じく20円払うと、車掌の少年が「足りない」と言う。
「もう一枚だよ、お客さん」
と言う。
そこで俺は「ほほう」と思って、彼に言った。
「じゃ、今乗ってきたオッサンからも金を取りなよ」
仕方なく、少年はそのお客から乗車料を貰う。
で、パッとポケットにしまおうとするところを、
「待った!」
と言って、彼の手を強引に開かせる。
と、やっぱり20円だ。
「ほおれ見ろ、20円じゃねーか!」
と言うと、少年は、しまったという顔をして照れ笑いした。
その後、他のお客さんにどうやら、
「外人をぼろうと思ったら、バレちまったよー。しくじったよー」
と笑いながら話していたようだ。
ま、彼が誤魔化そうとしたのは、日本円では7円なんだが・・・。
さて、ホテルに戻ろうと歩いていると、さかんに、
「マリファナ、マリファナ」
と言ってくる男がいる。ジョグジャでマリファナ売りは初めてだ。
と、他の物売りと違って、しつこくついてくる。
俺はそういうドラッグ関係が嫌いだし、なにより暑いのに、しつこいので、でかい声で、
「マリファナ!? ゴー・トゥ・ポリス!」
と怒鳴ってやった。すると今度は何かわからないインドネシア語でゴチャゴチャ行ってくるので、俺は後ろに3歩下がって、指からパッパッと何かを呪術的にかけるふりをして、
「ユー、ダイ。ユー、ダイ。(貴方は死ぬ、貴方は死ぬ)」
と言って、かわいそうにと、泣くふりをした。
もちろん俺は「今、死ぬ」と言ったわけではない。何故なら、人は誰でも死ぬからな。ユーもミーもみんな死ぬわけだ。いつかは。
ところが、彼は急に青ざめた。ま、実際は肌が黒いから、青ざめたかどうかはよくわからんが。
それで彼は立ちつくしてしまったので、俺は去ろうとしたが、やっぱりちょっとやりすぎたかな、と思ってバッグから飴を取り出して、彼の方にニコニコしながら近寄っていった。
すると彼は、何が起きたのか理解出来ず、また俺が何か得体の知れない呪術をかけるのかと思ったのか、あわてて、近くにある大人の頭大の大きな石を持って、おびえながら俺に投げようと身構えた。
そこで思い出したことがあった。
数年前に、やはりインドネシアで日本人が殺されたのだが、それは木彫りの人形で撲殺された、というものだった。木彫りの人形だけに、やはり、
「ボクッ!」
という音がしたのだろうか。
で、さしずめこれから俺がその石で撲殺されたら、やはり、
「ストーン」
と死ぬのだろうか。
などということはあとで考えたことで、とりあえず、周りにいたベチャ乗り達が、
「よせっ、よせっ」
と仲裁に入って、事なきを得た。
しかし、彼はやはり怖かったろうな。きっとそんな得体の知れない抵抗に会った事はないだろうからな。
すまんな。俺にしつこく声なんてかけるから、わけわかんない事になるんだぞ。
ちなみに、日本でも俺はよく似たような事をしてた。
駅で新興宗教の勧誘や、アンケートを装って何かを売りつけに声をかけてきた人には、笑顔で、
「ガチャナハーレー、ウリウリスボロゴーダー、ハハハハッ!」
とわけのわからない声でニヤニヤ笑いながら、相手の目を真っ直ぐに見ながら、徐々に顔を近づけて行くのだ。さすがに、そういう場合の対処の方法はマニュアルに書いてないので、みんなどうして良いかわからず、凄く怯えるぞ。でも、別に暴力を振るっているわけでも、怒っているわけでもないもんねー。
みんなも一度、試してごらん!
夜は、バンダナにマッサージしてもらう。今日は思い切って2時間にしてみたが、2時間だとやはり集中力が足りなくなるのか、イマイチだった。★★★★。
東海林さだお「トンカツの丸かじり」読む。
10月23日(水)
きのうから、ちょっとゲーリ・クーパー。
おまけに今日はトイレに長く居すぎて綺麗字で、痛い。
朝食、昼食、夕食ともに、それぞれ違う風通しのいいレストランに行き、iBookを持っていき、2~3時間ずつ居座って、1カ月たまったホームページの日記なぞ打ち込む。ジャワ島で中国の事なんて書いている。
しかし、あるレストランで、オナラをしたつもりが、ゲーリー・クーパーで大変なことになったが、そこはパソコンで仕事をする、エグゼクティブ・ビジネスマンである。余裕の表情でトイレに行き、大慌てでパンツを捨て、お尻をフキフキして、何事もなかったようにノーパンでパソコンを打ち続けた・・・。
夜、バンダナのところに行くと、隣の部屋から女の子が出てきて、
「もう少しで戻るから、あたしの部屋で一緒に待とう」
ってな感じのことを言っていたので、白いタイルの、6畳ぐらいの、部屋なのか、それともこれが一軒の家なのかわからない微妙な空間で、子供とふたりで、テレビをしばらくボーッと見ていた。
不思議な時間だった。ここがいつで、どこで、俺が誰だか、一瞬わからなくなった。
でも、そんなこともわかんなくてもいいや、という気もした。
ただ、生きている、ということだけ。
それだけでいいじゃないか、と思わせる南の国の魔術があった。
しばらくして、バンダナが戻ってきた。
白い帽子を取ったので、
「Pray?(お祈りに行ってきたの?)」
と聞くと、そうだ、と答えた。モスクで夕方のお祈りをしてきたらしい。
ジャワ島は圧倒的にイスラム教だ。ちなみに、隣のバリはヒンドゥ教が最も多い。
でも、今、日記を書いている現在、バリのテロがどうやらイスラム教過激派が起こしたらしい、という情報を知ると、複雑な気持ちになる。もちろん市井のイスラム教徒がすべて悪いわけではないが、どうしてもニューヨークのテロから引き続きだから、白い目で見られるであろう。
でも俺は常に思うのだ。
宗教でも「国」でも、基本は「平和」を望んでいるのだと思う。
悪いのは、元が何であれ「集団」なのだ。
「集団」になることで、変化してしまうものがあるのだ。「集団」になれば、必然的にその中で派閥が出来、階級が出来、そんな中でゴチャゴチャしているうちに、本来の教義の拡大解釈から、他の宗教、民族を襲う等の行動が出てきてしまうと思うのだ。
だから、この世で最も悪いのは俺は、個人の意志が反映される範囲を越えた「集団」にあると思う。
宗教なんて心の問題なんだから、みんなひとりでやればいいじゃないか。
何をかたまる必要があるのだ。マインドコントロールされるだけだ。
あらゆる「集団」は殺戮予備軍だ、と俺はまじめに思う。
「今夜が最後で、明日、日本に帰る」
と言うと、バンダナは特に念入りに全身を使ってやってくれた。もちろん★★★★★だ。
俺は初めてチップを渡して、
「シーユー、アゲイン!」
と手を振った。
マッサージを出てしばらくした路地にベンチがあり、ここで生暖かい風に吹かれながら煙草を一服するのが好きだった。路地は、たまに人やバイクが通るだけで静かで、電灯の代わりにおぼろ月が、必ずかすかに夜を照らしていた。
小林聡美・平野恵理子「サボテンのおなら」読む。
10月24日(木)
バリへ帰国の為、ジョグジャより戻る。空港で手荷物以外のリュックを預けようとしたら、
「テロの危険の為、荷物預かり所閉鎖」
で、「そんな~」と思ったが、ハッと思いつき、クタのデパートへ。案の定、入り口に買い物者用の荷物預かり所があったので、そこに預け、こっそりデパートはあとにして、すぐに近くの「指でか」マッサージへ。
「おぉ、一週間もどこ行ってた~!」
と言われて、両替が少し残りそうだったし、時間もまだあるので、
「2時間やっちくり~」
と言って、
「あんたも好きねぇ」
と笑われる。★★★。
デパートに戻り、最後のジュースまとめ買い。結局、今回のバリ &ジョグジャでも50本ほどをゲット。でもたいがいは現地ですぐに飲んでしまったので、荷物はかさばるが、さして重くはない。
と、おおっと、入り口のところにフット・マッサージがあるじゃないか、ですぐさま飛びつく。まさにマッサージこ○きだな。一所懸命やってるが、ツボにうまく入ってない。うーん。★★。
最後はひとつバリの日本食でも食ってみるか、と思い大手日本料理屋「福太郎」へ。なんせ、
「サービス寿司セット150円」
と書いてあるので、まずくても150円なら、話の種になるわい、と思ったのだ。
ところが店に入ってみると、
「テロの影響の為、サービス寿司セットは只今、中止しております」
と、テーブルについてからわかる。
「しょーがねーなぁ」
とメニューを見ると、なんと他にも寿司はあったが、値段がいきなり10倍!
こりゃ、サギでしょ。せめて店の前に「現在サービスセットはありません」と書くべきでしょう。俺はなんとか金があったからいいけど、貧乏旅行者が150円に釣られて入ってきたら、怒るだろー。
で、結局カレーライス500円を頼む。緑茶もたのむが、130円取られる。日本では「ただ」の感覚の「あがり」が「サービス寿司セット」とほぼ同額、というのも解せんなー。
まだ小銭が余っていたので、ええいままよ、とデザートのかき氷もオーダー。
しかし「福太郎」さん。このかき氷にはひとつだけ言いたい。
アズキとアボガドのコンビネーションは、合わんぞ。
空港までタクシー。運ちゃんは空港に着くと、
「人が誰もいない。いない。いないいない・・・」
と泣きそうだった。
そうだよな、普段だったら夜に着く便が多いので、国際線は観光客で人だかりなのに、ガラーンとしているんだもんな。
テロの影響はどのくらい続くのだろう。このまま何もないとしても、半年は駄目か。
もう一度何か起きたら、観光が主産業のこの島は、死活問題だろうな。
ちなみに日本に帰って週刊誌でバリのテロの被害現場を見たら、凄まじかった。
黒こげになって、男女の区別もつかない死体が累々と横たわっている。
あれを見たら、さすがに行く気にはならんわな。
しかし、テロはどこで起きるかわからない。
確かに今、バリは「危険勧告3」が出ているが、現に日本だって、オウムのサリンテロの時は、やはり「危険勧告3」だったのだ。というか、「毒ガス」という目に見えない得体の知れない物で、しかも無差別。今回のバリより、さらにタチが悪かったわけだ。
そしてその時、これから日本はどうなるかわからなかったというのに、だからと言って、次の日、その事件の起きた近くですら、会社や学校が休みになったという話すら聞かない。日本人の勤勉さは、死をも乗り越える、というわけか。う~む。
ま、テロだろうが、地震だろうが、交通事故だろうが、病気だろうが、死んじゃえば同じか・・・。
メメント・モリ! (死を想え)
椎名誠「カープ島サカナ作戦」読む。
10月25日(金)
昼過ぎに帰宅。たまったメールに返事を書いたり、掲示板をチェックしたりする。みんな心配してくれてたんだね。サンキュー!
夜は「ニヒル牛ナイト」の打ち合わせ。
中島らも「愛をひっかけるための釘」読む。
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振り返り人生(もっと過去の日記を見る)
石川浩司のひとりでアッハッハーに戻る