石ヤンのテキトー日記00年8月(1)

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8月15日(火)

 R君と、近所の新・古本屋(?)「BOOK-OFF」に行く。と、元々安いのだが、セールとかいうことで、漫画単行本一冊20円とか、文庫本セット5册で100円とかやっている。消費者としてはもちろんウッヒョヒョヒョヒョーッと嬉しい限りだが、同時にムンムム、ムムムとちょっと複雑な気持ち。読書をそれなりにしてきた者に取って、あまりにも安すぎて、「俺は缶ジュース1缶の6分の1の20円の社会的価値しかないものに、夢中になり、青春を捧げてきたのか」と思ってしまうのだ。
 俺は高校時代、成績はそれはそれはあっぱれなもので、物理の教師にテストの結果発表の時に名指しで「石川は努力をしないのにも、程がある。ちょっとだけでも学習していれば、こんな点を取る奴はいない!」と言われて赤点をバシバシ叩き付けられた輩だが、その分、本だけは「一日一冊」を貫いて読んでいた。教科書の中に文庫本を隠して、毎日、授業中も延々読み続けていた。もちろん読みやすい、小説やエッセイなどが圧倒的に多かったが、とにかく乱読の鬼だった。思い返してみても、筒井康隆、寺山修司、遠藤周作、星新一、曾野綾子、新田次郎、宮脇俊三、渡辺淳一などはほぼ全編読破していた。もちろん漫画も単行本を古本屋で買っては、つげ義春や山上たつひこなどは何度も何度も読み返していた。
 そしてさらに、自分の単独の著作も3册あまり出した現在となっては「この値段はいくらなんでもないんじゃな~い」という感じなのだ。「文庫本100円均一」ぐらいまではなんとも思わなかったんだけどなー。20円はなんかねー。
 突然段ボールの蔦木栄一が俺の為に書いてくれた「超簡単物語」という歌の歌詞の中で、
「値段でわかる物の価値」
 という一節のくり返しがあるのだけど、まさにそーいうことなんだろーなぁ、今という時代は。まーいいか。なるよーにしかならないからな、この世はなー。

 きのう、ニヒル牛の通販コーナーをこのHPで新設した。やっぱり「ある人にとっての宝物」はなるべくその人の手元に行った方が幸福だものな。他のところでは基本的に手に入らない物も多いしな。もちろん実際に来店して手に取ってみるのがなによりだけど、地方の人ではそうもいかない人も多いしな。ということで、早速申し込みが2件来た。これからも出来る限りはこまめに更新していくので、ご利用のほど、よろしく願いまーす。

8月14日(月)

 昨日、R君が自転車の鍵を近くのレンタルビデオ屋の前でなくし、しょーがないので昼間その鍵を切断する作業。最初ペンチのような物でやっていたが、そもそも工具をなるべく使わないで人生をやってきたツケがそこに。
「とりゃっ、とおりゃっ!!」
 とかけ声ばかりいさましくても、鍵のロープはびくともしない。普通なら鍵とか切断していたら自転車泥棒と間違われないかともっとドキドキする俺たちだろうが、その切断の様があまりに時間がかかって、フーッフーッ言っている様子は、どー見ても泥棒のそれじやないことは、まわりにいたすべての人のさり気ない苦笑からもはっきりわかった。クショーッ!! いつまでやっても埒が開かないので100円ショップに駆け込み、「金切りノコギリ」というのを買って来て、30分かけて汗だくになってふごふご言いながらやっと切断。たぶん普通の人なら5分もあれば切れるかもしれないが、『特殊不器用技能保持者夫婦』なので、切れただけでも、みなにその瞬間、
「ブラボーッ!!」
 の歓声と打ち上げ花火くらいドカンとあげてもらいたかったぐらいだ。歓声があがったら、ゆっくりそちらを振り返り、天皇のように手を振るぐらいの準備は出来ていたのにな。というのは嘘だけど。本当は一刻も早くその場から立ち去りたかったので、逃げるように自転車を走らせた。

 夜は富山から大谷来たのでマージャン。もうひとりのメンツを電話やメールで探しまわったが誰もつかまらず、サンマ(三人マージャン)。サンマはよりギャンブル性が強くなるので、普段よりツキが大きく作用する。結果、日本海の荒波がホタルイカとともにザッパーンと炸裂・・・
「持ってけ、お中元だ。バカヤロー!」
 大谷がその長い顔をさらにさらに長くし、その短い足をさらにさらに短くしてほくそ笑んだ。
「毎度あり~」
 くそお。

 本日、このHPのカウントが遂に10万アクセスを達成。8ヶ月と6日。ライブハウスだと、中堅どころでキャパがだいたい立ち見で200人ぐらいだから、それ500回分か。そう考えると、なかなか凄い数字だな。素直に嬉しい。キャッピッ!

   8月13日(日)

 約2年振りぐらいに突然段ボール(バンド名だよ、ちなみに)と俺のユニットのライブがあるので、そのリハーサル。突然段ボールと言えば俺の日本の音楽的には最も尊敬するアーティストで、一緒にやれるのが本当は涙が出るくらい嬉しいのだが、その分逆にいつまでたってもある一定の緊張が取れない。なんせ俺にとっては洋楽のビートルズか、邦楽の突然段ボールか、というぐらいだからな。これから突然段ボールがいかにすごいか(只今酔っぱらって書いているので)書けば、延々朝までもいけるが、それはとりあえず読者の皆様よ、勘弁してあげるから、とにかくものすごく俺が影響を受けたバンドだということだけは覚えていてくれい。で、久しぶりのユニット・ライブなんだが、実は突然段ボールというのは兄弟でやっているバンドなのだが、今回、兄がちょっと事情によりライブに出られない、ということで、今まで俺と兄が交互にボーカルを取るスタイルを取っていたのだが、全曲俺がボーカルを兄の分まで取らねばならなくなってしまったのだ。その代わり、今回は3人の二十歳の娘さん達がコーラス隊として参加してくれることになった。はっきりいって、音楽的にコーラス隊が入る、という音楽ではないと思うのだが、それは今回のアンバランスの妙味として、たっぷり堪能してもらいやしょう。予定調和はゲージツの最も反対語だから、どーなるのか俺たち自身もワクドキ。
 ということで八王子のたまスタジオでリハーサル。いつもはオマちゃんが機材車を運転しているのだが、小笠原に仕事(リング・リンクスというバンドのライブのPA)で行っているので、その間、車はGさんが預かっている。で、俺のリハーサルがあるので、前回のライブの時、
「俺のパーカッションの道具、スタジオに降ろしておいてねっ!」
「あいよっ!」
 ってな感じで話していたのだが、スタジオに行ってみると、見渡せる所にそれらしき物がない。仕方ないのでGさんに電話してみる。
「Gさん、パーカッションのセット、降ろしてくれたよねぇ?」
「・・・うっ!」
 ということで、すっかりパーカッションなしの、ボーカル練習だけのリハーサルに。まぁ、どーせパーカッションはたま以外は即興だから、関係ないっちゃあ、関係ないんだけどね。
 でもさすがに2年のブランクは大きく、曲をかなり忘れている。基本的にパソコンで作ったカラオケ状の物にギターと、ボーカル、パーカッションが重なっていく、という構成なのだけど、カラオケがよーするにシーケンサーなので、あまり抑揚がなく、イントロからの入り口や、間奏の長さがつかみづらいのだ。
 とにかく、その結果は今月の27日、榛名山と高崎のお祭りで一日2連チャンやって入場無料なので、暇な人は夏休みの小旅行がてら見にくるよーに。
 夜はニヒル牛に顔を出してから帰る。ニヒル牛には週に2回ぐらい、閉店間近に遊びに来ている。ので、俺がいる時しか出来ない「糸電話リサイタル」をやりたい人は閉店真際に通っていれば、いつか会えるぞ。よろしくな。

  8月12日(土)

 家中、バルサンを焚き、その間ウッ、キャーッと避難する。今年の夏はチャバネゴキブリが大繁殖したからな。実は数日前にゴキブリホイホイみたいな奴を仕掛けたのだが、「ちょっとはかかってるかな、ふふ」と気軽な気持ちで覗いたが最後、ブクブク泡吹きながら卒倒しそーになったぐらい多量の足が蠢いていたからな。へたすれば、そのホイホイの「家」自体が中にいるゴキブリの力でズザーッとこちらに移動してきそうなぐらいだ。ゾゾーッ。あと、蟻も多いぞ。一列になっておギョーギ良く行進している。でもこれは、ケーキ、饅頭、シュークリーム、チョコ、菓子パンと家中に常に甘い物が馬鹿みたいにあふれかえっている馬鹿みたいな我が家が悪いんだろーがな。とにかくバルサンで少しは殺したはずだが、よく考えてみれば、目張りをして逃げ場をなくして殺しているんだから、その死体は本棚の裏とか、見えないところに累々と朽ち果てているわけか。そんな死骸だらけの部屋でのほほんと生活をしている、っていうのも考えてみれば結構気味の悪い話だな。

 夜、ネパールの最近の事がなんとなく気になり、検索でネパールのページを見つけ、「最近のニュース」というのを読んでいたら、ネパールは王国なのだが、そこの王子がバイクを撥ね、著名なミュージシャンを即死させた、という記事が載っていた。あんな小さな国で著名なミュージシャン・・・3月にネパールであったイベントで共演した人だったりしてね、なんて軽く思っていた。
 するとその夜、たまたまネパールのアヤコさんからメールが来て、なんと亡くなったのは、俺たちをネパールに呼んでくれた「ナマステバンド」のギターの人だということでビックリ。相手がロイヤルファミリーなので、なかなか難しい問題なのだそうだ。どうやら運転していたのを王子じゃなくて別の人間だ、ということにして身替わりをたてる計画まであって、うやむやにされる可能性もあるらしい。国情が違うのでコメントは難しいが・・・。とにかくご冥福をお祈りします。

8月11日(金)

 昼は事務所へ。通販の作業や、ファンクラブ会報誌のインタビュー等やる。
 夜、変な時間に2時間程昼寝(?)してしまう。といっても夜11時ぐらいなんだけどな。でもその時間は俺にとってはバリバリのまっ昼間で、
「さて、お天気も良いし、洗濯でもしましょうかしらん~。ラララーッ」
 という時間なのだ。なので、朝方でもまだ元気。ということで自転車でハイヨーッと漫画喫茶へ。この時間なら、さすがに漫画喫茶もガラガラだろう。なんせAM6時だからな。と、なんとマッサージ席は満室ではないか。おいおい、わしゃー、どんな時でも肩を揉まれたいんじゃぁぁぁぁぁ!! 肩凝りは慢性病なんじゃぁっ。その為に行っとるんじゃあっ!! なんでこんな早朝からマッサージで体ほぐしとる奴がこんなにウジャウジャいるんじゃいっ!!
 前にも書いたが、俺にとっては、漫画喫茶じゃなくてマッサージ喫茶だからな。しかししょうがない。案外俺みたいな暮らしをしている輩が多いということか? そしてストレス(?)からマッサージを所望している輩が多い、ということか? でも気に入らないのは、マッサージ席にいながら、耳をそばだててみると、ウィーンウィーンという独特のマッサージ機の音が聞こえず、ただゴロゴロ漫画読んでるだけで、マッサージ機を使ってない奴がいることだ。てめーらに俺さまの幸福のひとつであるマッサージ席に座る資格はないっ!! 俺にゆずって、別の席へ行けーっ!! プンプン。

 そういえば「誰でもピカソ」の放映があったらしいが、すっかり見忘れた。ほとんどテレビにはこれしか出てないので、そもそも「7/28放映です」と言われていて、ビデオのリモコン握りしめ、今や遅しと見ていたのだ。なのに写らなくて、次の週も全然出てこないので、てっきり何かの理由で放映を見合わせたか、と思ったのだ。
 番組を見たいのは、どのコメントが使われたかが、多少気になるからだ。だいたい放送される3倍ぐらいのコメントを実際は収録しているので、編集でどのコメントが使われたかわかれば、「ほほ~っ。ああいうコメントは使われやすくて、意外にこういうコメントはカットされるのかぁ・・・」という勉強にもなるからな。

8月10日(木)

 R君がニヒル牛のミニコミを作るという。その中で俺へのインタビューをやりたいのだけど、夫に直接インタビューはやりづらいので、オーナー相棒クニちゃんが俺へインタビューすることになった。いつもは家に来ることが多いのだが、今日はクニちゃん家(島田家)に行ってやることにする。ちょうど御飯時になりそうだったので、冗談で、
「じゃあ、ついでにクニちゃん家で御飯大会にしよう」
 と言ったら、てっきり、
「なーに、それ家で御飯食べさせろってゆーこと!?」
 と聞き返してくると思ったら、なあんにも考えずに、
「えーーーーっ。わかったーーーー。」
 の答え。
 いいんかい。それなら、これから毎日君の家で朝昼晩、御飯大会だ。
 もちろん、出て来たおかずはギョーザだということは、クニちゃんのことを少しでも知る人間なら当然のことだ。

 夜中はずっと、ニヒル牛のタワーの写真を一枚ずつアップしていく地道なプログラム作業。合間に、インターネットの検索で何気なく「山口百恵」を調べてみたら、ヒット曲がぜんぶ聴けるこんなサイトがあった。これは違法か? 別にかまわないのか? わかんないけどとにかく、懐かしの歌声にしばし酔った。久しぶりに聴いてみると、結構百恵ちゃんも演歌的な発声なんだな。しかもドスも効いている。それも時代の移り変わりということか。やれやれ。俺も、おっさん。わっはっはーっ。

8月9日(水)

 「暑中見舞」最終日。今日はGさんがメイン。Gさんの曲は繊細だったり、リズムが入り組んでいる物が多い為、案外気が休まらない。しかしなんとか無事フィナーレを迎え、打ち上げもそれなりに盛り上がり、無事一日が終了したかのように思えた。
 ・・・しかし、悲劇はそこから始まった。
 打ち上げ終了は午前一時半。俺の家は埼玉県某市なので、当然、電車はない。以前なら、終電で「お先に~」と帰るか、「朝まで、飲むかぁ!!」と勢いづくか「マージャンのメンツいなーい?」か「オマちゃん、車で家の近く通らな~い(猫撫で声)」のどれかだったが、今日からの俺は違う。
 そう。この隣の駅である西荻窪に「ニヒル牛」があるのだ。そこで寝っ転がってもいいし、ちょうどホームページの為にビデオの追加も撮りたくて、デッキも持ってきていたので、その作業をマイペースでしても良い、とにかくひとりでのんびり、始発までそこにいて休めばいい。
 そちらの方面に行く何人かとタクシーを相乗りして、西荻窪駅前で「お疲れさまーっす!」とか言って歩きだす。飲んだあとは甘いものも欲しくなるので、ひとりニヒル牛店内で食べようとセブンイレブンでチョコ「ロッテ 霧の浮船」も購入、快適準備、万端だ。はぁぁ、都内に居場所がある、っちゅうのは田舎暮しにはよかものよのう、ほんなこつぅ。とちょっぴり得体の知れない方言まじりに思ったりもしたもんだ。
 ところが。
 「ニヒル牛」の鍵が開かない。
 俺のキーホルダーには5つの鍵がある。ひとつは家の鍵。みっつは事務所のビルの入り口、事務所、スタジオの鍵。そしてもうひとつがこのニヒル牛の鍵。事務所関係の鍵には「1F」とか「玄関」とかわざわざ書いてあるし、家の鍵はちょっとぶ厚くて特徴的なので、ニヒル牛の鍵は消去法でひとつしかないので、間違えようがない。しかも今まででも何度か開け閉めしたことがあるのだから、問題なく開くものだと思っていた。
 ところが。
 何度やっても開かない。時間はすでに午前二時も回っている。こんな時間にシャッターを開け、あまりガチャガチャしてては、上に住んでいる大家とかにも怪しまれるかもしれない。いつも大家に挨拶はR君やクニちゃんなど別のスタッフがいっていたので、俺は面識もない。怪しい輩が強引に鍵をこじ開けているように見えたら・・・。もしも110番とかされたら、なんと弁明したらいいんだ。
警官「どうしました?」
大家「変な坊主頭で顔が米みたいな男が、店をこじ開けようと30分もガチャガチャやっているんです!」
俺「いや、僕はこの店の者なんですよ」
大家「いいえ。こんな人見たことありません。いつも来るのはちょっと太った女性(R君)か、ちょっとネジがずれているような女性(クニちゃん)ですから。こんな人、知りません」
警官「君、ちょっと鞄の中を見せてくれるかね」
俺「は、はい・・・」
警官「ビデオカメラと汗ビッショリのランニングと半ズボン、そして「ロッテ 霧の浮船」・・・署までご同行、願おうかぁっ!」
 あぁぁぁーっ、そんな馬鹿なーっ。小学校一年生の時、友達とマッチ遊びをしていろんな物に火を付けて遊んでいたら近所の空き地の草が、異様なほどよくボーボー燃えちゃって、近所の人に通報されて「ちょっと君たち、警察に行こうね」と言われてパトカーに乗せられて以来、警察のやっかいにはなっていないというのにー。
 家に電話してみたりしたが、鍵が変わったなんてことはもちろんないという。
 仕方ない。開かない物はしょうがない。かといって、今からひとりで飲み屋に入る感じでもない。そうだ! 24時間の漫画喫茶みたいなところで時間をつぶして始発で帰ろう。
 早速西荻窪の駅の周辺を彷徨い歩くが、それらしい物は全然ない。と、やっと一件、「漫画喫茶○○」のライトがビルの上に煌々と照らされていたので、
「ふぅーっ、助かったぜー」
 と思ったら、広告塔だけが電気を灯けていて、店自体は閉まっていた。
「意味なく、俺をまどわすなっ、ちゅうねん!」
 妙にイライラしてひととおり東西南北歩いてみたが、どこにもそれらしきものはなし。と、遠くの方に「ユザワヤ」の看板がうっすら見えた。「ユザワヤ」と言えば、吉祥寺の駅前のデパート。そうだ。あそこまで行けばなんとかなる。天下の吉祥寺駅前なら、いくらでも漫画喫茶なんて開いているだろう。
 もしも途中であればそれはそれでいいので、吉祥寺までひと駅歩いていくことにした。すでに西荻窪じゅうを歩き回っていたので、汗で体はビショビショに濡れていて気持ち悪い。しかし着替えももちろんないし、しょうがない。とぼとぼと、高架下を歩いていく。途中、「不審者を見かけたら110番」とかやたら立て看が出ていて、
「俺は違う、俺はただ歩いているだけの一般人だぞー」
 とブツブツひとりごとを言いながら歩いていく。途中、高架下の道が途切れ、少し広い道を迂回していく。時間は午前3時を回っている。と、歩道を歩いていると、車道の方からふたり乗りのバイクの兄ちゃんたちの声が聞こえる。
「絶対、そうだよ」
「まじだって」
 やばい、気づかれたか。でも逃げてもしょうがないので、そちらの方はあまり見ずに、歩き続けた。
 と、しばらくして、バイクの音が徐々に俺に近付いてくる。やっぱりきやがった。
「あのーすみませんー 『たま』の人ですかー」
「はい」
「こんなところで、何やってるんすかっ!?」
「・・・・」
「あっ、応援してますから、がんばって下さい」
「どうもー」
 結局、握手だけで済んで、別に柄の悪い連中じゃなかったから助かったが、「何をやっている」と聞かれても・・・
「今日ライブがあって、打ち上げが終わって、あっ、俺西荻に店持ってるんだけど、そこに行こうとしたのね。「ロッテ 霧の浮船」持って。そしたらなんか鍵が開かなくて、しょうがないから始発まで時間つぶそうかと漫画喫茶を探したけど、懸命に探したけど西荻にはなくて、しょうがないから、今吉祥寺まで汗ダクダクで歩いて来て、24時間やっている漫画喫茶を探しているのさー」
 とまで、説明はできないからな。
 そして吉祥寺。
「さぁ、俺を休ませてくれよー」  と思い歩きまわる。が、・・・ないっ!!
 開いているのは牛丼屋と、カラオケボックスと、飲み屋だけ。漫画喫茶はあっても、どこも閉まっている。新宿には24時間の漫画喫茶がたくさんあるし、俺の住んでいる田舎町にだってあるというのに。
 座る場所もないので、汗グッショリになりながら、とにかく駅周辺を浮浪者のようにぐうるぐうる歩きまわる。
「なんでライブ終わったあと、こんなに運動しなくちゃならないんだよー。今日は『らんちう』がなかったからジャンプもなかったんで、運動量が足りないというのか。・・・勘弁してくれよー」
 結局、「いい娘いますよ」のキャッチの兄ちゃんに声かけられたぐらいで、へとへとになるまで歩き続けた頃、やっと駅のシャッターが開いた。転がりこむように切符を買い、中に入ってベンチにしゃがみこむ。
 これから始発の来るまで30分、乗り換えの駅で待ち時間が30分と15分。結局家にたどり着いたのは朝の6時をまわっていた・・・。

 ちなみに鍵だが、家でR君の持っているのと照らし合わせてみたら、明らかに違っていた。どうやら、事務所を引っ越した時、その元事務所の鍵とニヒル牛の鍵を混同して、ニヒル牛の方の鍵を、
「こいつはもういらないやつだ。えーい、捨てちまえっ!」
 してしまったらしいのだ。
 ・・・馬鹿は、俺ひとり也。

8月8日(火)

 「暑中見舞」ニ日目。今日は俺のボーカル特集。サポートはライオン・メリィさん。「ツルラのテーマ」とか「カニバル」とか「お尻おできブルース」とか、アンコールでは久しぶりの「誰も起きてこないよ」などもやる。俺のボーカルが続くのでMCは知久君に物販の案内などやってもらったが、これが誠に「宗教講演」をパロっていて、抜群にうまく、というか、うますぎてちょっと引いた。
「みなさん、まず私を信じて下さい。信じることから、すべては始まります。本日特別にお出している『ミレニアム福袋』。売れ残った昔のグッズを集めて袋に詰め込んだだけじゃないか、と言われる輩もいると聞きます。が、私を信じてください。この福袋の中には、私達の『気』がたくさん詰まっております! 幸福はここからやってきます。どうか私の目を見て、この福袋をお手に取ってみてください!」
 と言って目をキラリ。時に抑揚をつけ、ある時は優しく諭すように、ある時は語気を強める。こいつまさか本当にやってたんじゃあ・・・。

 知久君は実は乗ってくるとMCはうまい。しかしたまたま乗れないと全く喋れない。まぁ、これは知久君だけじゃなくて、メンバー全員に言えることだが。そればかりは三つ子の魂百まで、バンドを16年間、おそらくソロも含めれば1000回ぐらいライブをやっているのに、全く進歩しない。だからよく人は「信じて努力すれば、何でもかなう」なんてことをもっと「326」や「相田みつを」調にカッコイイ言い回しで言われたりすると、ついふらふら~とそんな気になったりして、無駄な努力ばかりをシーシュポスのように延々ふらふら~とくり返してしまう事も多いと思うが、もちろんそれは大抵錯角だから、やっぱり人は自分の得意分野を伸ばす事を考えた方が、絶対楽しいと思うなぁ。ま、だからと言って本当になーんのの努力もしないのはそれはそれで・・・だけど。

 二回目のアンコールは「どっこいしょ」(正式曲名は「どっこいしょ どっこいしょ」)だったので客席に乱入し、ちょうど空いていた椅子がひとつあったので、その上に登った。登る時「そのままサンダルのまま登った方がいいか。俺はロッカーなんだから」と一瞬思ったが、(というか、ロッカーはサンダル履いてないが・・・)
「かっこ良さより、礼儀!」
 とサンダルを脱いでその上にすっくと立ったら、Gさんが突然、
「皆さん。実は石川さんのあのランニングはオーダーメードなんです。なぜなら、普通のランニングだと、生地が薄くて乳首が透けてみえてしまうので、特注でぶ厚い生地で作っているのです。しかし、御覧下さい。今日は、ぶ厚い生地なのに、汗で乳首がクッキリ透けてみえております!」
 と、俺は途端に白百合の乙女のように恥ずかしくなり、
「みんな、見ないでぇぇぇぇ!!」
 と、胸を手で押さえてから、サンダルをランニングの中に突っ込んで臨時のブラジャーとした。くそう、今度からはニップレスを付けねば。世界的にも珍しい「ニップレスミュージシャン」だ。しかし客席のどこに「中年ホモデブ専」が潜んでいて「ウッシッシッシシシ」とヨダレを垂らしているか、わからないからな。怖い、怖いぜ。バンド稼業もな!

8月7日(月)

 今日から3日間、「たまの暑中見舞」ライブ。吉祥寺のスターパインズ・カフェにて。さぁ、張り切るぞーい、と家を出た途端、ランニングを忘れた事に気付き、あわてて取りに帰る。なんせランニングがなければ、「たま」にはなれないからな。ところで今日からサポート・キーボード初お目見えの鈴木アキラさんは、リハーサルの時、俺がTシャツ姿だというのにランニングでやってきていたので、
「本番でもランニングっすか? 『たま全員ランニング化計画』でも押し進めましょうか!」
 と言ったら、即座に、
「嫌です」
 と言われた。何故だ。全員坊主頭でランニングでなおかつデブだったら、世界的にも珍しいビジュアル・バンドになれるチャンスだというのに・・・。
 ちなみにアキラさんは、元サンディ&サンセッツやラジオバンドで活躍していたキーボーディストで、今回、一般募集したサポートメンバーで唯一の合格者だ。「アルカンクラッシュ」というちょっと不思議なホームページも持っているので、興味を持った人はチェックしてみてくれい。

 てなわけで、今回のライブの企画は、しょぼたま+メインボーカル特集で、一日ずつ日替わりで、ひとりの人がボーカルを取り続ける、という物で、本日トップバッターは知久君。でも自分のボーカルじゃなくても「南風」とか「方向音痴」とか「牛乳」とか「らんちう」とか案外暴れ回る曲が多く、調子にのって踊り狂ってすっ転がって膝を擦りむき、血を流した。まさに流血ライブだ。かっこ悪い方のな。
 実は俺は普段パーカッションセットのところで、延々膝立ちして叩いているので、膝の皮が薄くなっており、ちょっとしたことですぐ擦り剥けてしまうのだ。でもGさんに、
「いつも膝立ちしているなら、逆に皮は厚くなるんじゃねーか」
 と言われたが、そうはなっていない。でもずっと座りっぱなしの事務仕事をしている人は、(男に限り)玉袋が常にある程度の力で圧され続けているけど、銭湯であんまり玉袋の皮がぶ厚くなって困っている事務職の人は見かけないからな。体の部所には、鍛えられるところと、すり減っていくところがあるんだろうなぁ。誰か、科学的な解答を俺にくれい!

8月6日(日)

 ニヒル牛へ。今回はデッサン用の小さな彫像に「乳」とか「腹」とか「しり」とか落書きをした作品を出展。どーせオブジェは売れないが、ただやりたいだけだから、見てくれさえすればそれで良し。というか、「買う」という奴がいたら思わず詰問してしまうだろう。
「・・・何故だ!? 何の目的で買うのだ、あんたはっ!?」と。
「ポエム・フォー・ユー」や「ため息犬ノート」はそこそこ出ているので追加してくる。
 そういえば、最近大谷が出品した「男の友情-大谷&石川写真集」(600円)の売れ行きがいい。まぁ、写真集といっても昔の写真を満載したコピー紙を閉じただけのミニコミ的なチープな作品だが、ロングヘアーで痩せている俺の姿が見たい人は、必見だぞ。見たくない人は、必見じゃないぞ。さりげなく知久君とか健さんとかの20年近く前の写真も出ているので、なかなか貴重&しょーもない資料だ。ちなみに「ニヒル牛」以外では一切取り扱っていない。馬鹿馬鹿しすぎてな。
 それから、このHP用の「ニヒル牛 全箱紹介」用にタワーが増えた分、ビデオをひとつずつ回す作業を地味にやる。箱の中なので影になったりしてなかなかきれいに写らず苦労する。
 明日から小笠原に仕事で出かけるオマちゃんやってきてくれて、車で家まで送っていってくれる。

8月5日(土)

 スタジオにてリハーサル。夕方になったら、外で発砲事件のような生臭いドンパチした音がしているので出てみると、近所で花火大会をやっているようで、メンバー全員でビルの非常階段をてっぺんまでガッコンガッコン登って、眺める。非常階段は古くて錆び付いているので、風ぐらいでふうわり揺れて、「おいおいおい」とちょっと怖い。
 で、花火はきれいなんだけど、やっぱり最近はあまりにも景気よくガンガン打ちあがりすぎて、昔のように「○×商店提供のスターマインです」とか放送しながら、一発一発をイマカイマカとじっくり待っていて「おぉ、そろそろか!? ・・・来るか、来るか・・・来たぁ! たまや~!!」というのより、風情が損しているよーな気がした。でもこれがもうすぐ21世紀、ということなんだね。しょうがないね。
 しばらくすると、Gさんのおじさんで、この事務所とスタジオを斡旋してくれた不動産屋さん夫婦がやっぱり非常階段をガッコンガッコン登ってきて、しばらく一緒に眺めてたら、
「たまには一杯いくか」
 ということになり、まだ仕事は残っていたが、中抜けして一杯飲みにいくことにしたが、実際は三杯ぐらい生ビールのジョッキをクィィィィッ、プッハァァァァと開けてしまったのは夏の過ちなのでしょーがない。人生ってえのは、しょーがないことだらけだからな。
 と、そのうちその飲み屋におじさんの知り合いのビデオ屋の店長、という人が来たのでおじさんが、
「あっ、紹介するよ。これ、たまちゃん達。俺の甥っ子」
 とかいったら、
「えっ!? あの『今日~人生の~』の!?」
 と歌詞は全く間違えて演歌になっている。がともかく絶句して、
「・・・俺、鳥肌立っちゃったよ!」
 ってそんなに気持ち悪いんかい、と思ったが、そういうことではなくて、ただただ驚いたようで、
「写真だ、写真だっ!」
 とビデオ屋に走って戻ってカメラを取って来たので、一緒に写真を撮ったら、
「これ、食ってよっ!!」
 とでかいスイカを半分くれたので、スタジオに帰ってから、みんなで仕事終わった後、かぶりついた。
 花火とビールとスイカ。まるっきり、夏の一日。

8月4日(金)

 最近、ヨーカンが好きになって、やたら食べてしまう。救いよーがない程甘いのが、なんだかたまんないんだよなー。ヌルッとした感触もなーんかいいし。若い時はあんまり分からなかったけど、「日本茶」に合う甘さ、ってあるよなー。でもあのヨーカンやあんこの「甘さ」って、欧米人にはまったくわからないらしいぞ。「甘い」と言ったらチョコレートの甘さのようなものだけを言うのだそうだ。では、ヨーカンは欧米人は一体どんな言葉でその味覚を表すのだろーか。ま、とはいってもタイの辛さも韓国の辛さもインドの辛さも、日本ではみんな「辛い」だからなー。馬鹿の一点張りのように。味覚については、他のことに比べて何故か異様なまでに語彙が少ないような気がするのは気のせーだろーか。どこの国にとっても。

 100円ショップに行く。ニヒル牛製作用の物など買うが、「魚釣りをしている鶏」という、のほほんとしながらもシュールな置き物があり、つい購入してしまう。窓辺にちょこんと座らせて、釣り糸が風になびくのが、なんかいいぞ。ま、なんかったって、もちろんたいした「なんか」じゃ、ないけどな。とにかく馬鹿馬鹿しいので、馬鹿馬鹿しいものは、それだけで価値がある。俺には。

8月3日(木)

 本日もスタジオにてリハーサル。きのうの列車事故本体に乗り合わせていたJRの車掌さんから、今度の「暑中見舞い」ライブに「おやすみいのしし」リクエストのメールがうちに届く。80才の老婆が飛び込み自殺したそうで、「自殺者の体にデンデン虫はうよ」と歌う「おやすみいのしし」に弔いの意味でのリクエストだろーか。しかしそもそもなんでそんなメールがうちに来たかというと、この車掌さんは実はたまのサポートキーボードに以前応募した人だったのだ。残念ながら選にはもれたが。でももし受かっていたら、車掌として列車に乗って事故には合わずに、リハーサルしてたかもしれないのだな。不思議なものだなぁ。

8月2日(水)

 スタジオにてリハーサル。帰り、終電一本前の列車に乗ったところ、中央線が事故の為不通になり、国分寺での乗り換えに間に合わず。大勢の人が駅の事務所に殺到しているのでどーなることかと思ったが、4人ずつ相乗りで、タクシーで振り替えをしてくれることに。でもこの巨額なタクシー代は一体誰が払うのだろーか。やっぱり事故を起こした本人だろーか。だとしたら、とてつもない金額になると思うが。何故か一緒になった黒人さん達と、深夜のちょっと異次元なドライブ。普段通らない道を、全然知らない異人さん達とヒューヒュー走っているのがなんとなく面白かった。どこか知らないところに行ってしまいそうで、ちょっとワクワクした。でも帰宅できたのは夜中2時近く。

8月1日(火)

 マックが遂に完全ホーカイ。ネパールのアヤコさんからメールが来ていたので長文の返事を書き終えてフーッと一息ついて、送信する前に、あらあら午後のお茶でも優雅に飲みましょうかしらんと思ったら、画面が突然ハラホロヒレハラ~ハッパフミフミ~(ちょっと古い)になって、もう狂ったようにダンスを始めていて、もはや再起動もなにもない状態。文章ももちろん全部消えた。しかもきのうもこの日記をアップしようと、溜まっていた一週間分の日記をやっと書き上げて、その途端フリーズしたけど「へへん、そんなこともあるかと思って、こまめに保存しておいたんだよ」と余裕をかましていたら、再起動後、ファイルは残っていたものの、開けてみるとそこはなにもない真っ白な、まるで雪の北海道のような風情が延々と続いていた・・・夏なのに、季節外れのこんな景色もいいわね。なんて真っ白な無垢な世界なの・・・なんて余裕はねぇーんだよっ!! 2時間かかったんだよっ!! お馬鹿な文章書くのにもな!! と憤りの持って行き場がない為、とにかく覚悟して、フンゴーッと鼻息も荒く、マックを買いに行くことに。このホームページもあるし、最近は原稿の受け渡しとかも全部メールでやり取りしているので、パソコンなくてはどーにもならないからなー、仕方がねえ。
 でも近くに出来た「MAC駅」というMAC専門店に先日行ったら、専門店なのに、新製品が上からの指示で全く入らないという情報。せっかく新製品出るというのでちょっと待っていたのにぃ! と思ったら、他の一般のパソコンショップには普通に置いてあって、結局買えた。「iMacDV+」というやつで、色はRuby。
 しかしあの専門店の意味ってなんだろう。「えぇ、新製品、うちにはちょっと入らないんですよ・・・」と言っていた店員さんがなんかちょっとかわいそうだった。お店の名前まで「MAC駅」なのに、駅に列車が止まらないで、踏み切りで止まって人々が降りていくみたいなもんだな、ってちょっとわかりづらい例えか・・・。
 ということで、早速起動してみると、予想どうり、早い、早い。インターネットの画像もビュンビュン出て、ストレスなし。今まで、いつも雑誌とか本を横に置いておいて、いちいち操作する度に読み込みの待ち時間をひゅるりひゅるりとつぶしていたものだけど、それも必要なし。やっぱりパソコンはこーでなくっちゃね、んふふふふ!
 ・・・って、自慢する前に、前の環境が悪すぎた、ちゅうねん!


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