石ヤンのテキトー日記00年6月(1)

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6月20日

 事務所へ。「たま通信」の取材と引っ越しの準備。引っ越し屋に何軒か見積もりをしてもらうが、24万というところもあれば12万というところもある。なんなんだろーね、この差は。金の段ボール箱にでも詰めるのかね。あと、黒猫とかアリとか、象さんとかペリカンとか、引っ越し屋はどーしてケモノになりたがるのかね。そのうちオオアリクイとか、タスマニアデビルとかフンコロガシとかも出てくるのかな。でもナナフシはやめてくれよ。あれは葉っぱとそっくりで、葉っぱだと思って何気なく見ていたらそれが生き物だと気づいた時に、俺の背中が一瞬にして凍り付くからな。あと、エイも裏側になった時、すげえ不気味な人の笑顔に見えてこれまた泡吹いてブクブク卒倒するのでやめてくれよ。頼むぞ、ナナフシ引っ越し屋とエイ引っ越し屋は安くてもお断りだからな。
 そして片づけをするが、知久君はなんで自分の通信簿とか母親の形見とかが事務所に置いてあるのだ。音楽活動になんの関係があるのだ。家に持って帰れ、家に。

 夜中はR君と漫画喫茶に。有線放送でビートルズを聴きながら、パソコン雑誌読んだりして2時間ほどだらだら時を過ごす。ニヒル牛に出している俺の売り物で「ポエム・フォー・ユー」というのがあり、指定の題名のポエムを書いて葉書で送ります、というものなのだが、それも宿題のようにそこで何点かこそこそ片づける。ちょっぴり学生に戻った気分で懐かしい感じ。

6月19日

 夕方からニヒル牛へ。今度増やすつもりの、このホームページのニヒル牛コンテンツの為の、ビデオ撮り等する。全箱(現在155箱)を写真入りで紹介する予定なので楽しみに待っててね。
 そーそー、楽しみといえば、ニヒル牛は7/4発売の「東京一週間」という雑誌でもニューオープンの店、ということでカラー堂々1ページ使って紹介される予定なのでチェックしてみてね。つまりこのワールド・メガシティ・TOKYOにおいても注目すべき店なのだね、ニヒル牛は。ウォッフォッフォッ!!

 ライオン・メリィさんが電池を持ってやってきてくれる。メリィさんは今、とある芝居の中の劇中バンドとして出演中なのだが、その際使っているマイクの電池が大事を取って使い切らなくても毎日交換するので、もったいないのでもらってきてくれるのだ。ニヒル牛は試聴用CDウォークマン他いくつか電池を使って動いたり光ったりするオブジェがあるので、これは助かる。節約は美徳也! メリィさんは家が近所なので、気さくに自転車でヤッホーとやって来てくれるのだ。サンキュ!

 帰りはR君と上石神井駅前の「大虎」という台湾料理屋へ。でも「大虎」と言ってもみんなベロベロに酔っぱらってて、壁とか床とかに意味なく頭ゴンゴン打ち付けてワッハッハーと客が全員で笑い転げてる、という店では全然ない。むしろ壁に「店員が体調不良になる為、禁煙でお願いします」と書かれた、おとなしい料理屋だ。セロリづけ、中皿山盛りで200円。その他、水ギョーザ、大根もち、中華粥、ビールも飲んで2人で1950円也。安い! 旨い! 幸せ! 台湾万歳! ウォッフォッフォッ!!

6月18日

 本日もスタジオライブ。何故かお菓子の差し入れが多い。銘菓「鴎の玉子」・シュークリーム・高級洋風パイ・クリーム大福・バイオサクランボ・せんべい・・・。なぁんか老人が縁側で好んで食べそうな物ばかり。「甘い物が多いな・・・」といいながらいつのまにか食べきってしまった俺達は、やっぱ老人バンドですかぁ・・・それもよかよか。ふぉっふぉっふぉっ。

6月17日

 たまのレコーディング&リハーサルスタジオ「とおいスタジオ」での、初めてにして最後のライブ。今日と明日の全4回公演。ファンクラブの人たちだけ限定のプレミアライブ。
 といっても、こちとら自宅みたいなものなので、なーんかのんびりと、いつもよりもラフにおこなう。テンションバリバリのライブもいいけど、今日はこんな場所だからなー。家の中で絶叫してもそりゃただの「家庭内暴力バンド」だからな。いかんぞ、内弁慶は。
 お客さんも貸し布団屋から借りてきた座布団に座って、のんびりと見学していた。

6月16日

 ニヒル牛の打ち合わせを西荻のうなぎ屋でスタッフとする。いろんな人から店の印象を聞いたところ、「こぎれいにまとまっているけど、物が唸るぐらいあって『こんなにあっちゃ見切れないよー』というほどの迫力があったら、もっと面白いかもね」というのがあり、思案していたのだ。
 ということで、狭い店内ながらも来月から少し貸箱スペースを増やそう、ということで当初、駄菓子屋風に天井から物をたくさん吊したらどうか、という案が出ていたのだ。しかし店の雰囲気は随分雑然としてしまうのがちょっと問題だね、と話していたところ、くす美さんのアイデアで、店の真ん中に六角形の「貸箱タワー」を建てる、というのはどうかということになった。
 そもそも店内空間のコンセプトは、箱の一個一個に電球が灯いていることからも、それが一種の団地をあらわし、ひとつのミニチュアの「町」のような空間に見えれば面白いね、ということなので、「タワー」はそのコンセプトにも見事に合致している。ということで、来月から店内の真ん中のスペースに、「貸箱タワー」がお目見えする予定だ。なので、現在空き箱待ちの人が30人近くいるが、それも解消、さらに大勢の作家の人達の作品が展示・販売できる予定なので、我こそは、と思う人はそれでもお早めにニヒル牛に貸箱予約電話を入れよう! 地方の人も歓迎だぞ!
 ちなみにインディーズのCD関係が、なかなか売れ行きが好調だ。その理由のひとつに、ほとんどの人にサンプル盤も提供してもらい、店内で試聴が出来る、ということが大きいようだ。インディーズのCDは情報がないぶんどうしても賭けになってしまうからな。それが試聴ということで少しは解消できるからな。
 ところで1万枚売れる物を100枚作るより、100万枚売れる物を一枚出そう、という昨今のレコード界事情。しかしそれはあくまで「最大公約数」的なものなので、本当に自分にジャスト・フィットする音楽は、レコード業界にあまり期待しない方がいいかもしれない。自分の耳で聞く努力をする人だけが得られる、自分だけのパラダイスが、きっとここにはあると思っている。

6月15日

 事務所にて打ち合わせ。今週末このスタジオで行われるライブ&バザーの、バザーに出す物の値段付け等。事務所の倉庫から古い物販等の在庫出しをする。例えば会社関係の人達に出した「年賀状」などはもちろんそもそも売り物でもないが、見ようによってはメンバーのポストカードと言えなくもないので、強引に商品に仕立て上げ、100円で売ることにする。俺たちにとっちゃあゴミだけど、どーせ引っ越しのごたごたで捨てるぐらいなら、欲しい人の手に少しでも渡った方が「物」として幸せな人生だもんなぁ。(実際、バザーの時は結構な人が買っていった)
 その他、知久君が昔着ていた衣装など。間近に常にいるので気づきづらいが、いつのまにか衣装も代わっているもんだなぁ。

6月14日

 たまのリハーサル。ビデオ選考に通ったサポートメンバー候補のS氏と。S氏は九十九里に住んでいて、4時間かけてスタジオまですっ飛んできてくれたナイスガイだった。まさに「とおいとおいスタジオ」だな。ほとんどミニドライブだもんな。飛行機で4時間あったら、北朝鮮に着けるもんな。でも、南北朝鮮のニュースで写っていた北朝鮮の会談室(?)のバックの絵は、なんで都市が海に飲み込まれていくスペクタル絵だったのだ? あれ、ちょっと変じゃなかったか!?

っていうことで飛行機ついでに話はピューンと飛ぶが、今日電車の乗り換えの駅の跨線橋のところで、たったひとりであぐらをかいて地べたに座っている女子高生がいて、なんだかかっこよかった。男でもだいたいうんこ座りか体育すわりがせいぜいのところを、ミニスカートで堂々のあぐら座り。しかもひとりぽっち。しかも結構カワイイ。俺の小さな胸ですらちょっとキュンとなった。俺がキュンとなるぐらいだから「あらあら」ってな顔で見ているおばさんは別として、同い年ぐらいの男の子たちはもっと「キュン」として、へたすりゃ、本当に体からそんな音を発している奴もいたかもな。「キュン!」「キュン!」「キュン!」その子の前を通り過ぎて、平静を装っても、ホームでもまだ男の子達はそんな音をたててしまうだろうな。そのぐらいかっこよい&かわいかったもんな。でも本当、意外にいいもんだったな、「あぐら女子高生」

 ってことでさらに話は飛ぶが、最近「ニヒル牛には、いつ行ったらお前はいるんだっ!」の声が多いという。確かになんだかんだ用事があってなかなか行けてない。なので予告ーっ。一応あさって(16日金曜日)の夕方6時~8時頃は行く予定です。「糸電話リサイタル」とかやりたい人は、その時どーぞ。あとこのあいだも書いたけど、俺を知っている人は積極的に俺に話しかけるよーに。こっちからじゃ、俺のこと知っているかどーか、わからないからな。俺だって恥はかきたくないからな。よろしくなっ! 俺やたまの作品を買えば、サインぐらいしてやるさっ! (って、ちょっとえらそーか・・・)

6月13日

 今日も外は雨じゃこれしかない、ってことでニヒル牛用の工作。紙ネンドこねくりまわす。すっかり最近、工作が好きになっちまったよー。っていうか不器用は相変わらずでなんなんだが、「馬鹿な物でも、すぐに『売り物』として店に並べられる」というその馬鹿さ加減がいいんだよなー。
 今まで、自分でも「ちゃんとある種のレベルに達しているものじゃなきゃ、物は売ってはいけない」となんとなく常識で思っていたけど、そんなのは勝手な思いこみで、実際自分はちょこっとデキソコナイみたいな物の方が「物」として愛着が沸く物もあるし、実用品じゃない限り、レベルなんて関係ない物も多いもんなー。
 価値なんてすべてのものには始めからなくて、それを「発見」する人がいて初めて「価値」が生まれるのに、人はどーしても誰かが「価値を認定」した物だけをたよるもんなー。実用品ならまぁそれもしょーがないけど、アートなんて、「自分にとって」価値を見いだせるかどうかだけだもんなー。自分以外はそもそも関係ないものなのになー。ピカソの絵が誰にとっても「共通の」数億円の価値があるなんて、おかしいよなー。おかしいよなー。おかしいよなー。

6月12日

 外は雨じゃこれしかない、ってことで昔中古ビデオ屋で安く買った「チキチキマシン猛レース」を再見。ブラック魔王、ミルクちゃん、岩石オープン、ヒュードロクーペetc・・・ケンケンの「シシシ・・・」笑いはリバイバルヒットしたから、若い人でも知っているだろう。(あぁ、ついに俺も「若い人」なんて言葉を使うようになっちまった。トホホホ・・・)改めて見ると、色使いが相当とち狂ったアニメだな。バックが茶色なのに、茶色の生き物が出てきて見にくかったり、木が何故か紺碧の青だったり。もちっと考えたらどうやねんっ! とアニメのシロートでも思わず突っ込み入れたくなってしまうぞ。でもまぁ、それがB級アメリカンアニメ、っていう奴か。

6月11日

 夕方からニヒル牛へ。今日は実は開店が3時になってしまったという。R君がそもそも開店時間の昼に来たのだが、古いシャッターがなんかの加減で鍵がひっかかってしまって開かず、大家、不動産屋、鍵屋を呼んで大わらわして、ようやく3時に開いたのだという。実は日曜の昼過ぎ、というのが一番かきいれ時だったので、歯ぎしりギリギリギリヤーク尼崎。
 夜は久しぶりにR君と「鬼無里」で飲む。俺は大好きな「青りんごサワー」を2杯。久しくふたりだけで居酒屋なんて行ってなかったので、つまみを頼みすぎた。普通のサラダがでかすぎるぜー。「生野菜を食べたいなー」と思って始め「鬼無里サラダ(3~4人前)」を思い切って頼もうとしたが、普通のサラダであんなんだから、3~4人前なんて頼んでたら、中にザブンと飛び込んで、キャベツとキュウリの間でクロールするしかなかったろうな。トマトをけちらかしながらな。

6月10日

 夜、自宅にてニヒル牛のミーティング。40近い男女だが、3人は飲めず、俺も最近酒を少しだけ控えてるので、ケーキをパクつきつつのお子様風ミーティング。
 開店して10日経ち、改善点などを話し合う。「思ったよりコギレイな感じになっちまったなー」ってことで、少しヨゴシをかけるかもしれない。でももちろんただヨゴシをかけるだけじゃー、単なる汚い店になって「あぁ、石川さんらしい店ね」で、ハイ、それまでよ~なので、「さらにワクワクする」店作りを目指すことに。期待しててねー。

 そーいえば、ビデオとパソコンを繋ぐコードが壊れちまった。なので「ニヒル牛」のコンテンツも作品の紹介などしたいのだが、なかなか出来ない。ビデオに付属のやつだったからなー。取り寄せとか、時間かかるんだろーなー。めんどくさいなー。

6月9日

 八王子のいちょうホールというところで「さよなら20世紀~天幕の彼方へ~」というイベントにしょぼたまで出演。共演に、友部正人、遠藤ミチロウ、シバ、北京一。ステージの後方には巨大なテントが張られていて、そこにいろんな映像が映し出されつつの演奏。友部さんは俺の好きな「少年とライオン」をやってくれ、ミチロウさんの「ヘヴンズ・ドア」は楽屋のモニターで聞いていても、思わず息を飲んでしまう迫力だった。シバさんの「夕暮れ」という曲はフィナーレで全員で演奏。でも実は「みんなで一緒に」の合唱が大の苦手な俺は、リハーサルの時、
「パーカッションとか適当に入れた方がいいですよねぇ!」
 とか言って合唱は免れ、ドガチャカ演奏に終始。ふーっ。

 昔から、ライブが終わった後は体は疲れているはずなのに神経が昂揚してどーにも次の朝まで眠れない。家に帰って吸えないタバコなどプカプカふかしていたら、喉が痛くなった。

6月8日

 俺の参加している「パスカルズ」がフランスでデビューすることがほぼ、決定だそうだ。といってもCDがあちらで出るだけなんだが。もともと「パスカルズ」とは、バンドマスターのロケット・マツが敬愛するフランスの音楽家パスカル・コムラードから名前を借りてバンド名にしたもの。パスカル・コムラードとは、おもちゃのピアノなどを駆使してちょっとデキソコナイの音楽を奏でる音楽家で、先日来日した時に、こちらで出ている俺達のCDを渡して、気に入ってもらえたようなのだ。
 ちなみに、パスカルズは今公開されている「ぼくの、おじさん」(東陽一監督)という映画の中でも音楽が使われているので、興味のある人は是非聞いてみてほしい。俺も「たま」とは若干違ったスタンスで、おもちゃ楽器など楽しくせつなく鳴らしているぞ。

6月7日

 最近、家の庭を子猫がうろついていて、それが悪魔のようにかわいい。元々、結婚当初に猫を飼っていたのだが、この家に引っ越してきた時、家が合わなかったのか、もういい加減親猫なのに粗相を繰り返し、俺がちょっと怒ったら、プイとそのまま家出をしてしまったのだ。それ以来猫は飼っていないが、子猫は---子猫っていう生き物はどーしてあんなにかわいい仕草や表情で人の心を狂わせるのだ。あんな仕草や表情をされたら、こっちは
「はいはい、カツオブシかい、煮干しかい」
と顔をクチャクチャに崩す以外、何も出来ないではないか。
「顔がかいいから手の甲で掻いているのかい!? カイイン、カイイーーーーン!」
「目の前のネコジャラシのおもちゃが気になるのかい。ほらほら、ほーらぁーっ!」
と、はっと気づいたら子猫と一緒にゴロゴロ転がりながら、半日ぐらい経ってしまっていることもザラだ。今回はまだそこまでなついてくれていないが、きっといつか仲良しになるぞ! 出来れば小憎らしくズデンと構えるデブ親猫になる前に。あぁ、子猫ヤン、子猫ヤン、子猫ヤン!! 俺とお友達になっておくれーっ!! ねっ!

6月6日

 事務所にて打ち合わせとリハーサル。最近、どーやら俺は老人力に磨きがかかっていて、雑談の中で同じ話を何度もしてしまう癖があって、
「石川さん、その話、きのうもう聞いたよ~」
 とGさんや知久君に言われることが頻発しているので、今度から2回目の時はさり気なく額に2本指を押しつけ、3回目の時は額に3本指を押しつけて相手にサインを出してもらうことにした。
 いやー、その話を「したかどうか」はなんとなく覚えてるんだけど、「この人にしたかどうか」が難しいところなのだ。みんなも、そうだろ? でもこれからはサインがあるので、一発でわかって便利だな。但し、5回目となると、5回目のサインを出しているのか、頭痛で頭を押さえてもんどうりうっているのかは、少々わかりづらいがな。

6月5日

 ニヒル牛へ。昼からひとりで店員。客の応対が難しい。俺の事を知っている人にはそういう応対があるし、全く知らない人に変にニコニコ応対したら気持ち悪いしなー。俺の特技に「人の顔を全く覚えられない」というのがあるので、
「どっちだ、どっちだ、この客は俺のことを知っているのか。それともただの店員と思っているのか。さらには知ってても初めて会う人なのか、何度も会ったことのある人なのか。わからんわからん誰だ誰だ誰だ、お前はいったい誰なんだぁーーーーーっ! バキューーーーンッ!!」
と悶絶しながら、あいまいな顔を作ったり、ちょっと不機嫌そうに「ふふふ~ん」と本など読んだり、関係のない帳簿を眉間に皺をよせながら眺めたりと、場を取り繕ったりしているのだ。
 しかもどうやら全く知らないで入ってきて、俺の顔を見て明らかにドキリとしている客もいるのだ。
「あの人、たまのランニングの人じゃない・・・音楽活動を辞めて今はこんなところでひっそりと店員をしているのね・・・」
 などと思われてそうで、でもだからといって、
「ち、違うんです、お客さ~ん! バンドはまだあるんです~。そりゃあ、一時よりはずいぶん地味にみえるかもしれやせんが、ちゃんと続けているんですぅ。で、これは俺の店で、時間の空いている時に店員をやっているだけなんですぅぅ。信じてくださ~い、お客さ~ん!」
 と首根っこを捕まえながら弁解するのも変だしな。
 だから俺を知っている人はなるべく俺に気さくに話しかけてくれ。以前に会った事のある人は、そのヒントもプンプン臭わせながらな。そーすりゃあ、俺もかえってほっとしてストレスなく応対が出来るからな。頼んだぞ。

 夜は店員を交代。日本テレビの「メレンゲの気持ち」という番組がニヒル牛に取材にきた。きのう偶然この店の前を通って発見したそうだ。ホンジャマカの石塚さんが、クニちゃんの作った「食卓カルタ」に興味を示していたという。クニちゃんは、結婚以来の夕食を基本的にすべて写真で収めていて、それを取り札に、カルタを作ったのだ。「またギョーザ 今日もギョーザ それでもギョーザ」とかで家庭の食卓の写真の札を取るのだが、島田家(クニちゃん家)はギョーザがメニューに上る日が極めて多いので、ギョーザだけに目を奪われていると、取り間違うぞ。注意しろ。

 きのうの時点で、ニヒル牛の貸箱もすべて埋まり、今後は契約切れの人待ち状態に。でももしかしたら箱を増やす計画もあるので、ニヒル牛に作品を置きたい人はあきらめないで、03-5346-1867で予約番号だけでも取っておけ。但し、連絡が行った時に作品が出来ていないと、また後回しにされてしまうので、作品作りも進めておいてくれよな。

6月4日

 本日もニヒル牛。小田さんという昔からの友達がいて、もう結婚してしまったから実際は苗字も違うんだけど、今さら呼び名を替えるのもかったるいし恥ずかしいので小田さんなのだが、10年振りぐらいにあったのに、ちっとも変わっていない。で、姿形しゃべり方口癖はそのままなのだが、ダーリンにカメラを買ってもらったことから写真を始め、いつのまにかアラーキーの写真賞まで取ってしまった気鋭のカメラウーマンになっていて、その小田さんが「ナンパして撮った」というハタチぐらいの女の子のヌード写真が、かわいい、かわいい。
 そしてそれはとあるお客さんにもそうだったらしく、そのお客さんははじめ、チラチラその写真を見ながらも、別の物を買って帰っていった。ところが、その後も気づくと、店の前を自転車で何度も往復しているのだ。と、ついに意を決して再度店内に入ってくるや、一直線にそのヌードの女の子の写真をガバッと取って、レジに差し出した。ちょうど撮影者の小田さんがいたので彼に紹介すると、
「いやぁ、かわいいっすよね。実は最初から欲しかったんだけど、何か恥ずかしくて。ちょうど店内も込み合ってたし。そいで店に人が少なくなるの待ってたんすけど、全然人が減らなくて。そいでもう、えいやっ、と心を決めて買いに来ましたっ!」
 いや、君は正しいぞ。こんなかわいらしいヌード、ありそうでなかなかないからな。見たい人は、写真の在庫がなくなる前に、是非見に来た方がいいぞ。女の子にも人気だぞ。

 閉店間際に、ネパールでお世話になったアヤコさん来たので、斉藤君ときのうのパーティの残りのワインやらビールやらで店のシャッター半分閉めて乾杯してから、阿佐ヶ谷の「8039」に飲みに行くことになり、俺は自転車をすっ飛ばす。
 店にはチワワを持ってきていたお客さんがいて、その大きさの割に目玉だけが大きい宇宙人的な容貌を堪能してから、また上石神井まで自転車で30分、夜のTOKYOを、シャーッと銀輪でかっこよく疾走する。

6月3日

 ニヒル牛のオープニングパーティ。本当は1日からオープンしているのだが、平日はパーティは出来なかったからな。7坪のごくごく狭い店に、おそらく150人くらいの人がつめかけて、店の中も外の歩道も人だらけゴチャラゴチャラ状態でもう、笑うしかない。
 パニャグルミンの奥さんは、テレビの「オリジナルケーキ選手権」とかでも優勝した実力の持ち主で、この日もニヒル牛のシンボルマークである、交通標識の「に」をかたどったオリジナルケーキを焼いてきてくれて、拍手喝采を浴びていた。
 音具作家の松本秋則さんは、パチンコ玉が電気仕掛けでカランコロン鉄パイプの上を転がる作品を持ってきてくれて、みなの注目を集めていた。笑顔で一部に有名な健さんが「30万までなら買う!」と宣言したが、松本さんは「50万以下では売らない」とのことで、ニヒル牛では最も高価なものだ。ちなみに店内で一番安いのは若い女の子が作っている「ちゃめまん」という漫画の豆本で20円。でもうちの店は、100~1000円程度の物が最も多いので、こづかいあまりなくても、買い物楽しめるぞ。
 俺の家族もそれぞれ息子や兄貴の勇姿を見に来てくれたのはいいが、何故か母親は「ふんどし」を2枚買っていった。老夫婦が、いったい今さらそんなもの何に使うんだ・・・おぞましいので、それ以上考えるのはやめることにした。
 俳優で漫画家の加藤賢崇さんや、エッセイストでDJのえのきどいちろうさんとかも来てくれた。  俺の友だちのむさい男たちがわらわらとえのきどさんの前にむらがって、
「毎朝、ラジオ必ず聞いていました」
「録音までして、楽しんでました」
 とニコニコしてえのきどさんを見ていたので、えのきどさんも返事に窮していた。せめて若い女の子ならなぁー。

 今日から、ビデオ上映も開始。店内で販売しているビデオ作品をダイジェストにして、小さなモニターで流し続けているのだ。音は出せないが、今後も新しい作品が来たらどんどん店内で流していくので楽しんでくれ。
 ちなみにCDも試聴コーナーもあるが、常に店内にもサンプルを出してくれたインディーズCDをBGMで流している。面白い物はジャンル問わずいろんな形で紹介していきたいと思っている。100人のうち、99人にはゴミみたいな物でも、あるひとりには、何にも代え難い宝物である物はあるからな。それを見つけてくれれば、この店をオープンしたかいもあるってもんだ。
 実際「うわぁ」といって嬉しそうに手に取る物が、人によって全然違ったりするからなー。店員であるから絶対に言えないが「なんで、それやねん」と思わず突っ込みを入れたくなってしまう物もあるが、その人にとってはそれが「宝物」なんだもんなーっ。

6月2日

 「たけしの誰でもピカソ」の収録、砧スタジオにて。きのうの夜、何故か突然顔に2箇所出来たニキビをメイクさんに隠してもらって出演。まだまだ俺も青春くんさっ!
 楽屋で高城剛さんと話していたら、1ヶ月ほど前に俺が日記の中で取り上げた「インド麺」が実は高城さんの全面プロデュース商品だということを聞いてビックリ。あれれ、高城さんは、ハイパー・メディア・プロデューサーじゃなかったのか? 夏には飲料物もプロデュースするらしい。手広くやってるな!
 篠原勝之(クマ)さんとは「俺の作品も、7月頃からニヒル牛に置かせてもらうかな」という話をした。そしたらニヒル牛もちょっとはハクがつくな。本当に、頼みますよっ!
   たけしさんや、今田さん、まりなさんとかにも一応、ニヒル牛のショップカードを渡しておいた。まぁ、来られないとは思うが・・・。

 それからニヒル牛へ。きのう一日で俺の「顔面定期」(満面笑顔、あいまいな顔、色っぽい顔)が3点とも売れてしまったので、新作を5点作った。ちなみに5点は「ひきつった笑顔」「ふくれっ面」「眼力100%顔」「ボケ顔」「老婆が突然背中に覆い被さってきた時の顔」だ。俺に最大365回その顔をさせてみたい人は買うが良い。これも一点物なので、先に好きな「顔」を誰かに取られたらもうおわりだぞ。ちなみにライブ本番中は使えないからな。それ以外の、ライブハウスの出口とか、路上とか、ホームとか、立ち食いソバ屋の中でのみ、とんとんと俺の肩を叩いて差し出して、使用可能な定期券だ。
 でも立ち食いソバ屋は、ソバを食っている最中に「老婆が突然背中に覆い被さってきた時の顔」を使ったら、君の顔に俺の食っているソバがピューンと、飛んでいくけどな。それは我慢しろよ。

 家に帰ってから、さらに新作の作品づくり。「ポエム・フォー・ユー」という作品で、まずは葉書を1000円で買ってもらう。そして詩のタイトルだけを自由に書いてもらうのだ。そしたら俺がそのタイトルで2週間以内に詩を作って、郵送する、という物。貴方だけのポエムが、俺から送られてくるぞ。「糸電話リサイタル」もそうだが、どうやら俺は個人対個人の関係が好きなようだ。もっとも、ライブとかでも、お客さんはこちらから見たら「群衆」に見えるけど、「群衆」なんてものはそもそも錯覚で、本当は全員がひとりひとりなんだもんな。それを忘れちゃ、いけないよな。

6月1日

 「ニヒル牛」開店日。開店と同時にお客さんがなだれこんできてくれて嬉しい。一番最初のお客さんは男の人で、ライオン・メリィさんのCDをお買いあげ。しかし実はメリィさんは別の作品を作っている途中で、場所取りの為、とりあえずポツンとCDを置いていただけだったのだ。ストックも何も預かっていないので、あわててメリィさんに電話。
「メリィさん、開店直後にメリィさんの箱、からっぽです!」
「なんだってぇ!」
 メリィさんの家は店から案外近いので、すぐに自転車に乗って持ってきてくれる。
「こんなの、初めて作ったんだよー」
 という人形&目が電気で光るオブジェだ。
「いやぁ、このお店に物が置ける、っていうことでなんかすごく夢が膨らんじゃって、新しい工具とかも買って、それで手とか切っちゃったけど、全然痛くないんだよーっ」
 と嬉しそうだ。

 知久君の作品(虫を入れる小さなケースに、針で小さな絵が4点刺さっている作品)も置いてあった3つが30分で完売。ひとつ7000円なので、決して安い物ではないのに。これもすぐ電話。
「もしもーし、ニヒル牛の石川と申します。知久さんの作品は、すべて完売となりました。至急、納品よろしくお願いしま~す」
 この時ばかりは、バンドメンバーとしての関係ではなく、作家と店員の関係だからな。
 そして、閉店時間あたりに追加の作品を持ってきた知久君はしかし、意外にも大阪商人だった。
「この追加分からは、8000円にしよっと!」
「おいおい、なかなかアクドイ商売するじゃねーか」
「違うよぉ。7000円は、本日お買いあげのお客さんだけの、開店記念割引セールなんだよ」
 むむむっ、「物は言いよう」とはまさにこの事だな。

 胎児のゴム人形も売れた。これは誰もがハッと目を見張るほどちょっとグロテスクな人形なのだが、5000円(それでも出来からいったら、そーとー安いと思う)するのでしばらくあると思ったら、たたたっと走って店に入ってきて、一直線にその人形を掴むお客さんがいる。よく見ると、先ほどもいったん買い物をすませてくれたお客さんだ。
「いやぁ、駅前のマクドナルドまでいったん帰ったんだけど、やっぱりどうしても欲しくて。ここの店にある物は一点物ばかりなので、売れちゃったら、一生手に入らないかと思うと、いても立ってもいられなくて・・・」
 うーむ、その気持ち、わかるぞ。それこそ「一般流通に乗っていない」「大量生産されていない」物を扱っているニヒル牛ならではのものだからな。

 病院の受付のバイトは若いとき長くやっていたが、「店員」は俺も全くの生まれて初めて、チェリーボーイ。でもなかなか面白かった。「安いから売れる」わけじゃないのもハッキリわかった。むしろ妙に安すぎるより、手頃な値段の方が人は安心して物を買うようだ。


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