石ヤンのテキトー日記00年5月(2)

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5月31日

 新宿の「ロフト・プラス・ワン」で「妄想」をテーマのライブ&座談会イベントに出席。まずネパールでビデオに撮った「秋の風」をスクリーンに流し、途中から自分とビデオとでデュエット。今日は久しぶりのソロライブ、と思ったら山下由が突然後ろでおもちゃのピストルを撃ちながら飛び入りパフォーマンスを始めた。そして俺のマイクスタンドが置いてあった台を転がって倒し、そのおかげで歌っている最中にマイクは遠くの方にさよおならぁぁぁ、と消えていった。さらには俺の頭の上から生ビールをじょぼじょぼかけ始めた。しかし、ステージ上は非現実空間なので何も案ずることはない。俺は淡々と歌い続けた。

 大川興業の芸人さんたちの芸があったりして、後半は座談会。パニャグルミン、マルタ君、けんそーさん、Yセツ王の人たちと。ここでも呼ばれていないのに、山下由は真ん中に陣取り、テキーラを飲みながらただゴロゴロしている。まったくマイペースなパフォーマーだが、本来のパフォーマンス芸術とは、身勝手な物だから、一本スジさえ通っていれば、俺はなんでもありだと思っている。「予定調和」は必要ない、とは思わないが、ライブはハプニングがあってこそ、その最も顕著な特異性を発揮できると思っているからな。まぁ、でももしかしたら、山下さんはここに来る前に「新宿女学園」という風俗のキャッチに、
「1500円だから」
 と言われて入ったところ、30分後に来た請求書に「8万1千円」と書かれていて、ハプニングパフォーマンスにも、力が入らざるを得なかったのかもしれないが・・・。

 ところで座談会は「妄想」というテーマとはほとんど関係なかった。例えば、
「石川さんと石川さんの奥さんってどーしてあんなに似てるのか!?」
「それは・・・気分がだらけきって10年以上も一緒にいると、だんだんお互い最も身近な物に同化していってしまうのではないかと・・・。もしくは(大川興業の人がその前のステージでネタでいった)『特殊学級の人は顔がみな同じ』ということなのかもしれません・・・。」
 とか、
「マルタ君と昔銭湯で会った時、その時美少年で売っていたマルタ君が意外に毛深いので驚いた。顔は美少年、体は野獣で、これぞ男の鑑!」
 等くだらない話を酒を飲みながらだらだら続けた。ただの飲み屋の打ち上げ状態だけど、客がそれを金を払ってじっと見ているのが不思議。ここでも何故か俺は山下由に頭の上から生ビールをかけられ、もう着替えがなくなったので、あらあらと思いながら「ロフト・プラス・ワン」のTシャツをもらって着て帰る。

5月30日

 ひとりで「ニヒル牛」へ。いつもはたいてい他のスタッフと一緒なのだが、今日はホームページ用のビデオ撮りなので、ひとり。とりあえず全員(150人以上!)の作品を撮り、そのすべての作家の作品を一部でもビデオから静止画におこしてホームページにアップしようと思っている。そうすれば、地方の人も居ながらにして「ニヒル牛」の店内の作品の様子が完璧じゃないにしろ、わかるようになるからな。で、将来的には通販もやりたいと思っている。
 とにかく作品を置いている人は基本的になるべく多くの人に自分の作品を見てもらいたいものだから、インターネットを使わない手はないからな。まぁまだ文字情報とかも入れていかなければならないのでアップまでには時間はかかるが、俺はやりまっせー。待っててね。

 そしてさらにくだらない自分の作品もどんどん増やしている。まず、ニューヨークとかで意味のない日本語のかかれたTシャツが人気、ということで俺もTシャツにアイロンプリントで文字を名札のようにくくりつけた「意味無し文字Tシャツ」を作ってみた。とりあえず『コッペパン』『肉球』『しゃもじ』の3作品。これがファッションっていうやつなんだろう?
 パジャマのゴムで作った「ギョウチュウ君」も伸びて、楽しいぞ。
 そしてもうひとつ、「顔面定期」。これは定期に『満面笑顔』『あいまいな顔』『色っぽい顔』などと書かれてあり、それを持って俺に提示すれば、いつでも俺がその顔をする、というものだ。ようするに俺が体を張って「あなたのあやつり人形になります」宣言をしたようなパフォーマンス作品。1年間有効だが、1日1回限定だ。そうじゃなきゃ延々顔を作らされたら、さすがの俺でも自分で作っておきながら、相手に殺意を抱いてしまうからな。血は赤いから、嫌だからな。

 途中、腹が減ったので「富士そば」(立ち食いソバ屋)で最近お気に入りの「特製富士そば」を食う。これは麺の上に、温泉玉子、わかめ、ホーレンソー、きつね、たぬき、ネギが載って390円という、なかなかお得&豪華&ヘルシーなそばなのだ。うまいのだー。好きなのだー。アッハッハー。

5月29日

 一日「ニヒル牛」で開店準備。作品を丁寧に見ていくと1時間ぐらいいる人がザラなので、店のまん中に休憩できるようにテーブルと椅子を置き、そこでコーヒーや紅茶を有料で出すことにしたので、そのポット等も買う。
 その他にもそこに作品を置いている作家の横顔がわかるようなファイルノートや、作家とのコミュニケーションが取れるノートを設置したり、サンプルCDの試聴コーナーも作っているので、長居する人が多そうだからな。
 ちなみにこの俺の日記もインターネットをやっている人しか見られなかったのだが、それをプリントアウトした「ニヒル牛プロデューサー日記~「たまのランニング」と呼ばれた男の現実と実際~」というタイトルでファイルにして置いてあるので、誰でも気軽に読めるようになっている。

5月28日

 パスカルズで、新横浜の駅前広場の「ワールド・フード・フェスタ」で午前と午後の2回ステージ。八王子経由で行ったら、乗り継ぎが悪く、さらに3時間しか寝てなかったので、駅を乗り過ごしてしまって、遅刻。到着した時ちょうど始まるところで、1曲目は楽器の組立で終わってしまった。  しかしおととい「ニヒル牛」に納品に来て、パスカルズにも参加している漫画家・大竹サラは、東京駅からボーッと新幹線に乗ったら新横浜に止まらないやつで、熱海まで行って戻ってきたという。しかし熱海でも止まって良かったな。普通、新横浜に止まらないような新幹線は次は名古屋まで止まらない可能性が高いからな。戻ってきた頃にはもう誰もいなくて、カラスがカァーと鳴いているわ。

 ステージは俺がメンバー紹介を兼ねて歌う「ボボ・ピノキオ」というくだらない歌で、チェロ隊のふたりがヒゲボウボウなので「朝、ヒゲを剃ってきたはずなのに、もうこの有様。剃ったそばからはえてくる、まさに野獣。野獣が新横浜に現れた!」と即興で歌ったところ、そのひとりの坂本弘道がでかいチェロをぶんぶん振り回しながら俺に戦いを挑んできたので、太っているのに意外に身軽な俺がヒョイヒョイ逃げて喝采を浴びる。あとで坂本さんに楽屋で聞いたところ、
「なんか場所柄ファミリーが多くてなごやかな雰囲気なので、少しは危険性も客に感じさせないといけないからな!」
 と言っていたが、子供達には怪獣ショーと変わらなく見えたろうな。

5月27日

 家からちょっと離れてはいるけれど、巨大な100円ショップを発見してニコニコ。それだけで嬉しくて顔がほころぶ、そんな俺なのさ~。
 夜は作品づくり。切れた電球と紙粘土で「しょぼくれ電球親父の午後の憂鬱ペン立て」を作り、ハンディマッサージャーと段ボールで「暴れる電動怪獣K」を作った。ようするにマッサージ機の振動で動くのだが、「暴れる」というより実際は後ろに向かってガッガッガッガッと震えながら逃げていく弱~い怪獣だ。そしてちょっと俺のファンシー心が作らせた「しりとりシール」。延々関連性のないしりとりが直筆のシールになっていて、ひと袋3つ入りを計7袋作ったので、現在21個のしりとりになっている。ファンシー気分で集めていくと、将来プレミアがつくぞーっ。ま、つかなくても一切責任は御免こうむるがな。売れたらどんどん続きを作るが、売れなかったらはい、それまでさ。

5月26日

「ニヒル牛」へ。友達の漫画家、大竹サラが絵画作品を持ってくる。と来るなり、いきなり
「ここ、家賃いくら?」
 と直球勝負で聞く。
「いくらだと思う?」
「えーっ、あたし全然わかんない。60万円ぐらい?」
「・・・そんなにしたら、一体いくら毎日売上ればいいんじゃーい。人件費とか交通費とか電話電気ガス水道とか入れたら、100万円近くかかるじゃないかー。ってことは、うちの店は売り上げの2割5分だけもらえるんだから、純益が100万ということは、売上としては月にその4倍の400万円売れなければならない、ってことだろ。ってことは定休日入れたら月25日として、1日16万円の売上がなければ駄目。100円の小物とかポストカードとかだったら、それが毎日毎日1600個も売れなければならないじゃないかー。そんなに売れるかーっ!」
 と突っ込んだ。とにかく60万円はしません。でも家賃がいくらかは教えないもんねー。企業秘密だからねー。

 そしてさらに友達の尾仲浩二・楢橋朝子夫婦がタマネギをおみやげにやってきた。ふたりとも写真家で、カメラ雑誌とかでも連載ページを持つほどの実力家だ。と、尾仲さんが、トタンをカンカン打ち始めた。
「な、なにしてるんですか」
「いやーちょっとね・・・」
 実は彼らは「03FOTOS」というフォトギャラリーを笹塚に持っているのだ。と、トタンの上に自分たちのそのギャラリーそっくりに、ミニチュアで壁に写真を貼り、テーブルや本箱も置いた。さらには自分たち自身の写真ミニチュアもかわいらしく配置し、そこにはこう書かれていた。
「03FOTOS ニヒル牛支店」
 つまり、自分たちのギャラリーのミニチュア模型を再現したのだった。確かふたりとも俺より年上のはず。「遊び心を忘れない大人」ってことですか。もしくはただのバ・・・。

 絵本作家の人がふらりと、自分の作品の原画を販売したいと持ってきた。絵本もたくさん出していて、俺の最も好きなナンセンス物。原画の方は若い頃の作品ということでちょっとテイストは違ったが、こちらも俺の好きな画風。気に入った。原画なのであまり安くはないが、売れて、どんどん違う作品が常に補充されていったら楽しいなー。まさに一点物の極みだ。

5月25日

 朝、妻のR君の「先にいくわよ!」の声とドアをバタンと閉める空気圧の音で目覚める。時計を見ると、12時35分。うーーーん。寝ぼけた頭でぼーーーーっと考えた。今日は本当は一緒にニヒル牛に行くはずだったのだ。でも俺は遅くまで起きていたので起きられずに一緒にはいけない・・・少し遅れて時間差で行くかぁ・・・。しかしその時、意外と寝覚めがすっきりしていることに気づき、さらに「もしや」というアイデアが頭に浮かんだ。
 R君がこの時間に出る、ということは12時39分の電車は間に合わないから12時48分の電車に乗るはずだ。しかしそれは準急か急行だ。と、俺がここで大急ぎで準備をすれば、次の12時56分の「快速急行」に間に合うのではないか。「快速急行」は事実上特急並みの早さで駅をすっ飛ばしていくから、つまりはR君の乗っている電車をどこかで追い抜いて、途中の田無でそのR君の乗っているはずの12時48分の列車に乗れるのではないか。と、何気ない顔で上石神井の駅で先にバスに乗っていたら、あとからバスに乗ってきたR君が「えっ!!」とビックリ仰天する姿が、目に浮かぶ。
「あたしが家を出る時、まだ寝ているはずのダンナが、あたしより先にバスに乗っている!!」
 きっと俺がインド大魔術かなにかをいつのまにか取得していて、それを繰り広げたに違いないと思うであろう。俺はR君を驚かすのが人生で何より楽しく嬉しいので、その計画を思いつくやいなや、ガバッと起きあがり、超高速回転で歯を磨き、超高速回転でヒゲを剃り、超高速回転で便所で余剰分泌物を出すや、駅にと走った。はぁはぁ。この年だと「走る」という行為自体が滅多に行われない行為なのでクラクラクラ~と貧血気味になりそうになりながらも「人を驚かす」誘惑には勝てない。間一髪で快速急行にと飛び乗ることができた。
「しめしめ」
 そして乗り換えの田無へ。ところがここで予定外にも、待ち合わせしているのは各駅停車だった。R君の乗っているはずの列車は急行か準急なので、これではない。結局、寸分の差で、列車は追いつけなかったのかー。んがーん! へなへなへなー。それじゃあ、がんばって行ってもしょうがない。驚かせられないなら、意味がない。それなら5分遅れていくのも、1時間遅れていくのも同じだ。
「なんだぁー」
 ということで、それなら予定変更、吉祥寺に買い物に行ってから行くことにする。いつも西荻窪には上石神井からバスに乗るので、ひとつ手前のJRの吉祥寺に行くには西武線もひとつ手前の武蔵関で降りれば、場所の兼ね合いでいけばちょうどよいはずだ。ということで、武蔵関で降りて駅前に行ってみると、んがーん! 三鷹行きと荻窪行きしか止まっていない。おいおいそれじゃ困るんだよー。その真ん中の吉祥寺に行くバスはないのかよー、とめそめそする。でもいいおっさんがいつまでもめそめそしたところで誰もかまってもくれないので、駅前の地図を見てみる。と、吉祥寺からまっすぐ伸びた道が、この駅の割と近くを通っている。
「よしっ、いっちょ賭けに出てみるか」
 とひとりつぶやいて、その道まで歩いてみる。と、案の定吉祥寺からのバスが向こうからやって来るではないか。
「ふふふっ。俺って、やっぱ冴えてるな」
 そう思ってバス停へ。ところが反対方向のバス停はあるのだが、こちらから吉祥寺に向かうバス停がない。たいがいバス停というものは向かいあってあるものだが・・・んがーん! そういや、都内は一方通行が多いので、上りと下りではルートが違うことがままあるという。いっやーん、浩司を吉祥寺に連れていって頂戴。でももう駅からちょっと歩いてきてしまったので、今さら戻るのもしゃくだ。釈由美子だ。なので、
「それでもどこかで、一緒になるに違いないから、もう、そこまで歩いたるわいっ!」
 そう鼻息をフンガーッと荒くしながら歩き始めたところ、ほどなく吉祥寺行きのバス停を発見、荒くしていた鼻息を早々にヒュウイッ、と引っ込めた。
「ふーっ。よかったぜーっ」
 さて、バスの料金は確か210円だ。サイフの中はと、100円玉が2枚に・・・1円玉が10枚! んがーん! 確かに210円ピッタリはあるが、これはどうなんだ?
 その時、俺の「小心」ごころがまたムクムクッとその鎌首をもたげてきた。210円出した物の、運転手さんの「チッ!」という舌打ちから始まって、
「お客さーん、嫌がらせはやめてくださいよー。1円玉じゃあ、釣り銭にだってならないのはご存知なんでしょう? 大人だったら大人の常識で払ってくださいよー」
 などと言われたらどーすんだ。しかも1000円札でも当然払えるとは思うのだが、常にバスに乗る時は細心の注意を払って小銭を心がけている俺は、1000円札で払ったことがない。聞くところによると、1000円札で払った場合、バスによって2種類のやり方があるという。ひとつは単純に両替をして1000円全部が戻ってくる場合。そしてもうひとつは、料金をそこから取って、釣り銭だけ戻ってくる場合。つまりあまりよく知らないバスでその行為をする、ということは、瞬時にしてそのどちらかのパターンかを判断せねばならないのだ。そして俺はそういうのが苦手で、もたもたするぐらいならまだいいものの、わけのわからない焦りから、その場でお金を全部ぶちまけちまう、なんてことも容易に想像できる。んがーん! どうすりゃいいんだい、ベイビィ! うむむーっ。
 しかしその時、小心を覆す自分自身へのいいわけが急に思いついた。
「そ、そうだ。俺は喉が乾いてるじゃないか。じ、自動販売機でジュース買お、っとー。あっ、細かいお金がないやー、1000円札で払おう、っと。」
 そして乳酸菌飲料「ビックル」を買い、無事にバス代210円も平然と払えたとさ、めでたし、めでたし。ふーっ。
 ってなことで朝のわずか1時間の俺の心の動きの微細でしたーっ。んがーん!


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