今月の健さんの笑顔--01年2月号

 

 健さんと、久しぶりに麻雀をした。他の打ち手は、俺、R君、大谷、くす美。くす美さんは若干新人なので負ける率はちょっと高いが、他は雀力はみんなドングリの背比べなので、誰が勝つかはわからない。麻雀は将棋や囲碁とは違って「手牌」という運の要素もあるので、必ずしも強い人が勝つとは限らないのが面白いところだが、この日の健さんは、絶不調だった。
 やっとテンパって「リーチ!」と元気良く言った途端、それが他の人の当たり牌にバッチリ適合でガチョーーーーン、ハラヒレホラということが一度や二度ではなかった。
 やってもやっても勝てない。そんな日もあるが、この日の健さんがまさにそうだった。
 ついには、どんな時でも大人であり、温厚な笑顔を必死に保っていた健さんも、符の計算も出来ない他のメンバーに、
「これ、何点?」
 と聞かれて、
「知らないよっ!!」
 と思わず卓をドンッと叩く姿もみられ、皆も(こいつはヤバイ・・・)と心の隅で思った。思ったけれども、「恩情」という言葉を知っている人間は誰ひとりとしてその中にはいなかったので、健さんに向かって、
「ローン!!」
 の声はさらに高く響いていた。
 麻雀が終わり、ふと隣の部屋に行った健さんを見てみると、健さんは背中を丸め、膝を抱えながら、何かをプルプルとこらえるように、黙って煙草を吸っていた。
 さて、俺たちも鬼ではないので、帰る際、ちょっと酒屋に寄る、というので、健さんのなじみの酒屋に行き、酒好きな健さんの為に
「健さんに合うような、ちょっといい日本酒ありますかねぇ」
 と酒屋の親父(といっても、知久君の同級生だったということだ)に聞くと、
「じゃっ、ちょっと値は張るけど、これなんかどうかね」
 と言って薦められた酒を買い、健さんにプレゼントした。
「健さん、これ・・・」
 というと、健さんは、
「俺は施しを受けるほど、そんなに今、みじめか・・・」
 と苦笑しながらも、快く受け取ってくれた。

 ちなみに、その日本酒の銘は「空」と云った。

 ・・・決して、健さんの点棒の事じゃないからな! 誤解しないで、笑ってくれっ、ハニー!!  


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