「一生売れない心の準備はできてるか」コメント
(これは映画宣伝のために書いたコメントですが、パンフレットの文字数制限の為に大幅カットになってしまったので、もったいないのでここに載せます。映画観覧者の一部の方にはこの文章の印刷物が配られたそうですが)
只今タイのチェンマイという街でこの映画を視聴させていただきました。実はそもそものキッカケもこのチェンマイにあるのです。当時、僕のホームページにはチャットがあって、毎晩様々な顔の見えぬ人と会話するのが大きな楽しみでした。そんな時、チェンマイからアクセスしてくれた人がいました。時は2012年。僕はその7年ほど前から寒い日本がツラくて毎年2月はチェンマイに「あったかいぞー ほいさっさ 仕事は休んで 逃げらんせ~」と自分でスケジュールを決められる自由業なのをいいことに一ヶ月逃避する生活をしていたので、チェンマイで、さらに偶然にも僕が昔滞在していたこともある同じサービスアパートメント(月貸しの安マンションのようなもの)からのアクセスに驚き、彼との話は大いに盛り上がりました。そこで彼が「この後、沖縄に移住する予定です。そこでバーを開こうと思ってます」と言ってきたので「へえ、それじゃそこで僕のライブやらせてよ!」と冗談混じりに言ってみるとまさかの「やりましょう!」の声。しかも話はどんどん進み、一週間ぶっ通しのライブをやりましょうということになりました。即ち月曜から土曜までは沖縄在住のいろんなミュージシャンと僕のガラクタパーカッションで即興セッション、最後の日曜は僕ひとりのギターソロという一週間です。ちなみに彼は僕を知っていたでしょうが、僕はもちろん彼の素性も顔もそのバーに到着するまで全く知りませんでした。それが当作品にも登場するヒッピーこと、さとうこうすけ君でした。その新しく出来たバー・ドラミンゴでのセッションは楽しかったです。月火水木金、バラエティに富んだ顔ぶれでした。そして遂に土曜日、沖縄ミュージシャンの大トリを飾るのはどんな人かな?と思ったらやって来たのは髭面の顔の濃い男でした。「ああ、いかにも古いブルースって感じだな。渋い歌を淡々と歌う感じかな・・・そしたらあまりふざけたパフォーマンスのパーカッションは似合わないかな・・・」そう思っていたら、ステージが始まった途端そのイメージは大きく覆されました。予想とまったく違ったちょっとコミカルだけどメロディアスなムード歌謡的な部分もあり、だけれどもドキリとさせる歌詞が突然飛び出したり、またステージングもエンターテイナーという感じで大いに盛り上がりました。そう、彼こそがやちむんこと奈須重樹だったのです。
この映画は首里劇場での少し前のコンサートと彼のインタビューが交互に映される構成で、2時間があっという間でした。表題作では年を取って涙腺が弱くなってきたせいかホロリときてしまったり「モクマオウのトンネルを抜けて」「フェアウエル ソング」そして新曲の「ストリーキング」なんかもグッと来ましたね~。
「一生売れない心の準備はできてるか」ぶっちゃけ僕は一度だけ瞬間的にですが売れたことがあって、でもそもそもが売れるタイプじゃない音楽をやっていたので、これには驚きました。でも売れる売れないはある程度の実力があったら、単純にその時の需要とタイミングなんですよね。僕らはたまたま「イカすバンド天国(通称イカ天)」というアマチュアバンドのコンテスト番組に出たら、アングラ系のバンドがテレビに出たことが珍しかったのか、一時的に人気バンドになってしまいましたが、そもそもはメンバー間でも「別にその番組に出なくてもいいんじゃない」と言っていたところ、スタッフが勝手にテープを送ってしまい出ることになったので、何がキッカケになるかわかったものじゃありません。もしかしたらこの映画が誰かの策略で外国に流失して、突然アルゼンチンあたりで「YACHI-MUN!」「YACHI-MUN!」と大バズりすることだってこのご時世、本当に無い話ではありません。
ともあれこの映画は魅力的です。僕も自作曲をこんなに大勢の素晴らしいミュージシャンをバックに歌ってみたいものです。
もしかしたら奈須さんは既に売れること以上の宝石をもう既に持っているのかもしれません。幾多の既に金銭的には売れている人たちもまだ持っていない「ミュージシャン冥利に尽きる」という、大きな大きな宝石を。