都営荒川線すごろく旅行




 うららかな春の一日。今日はTV Bros.一行で、俺が10数年前からプライベートで遊んでいるゲーム旅行、「すごろく旅行」をすることとなった。「すごろく旅行」とは読んで字のごとく、サイコロを振って出た目の数だけ進む、「どこにいくかわからない」旅行のことだ。そしてついた先々では、その町で行う「クジ」を引き、何があってもそれに従いつつ観光をする、というルールになっているのだ。
 さぁ、どんなとんでもないクジに翻弄されるのか? 過去には日本国内では飽きたらず、台湾や韓国でも「男は尻、女は腹をこの町のどこかでさらし、その証拠写真を撮る」「猫を一匹捕獲する」「全員鼻の下にヒゲをマジックで黒々と描き、ニッコニコしてこの町を徘徊」「鼻を最大限に活用し、あらゆる町の匂いをかぎまくる。食品以外で意外な匂いのする物を発見する」「左手を25分間、左耳に押し当てて歩く」などのクジで、様々なハプニングを呼んできた旅行だからなー。
 当日、待ち合わせの都電荒川線早稲田駅に集まったのは総勢7名。俺、TV Bros.編集T嬢、カメラの芙蓉嬢、ライター花子嬢&二郎君、「たま」マネージャー溝端さん、「たま企画室」事務員マニ嬢の男3・女4のいい塩梅だ。
 「荒川線フリー切符」というを購入。「400円で乗り降りし放題」はまさにすごろく旅行にはもってこいの切符だ。さぁ、最初はどこに? ちょっと遅刻してきた二郎君が早稲田駅のホームに、サイコロを転がす。と、1。このチンチン電車はバス並みの駅間距離なので、ほとんど目と鼻の先だ。しかし駅名は「面影橋」という風情のある名前。と、関西弁のマネージャー溝端さんが、「わし、昔この『面影橋』という曲でフォークコンテストに出た事あるんですわ。あの頃は金がなくて、歩いてギター一本かかえて会場まで行ったもんですわ・・・」と別に聞きたくない思い出話しをしているうちに、早くも面影橋に到着。目の前にその「面影橋」がある。ハッキリ言って何の風情も変哲もない、小さな道路脇の橋だ。「なんや、これかいな。こんなしょーもない橋の事をわしは歌ってたんかいな!」と落胆するマネージャーの孤独な感慨を無視して、クジを引く。
『喫茶店に入り、窓辺に席を取る。100までの好きな数字をそれぞれ決める。その喫茶店の前を通る人を順番に数えていき、誰の言った番号の人が一番『濃かった人』かで勝負。一番『濃かった人』の番号を言った人の分は、全員でおごる』
 近くにディニーズを見つけ、全員で窓際に座る。そして好きな番号を言い、道の向こうの標識の所を通る人を数えていき、最も『濃かった人』の番号をいい当てた者が優勝だ。一種の、宝くじのような物だ。
 ところが、平日の昼間のオフィス街ということもあって、あまり「濃い人」が通らない。これが下町あたりだと、真っ昼間から出来上がっちゃってるタコオヤジとか、とんでもないファッションに身を包んだバケモノ老婆などが闊歩していることが多いのだが、うーむ、残念。
 ひととおりやったが、印象に少し残ったのは、花子嬢が選んだ13番、「仕事のできなさそーな雰囲気のサラリーマン」ぐらいだが、ちょっと弱い。他にも二郎君が「あっ、僕の選んだあの黒い服の人、よく見るとちょっと目つきが怪しいですよ。夕方にでも、きっとなんか犯罪をおかしそうですよ!!」と力説するが、どーみてもこじつけだ。
 そこで、もうひと勝負することにして、また好きな番号を言う。しかし二度目も11番「ジュータンを持ってうろうろする男」と19番「ズボンがちょっと変な男」ぐらいだ。特に11番の男は、近くに何度も荷物を運ぶ為うろうろしているので、こちらが真剣に順番を数えている、というのにまぎらわしい。みんな一斉にディニーズの中から「ウロチョロするな! 人の迷惑をちょっとは考えろ!」と言ったが、本人はまさか自分がそんな事言われているなんて夢にも思っていないであろう。
 「25,26・・・」と数えているその時であった。なんと、先ほどの「13番」すなわち「仕事のできなさそーな雰囲気のサラリーマン」が猛然と走って戻ってきたのだ。あきらかに何か忘れ物でもして、大慌てで汗を飛ばしながら走り去っていった。
「むむ、みなさん、どうでしょう」
「やっぱりあの旧13番、あの人が優勝でしょう。まさに仕事が出来なかったわけですから」
「ちなみに、あの人を選んだ花子さん、あの人の名前は・・・」
「後藤君です。(なんでやねん)」
 ということで、旧13番、後藤君(会社では『ゴン太』と呼ばれている)に決定!
 ちなみに店を出たところで、その「後藤君」は忘れ物を取ったのか、それともそれが鞄の中に見つかったのか、再々度ネクタイをよじらせながらゆうゆうと戻ってきたのが見え、優勝者の貫禄を見せつけていた。本当は彼の元にいき、優勝インタビューもしたかったが、グッとこらえた。

 さて、実はディニーズを探している間に、もう次の駅の方が近くなってしまったので「学習院下」から乗り込む。さぁ、先に進もう。と、芙蓉さんが振るや、またもや1。全然進まんがなー。で、次は「鬼子母神前」と、駅に着いたのにドアが開かない。
「?」
 と、なんとこのチンチン電車は、バスのようにブザーを鳴らさないと下車のドアが開かないのだった。すんでのところでブザーを鳴らし、みなで大慌てで飛び降りる。
 さぁ、クジは。
『標的をひとりみつけ、あとをバレないようについていき、その標的の動作をすべてまねる』
 ちょうど頃合いのよさそうな、頭のハゲたおっさんが目の前を歩いている。俺達はその後ろから、少し離れておっさんの動作をマネしながらつけ始めた。
 どうもおっさんは尻がカユイのか時々ぼりぼり掻きながら、少しうつむきかげんに歩いている。俺たちも尻をぼりぼり掻きながら、うつむいてついてゆく。また、腹具合でも悪いのか、自分の腹も時々撫でるような動作をする。俺たちももちろん腹を撫でながら歩いていく。
 やがて鬼子母神の近くまできたおっさんは、やおら公衆便所にと入っていった。俺は意を決しておっさんのすぐ横のもうひとつの便器でおっさんと同じように小便を始めたが、これはさすがに女性陣はまねできないので、トイレの外で、前をモゾモゾさせながら、立ちつくすしかなかった。
 と、おっさんは手も洗わずに出ていく。むむむ。規則違反だとは思ったが、俺は手を洗わせてもらった。
「おっさん、こっちの身にもちょっとはなってくれ!」
 心の中で叫んだ。
 やがておっさんは植え込みの所に腰掛けると、タバコを吸い始めた。こんなこともあろうかと、俺も吸えないタバコを用意周到、持ってきていたので、フカすだけ、フカす。
 と、今度はおっさんの手にいつのまにかビールのロング缶が握られている。どうやら、先ほど腹をごそごそやっていたのは、腹具合がおかしかったのではなく、腹にこのロング缶を忍ばせていたかららしかった。さすがにそこまではこちらも用意できなかったので、全員でしゃがみ込み、飲み物を口に持っていく動作だけをマネる。と、おっさんには気づかれていないのだが、マネージャーが向かいの方に座っていた別のおっさんにジィーッと不自然な行動を見られていたらしく、我慢できずに照れながら戻ってくる。
 さて、10分ほどおっさんの動作を全員でコピーしていたが、おっさん、一向に動く気配がない。へたすりゃ、日が暮れるまでここでボーッとしてそうな勢いなので、とりあえずクジは終了し、鬼子母神でお参りしたり、創業300年という境内の駄菓子屋で名物のみみずく人形を買ったりする。
 ちなみにひととおりうろうろしてから戻るも、おっさんは相も変わらず同じ姿勢で植え込みのところにしゃがみこんでいた。
「おっさんの、日課なのかもしれないなー」などといいつつ、次へ駒を進めることに。マニが3を出し、やっと少し進んで「向原」というところ。クジ。
『男は全員ぶりっ子になって女言葉、女は全員チンピラ男になって男言葉になる』
 近くの大塚台公園というところに歩いていくことに。
「あら、汽車ポッポがおいてあるわー。たくましいわー」
 俺が身をくねらす。
「よしっ、てめえら、とっととブランコにのりやがれ!」
 カメラの芙蓉さんが、指示を出す。と、その時、携帯の電話が、マネージャーに鳴る。
マネージャーは緊張したおももちで俺に聞く。
「電話も女言葉じゃなきゃ、駄目? ・・・いや、ダメなの? あたし、困るわ!」
 公園の壁に落書きがしてある。
「うそつくな、いかるな、はげるな、死ね!」
 よくある悪口だが、「はげるな」がちょっと余計なお世話だ。
 さて、どんどん進もう。さ、次は・・・なんと三度目の1が。
「これ、1しか出んやん」
 関西弁のマネージャーがいうが、試しに転がしてみると、他の数字もちゃんと出るので、単なる偶然。しかし4回のうち、3回が1って。俺たちのサイコロ運って・・・。とにかく「大塚駅前」駅というパラドックスのような駅名。これはJRの大塚駅の横にあるからだが、明らかにJRに負けを認めていて、潔い。クジ。
『30分ばらばらになり、なるべく奇妙な物を拾ってくる。一番奇妙な物を拾ってくるのは誰だ!』
 町に散り散りになり、30分後集合。時間の少し前に戻った俺は座りながらみんなを待つ。
 まず、マニは半分使った洗濯洗剤に、ネジ。
 編集Tは、開けてないペロペロキャンディーに、パチンコ玉。
 二郎君は毛がいっぱいついてて気持ちの悪いヘアーブラシ。
 花子さんは、丸めて一足になっている黒い靴下と、精力剤のカタログ。
 マネージャーは、遮断機の一部? と「ジャングルスマイル」というバンドのポスター。
「ほほう、みんななかなかですな。でも、優勝は俺ということに」
 俺がほくそ笑むが、みんなの頭にはクエスチョン。
「石川さん、なんにもないじゃない」
 俺はニヤリと笑うと、立ち上がった。
「これを、見よ!」
 そう、俺は自分が座っている、立派なアンティーク調の椅子を指さした。
「えぇーっ、こんなでかいの拾ってきたの?」
「おうよ!」
 ビルの横に、板きれなんかと一緒においてあったこの椅子を、へーこらかついで運んできたのだ。途中、交番があったのでちょっとビクビクしたが、自分に、
「これは盗んだんじゃない。拾ったんだ」といいきかせながら。
「うーむ」
 みんなをしばし唸らせて、満足。昼飯を食い、またサイコロを振る。3。新庚申塚。
『全員で100円ずつ賞金を出す。ジャンケンをし、負けた者がサイコロをこの町のどこかに隠してくる。わずかなヒントでそれを見つけた物が賞金を総取り』
 サイコロはでかいヌイグルミ状の物。ジャンケンで負けたマネージャーが隠してくる。
「ヒントは、鳩!」
 みんなまた、かけずりまわって鳩を探す。
「えーと、この家は・・・鳩山さんじゃないか・・・」
「鳩? 置物のことかな・・・」
 みんな推理を働かせて、家々や、工場などを覗き込む。
 と、あちらでマニが地元の人に何かを聞くや、走りだしていた。
「あっちだ!」
 俺もその後を、追いかける。
 後で聞いたところによると、マニはやっぱり地元の人に、
「この辺に鳩はいますか?」
 と聞いたそうだ。すると、
「あぁ、あっちの公園に・・・」
 とか言われて走り出したのだ。
 しかし結局俺はマニを見逃し、なおかつ気づいたら隣の「庚申塚」の駅まで来てしまっていたので、ひと駅またマヌケにもチンチン電車に乗って戻ったところ、編集Tの手にサイコロが。
「どこにあったの?」
「道ばたの、鳩サブレの缶の下」
 マニも俺も、全くの勘違いだった。うーむ。さ、次へ行くか。3。飛鳥山。
『動物(作り物も可)と一緒にピース写真を撮る』
 マネージャーが、早速駅の横の飲み屋の脇にあった置物のタヌキとまずピース。
 それから飛鳥山公園というところにいく。公園は、桜祭りの準備でごった返していた。と、あるある。砂場に、豚、亀、ライオンなど。さらにでかい象のすべり台の前でも全員でにこやかにピース。
「ひとつぐらい本物も撮らなくちゃ」で、犬を連れて散歩に来ている人に声をかける。
「わあっ、かわいいワンちゃんですねえ。なんていうんですかぁ」
「・・・あぁ、ベンちゃんだよ」
「一緒に写真撮っていいですかぁ」でピース。
 飼い主は「ほおほお、うちのベンちゃんはそんなにかわいいですかな」とご満悦だが、まさかクジだから、とは言えない。さて、さらにどんどん進もう。
「あっ、この先に『荒川遊園地前』っていう駅があるよ、面白そうじゃない? 5出してよ、5!」
「よおし!」
 編集Tのサイコロに、力が入る。結果・・・よもやの4度目の1。
「なんなんだー、このサイコロはぁ!」
 しかしサイコロを呪ってもしょうがない。よしっ、せめていいクジを引けよ。
『地獄・・・このクジを引いた者を呪え。次の駅まで、走れ!』
「どっしぇー!」
 平均年齢推定30ン歳の7人が隣の「栄町」まで走る。
 チンチン電車なので距離はたいしたことはないが、皆、体力の衰えを知るには十分な走りであった。全速力というほどではないのに、顔は真っ赤になり、汗が全身から噴き出してくる。「勘弁してくれよー」
 さて、時間からいって最後のサイコロ。5。やっと最後に大きな数字が出たが、よりによって、みんなの降りたがっていた「荒川遊園地前」は無情にも通り過ぎ、「宮ノ前」というところ。クジ。
『ジャンケンでふたり一組ずつのカップルでこの町を観光する。但し、カップルは男と女という組み合わせ以外もあり。最低5分は手をつなぎ、ラブラブですごす。(本当に相手のことを「好きだ」と思いこむ)』
 最後にやっとほのぼの系のクジ。といっても、男と男になったら、ホモカップルとしてこの町で過ごさねばならないが・・・。
 しかしそこは神様、お宮で賽銭あげたのが効いたのか、うまいこと男女のカップルになった。俺は編集Tと手をつなぐ。
 ちょっとだけドキドキしていい感じ。自分の妻以外と堂々と手をつないで歩けるのも、クジのおかげ。クジに感謝。って、俺が作ったんだけど。
 商店街を通り抜けると、工場地帯に入ってきた。
「じゃあ、このなんにもないところがゴール?」
「そういうことになりますな。人生、そんなもんですな」
 ということで、高い鉄塔の前で何故かバンザイ三唱して、無事すごろく旅行はゴールを果たしましたとさ。めでたし、めでたし。(はー、よく遊んだ)

(TVBros)


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