江ノ電すごろく旅行(フロムA)



 さて、第二回目のすごろく旅行は、秋の海を見に行くのも、なーんかオツなものよねー、オホホホッ。ということで藤沢と鎌倉を結ぶ江ノ電に乗ることにした。今回は松本さん・田中君・安達君の読者3名も参加。いつものスタッフも入れて、計6名。
 といっても、本当は編集者の入船君も入れて7名なのだが、編集者なのに何故か前回の「山手線一周すごろく」で予想外に活躍してしまったので、「僕は裏方に徹しますので、人数には数えないでください」と強い口調でガンッ! と言っていた。つまり「電波少年」のカメラマンみたいなもんだな。本当はいるんだけどいない人。というか、キッツイくじが出た時にうまく逃げようと思っているんじゃあなかろーな!

 ともかく藤沢に集合して、最初のサイコロは5。いきなり江ノ島駅とは、なんか幸先良さそうだな。クジ
「バラバラになって300円以内で、他の人が買わなそうな食べ物を買って、景色のよいところでパーティをする」
 おぉ、いきなりパーティとは、楽しそうだなララララン。ってことで100円玉3枚握りしめて、みんな方々に散っていく。制限時間は30分。俺はスーパーで、ニンジン1個、トマト1個、ピーマン3個、モヤシひと袋に小さなマヨネーズで計300円也。ミニサラダセットだ。
 再集合して、江ノ島が眼前にズドンと見える絶景カナの浜辺に出て、食物を広げあった。
 まず、マニは芋の揚げ物7つ。アンズさんは名物サザエ最中2ケ。田中君はダサいパン3ケ。安達君は焼海苔。そして、松本さんは何かグチャグチャした物をビニール袋に入れている。
「な、何それ!?」
 と聞くとなんとラーメン屋に行き、
「300円で何かテイクアウト出来る物ありますか?」
 と聞き、
「うーむ」
 とラーメン屋をしばし苦悩悶絶させたあげく、『ラーメンの麺抜き、モヤシとメンマだけ炒め』という特別料理(?)を作ってもらったのだという。素晴らしい! そして俺の野菜は、田中君が
「俺、洗うのとか好きなんっすよ!」
 と意味不明なことを言って海でジャボジャボ洗ってきた。モヤシには、海水で適度な塩味がついていて、それだけで食ってもうまい。ただし砂は混じっていたが・・・。そして、
「ウォォォ!」
 っと生のニンジンに馬の様にかぶりつき、いろんな具を入れて焼海苔で巻いた「海苔クレープ」をニッコニコしながら嬉しそうにほおばっている俺達を、浜辺にいるアベックが無気味そうに見ていた事は、一応報告しておく・・・。

(総括) 豆モヤシ マヨネーズ添え スナックモヤシ なかなかいけるぞ 貧乏の友

「江ノ島」駅からのサイコロは1。次は腰越というところ。クジ。
「全員で手をつなぎ、高い建物の屋上に登って『ヤッホー』と叫ぶ」
 本当は高層マンションとか眺めのよさそうな団地の屋上にでも行って叫ぼうと思ったが、ぐうるりとあたりを見渡してみても、平屋の家ばかりが立ち並ぶ住宅地で、全く高い建物がない。
 あえていえば、「秋田屋」という建物が3階建てだったが、高級旅館っぽく
「ちょっと屋上まで登らせて下さい。いえいえ、ただ『ヤッホー』と叫ぶだけで、あとは何もしませんから・・・決して、決して、怪しい者では、ありませんから!」
 と言っても充分に怪しすぎる団体だ。とてもそんな事が頼める雰囲気ではない。

 と、小高い丘の上に、満福寺というお寺があることがわかった。まぁ、お寺自体は「高い建物」ではないが、ひとつ「高い場所」ということで許してもらうことにして(誰にだ!?)、そこに行くことにする。皆で手をつなぎ、お寺に入っていくと、トンネルが見えたのでそこを抜けると、階段状にお墓が並んでいる。そのお墓のてっぺんまで、手をつないだまま登っていく。本当はなんかフォークダンス気分なので、
「あ~る~ひ 森のな~か~ 熊さんに~ 出会った~」
 とかなんとか歌でも歌って楽しく登りたくなるが、真剣にお参りしている人とかもいるので、そうもいかぬ。でも頂上に着いた途端、ここはクジに従わなければならない。「せえのっ」で思いっきり
「ヤッホー!!」
 と全員で恥も外聞も忘れて叫ぶ。お参りをして花を手向けていたおばさんが、ギクッとこちらを振り返る。
 さて、ここのお墓はちょっと変わっていて、墓石に「○○家」と彫られている物は少なく、おそらく遺族がそれぞれ考えたであろう「言葉」が彫られている物が多かった。「まごころ」「誠」「心」「憩」ぐらいはなんとなくわかるが、「アガペー」「ポピー」「あかとんぼ」って、スナックの名前か? あと「翔」って、そりゃ死んだんだから、飛んでいったんだろうが・・・。そして「時を越えて宇宙への旅立ちーTime Tonnel」って、B級映画のタイトルかっ!!

 それからついでに満福寺も見学。ここはどうやら義経ファンの聖地らしい。素晴らしい鎌倉彫で静御前や弁慶が彫られている。「感想ノート」には『義経ファンで、やっとここまで来ました』とかもあったが、一番多かったのは・・・ピカチュウの落書き。義経、ピカチュウに破れたり! 

(総括) ヤッホーや こだま返らず 墓参り

腰越からの出目は6で一気に由比が浜。海が近く、潮の匂いがする。クジ。
「しりとりをし、つまった人は駅前にひとりで行き、奇妙な踊りを30秒間踊る」
 駅前はそれほどにぎやかではないのが不幸中の幸いだが、それでも約5分おきぐらいには電車がやってくる。俺達は一軒の大きな家の門前の石段に腰掛けて、しりとりを開始することにした。地名・人名は禁止。もちろん「ん」がついたり、15秒以上言葉が出てこなかった場合もダメだ。車座になって始めると、開始そうそう、松本さんが
「登別! あっ!!」
 とどこをどうひねっても地名にしかならない言葉を発した。
「ふふふ」
 全員がニヤリと笑い、彼女を駅前に強制連行。俺達は少し離れたところで、彼女が踊る様子を眺める。クジには逆らえないので、彼女も意を決し、スローなインド的な踊りをクネクネと踊り出した。電車から降りてきたおばさんがギョッとしたような目でそちらを見ている。そりゃそうだ。若者が音楽でもかけて何人かで踊っているならば、湘南という場所がら「やれやれ、そういう輩か」と思われるかもしれないが、たったひとりで、突如音楽もなく、観客もいない駅の改札口で奇妙な踊りを踊られては「キ○ガイ」の冠を被ったも同然だろう。

 二回目は、田中君。田中君は俺の友達の杉本に似ていて、杉本より少しガタイがでかいので、(デカ杉本)と心の中で俺が呼んでいた男だ。そのデカ杉本、もとい田中君は「馬!」と言ったのだが、それはもう、一度出たやつ。女性の松本さんが頑張っていたので、ここであまり照れるわけにもいかない。駅前に行くと、やおら踊り出したが、踊りというよりは酔拳とかなんか、変な拳法のようだ。「トォッ!!」という無言の声が聞こえてくる。そして電車が来るや、「指差し確認踊り」というオリジナリティあふれる踊りを編み出し、離れて見ている俺達の爆笑をかった。

 そして最後は「る」が出て来なかった安達君。奇しくも、負けた三名とも読者だ。安達君はこれまた、踊りというより、エアロビクス。ニッコリの笑顔が危なさにさらに磨きをかけている。と、ついにはブレイクダンスのようになり、最後は頭を地面につけ、逆立ちのような決めポーズまでしてくれた。と、電車から降りて来た人達が、目も合わせず、声もかけず、黙々とその彼の両脇を通り過ぎていった。ミーン、ミーン。季節外れの蝉の鳴き声が、空虚に彼の方から聞こえてくるようだった・・・。

(総括) 駅前で 音無踊り 踊っても 行き交う人は ただ急ぎ足

由比が浜からの出目は2。終点鎌倉だ。クジ。
「王様鬼ごっこ。ジャンケンで勝った者が王様帽を被り、3分後に各自みつけに行く。追う者は走ってよいが、王様は走ってはいけない。帽子を取られた者は1分間はそこを動けない。30分後に帽子を被っていた者は、この旅でその後、『王様』と呼ばれる」
 早速ジャンケンをすると、初代の王はアンズさんに。帽子を被って、町に出る。しかしここは江ノ電でももっとも大きな駅、鎌倉だ。道もあらゆるところに伸びていて、かなり隠れ場所もある。想像通り、3分後にみんなバラバラになって彼女を探すが、全くみつからない。途中で反対側から安達君が歩いてきて
「こっちにはいなかったよー」
 などと情報交換したりして、汗だくになって鎌倉の町を彷徨い歩く。
 もう誰か別の人が帽子をひったくっているかもしれないので、とにかく、帽子だけをたよりに、人の頭だけを見て歩く。
 ところが鎌倉という土地柄、観光客のおっさんやおばはんは、帽子を被っている人が予想以上に多く、惑わされる。だからといって
「なんでそんなに帽子をみんな被っとるんじゃー!!」
 と文句をつけるわけにもいかない。しかし王様は見つからないように絶対大通りは避けるはずだからと、小道小道と探していく。時間も20分が経ち、少々あせってとある路地に入った時
「・・・いたっ!!」
 最初に被っていたアンズさんがそのまま被って余裕で歩いている。
「あっ、キャーッ!!」
 と言っても遅いんじゃあっ!! ふっふっふ。王様は走れないからな。サッと帽子を取り上げると、「王様帽」を被って、早足で逃げる。ちなみにカメラマンとして、帽子を被っている者と一緒に編集の入舩君も歩いているので、「よしっ、そこの小道だっ!!」と入ったところ、そこは「ホワイトホテル」というホテルの入り口で、これじゃ前回の「山手線一周すごろく旅行」の時と同じく、ホモカップルとして入舩君とホテルに入ってしまうわいっ!! ということであわてて、来た道を戻る。しかし思うような小道が見当たらない。と、後ろからヒタヒタと近付いてくる足音。
「ヤバイッ!!」
の声を出すまでもなく、再度アンズさんに帽子を奪われる。くそー、1分待ってから追跡だ! っと全速力で小道から小道へと走ってみるが、ついに時間切れ。見事、アンズさんが王様に。
 ただし「王様、電車来たよっ!」とその後みんなに言われるだけで、王様になった意味は何もなかったが・・・。

(総括) 王様や 帽子被って ただマヌケ プライドなんて そんなもの也

 さて、江ノ電も終点鎌倉まで来てしまったが、まだ陽は高い。本来のすごろく旅行のルールでは、「戻り」はないのだが、「江ノ電フリー切符」がもったいないんじゃーということで、同じ駅に戻るのでなければOKということにして、どきどきサイコロを振ってみると、5。稲村ケ崎だ。この駅は通り過ぎただけだったので良いことにして、来た道をまたコトコト戻る。クジ。
『食堂に入り、それぞれ今までの人生で一度もオーダーしたことのない物をたのむ』
 早速海辺に出てみるが、高級でコジャレた寿司屋やレストランばかりでメニュー以前に店自体が「今までの人生でオーダーされてこなかった」俺達なので、駅前の地元民御用達の中華料理屋へピューッと舞い戻る。
 それではオーダーと、今まで何故それを頼んだことがなかったのか、一言ずつ、どーぞ!

 まずは俺は『かにたまソバ』理由は、かにたまは、飯でガッツガッツ食らいつきたいから。麺の上に載っけると、かにたまが微妙にふにゃけていって、いやなんじゃー。
 足立君の『マーボーメン』も同じ理由。
「やっぱ、マーボーは飯に載せてガツンと食わなきゃ! どこまでが汁で、どこまでがアンなのか境界も曖昧だし」わかるぞ、その気持ち。
 田中君『鳥南ばん』
「なんか、パンチがないっすよ。とにかく名前も内容も。男らしくない、というか」
「食ってみて、どう?」
「やっぱ、パンチないっす。別にまずくもないけど、もう二度と頼むことはないっす。なんせ、パンチないっすから!」
 とにかく君にとってパンチが一番大事、ということだけはわかったぞ。
 マニ『ニラレバ炒め』
「ニラもレバも好きじゃないー」
 それじゃわざわざ頼まないわな。ニラレバ食わずに死んだ人の話しもまだ聞かないからな。
 松本さん『おかめそば』
「なんか得体が知れないから。おかめの顔になってるの? ドラえもんパンみたいなもの?」
 まぁ大ざっぱに言えばそうだが、ドラえもんパンとはちょっと違うと思うな。しかも、出てきた物は単に具が多いだけで、何の顔にもなっていなかった。
「これのどこが『おかめ』なのよー!!」
 まぁ、抑えて、抑えて。店主の胸ぐらつかみに行くほどの事じゃないでしょ。
 そして、アンズさん。『うま煮そば』。
「なんで? 割と普通の物だけど!?」
「だって、馬が煮てあるんでしょ? なんか、気持ち悪くない!?」
 いや、それは・・・「馬煮」じゃなくて「旨煮」なんだ。パカランの音は、聞こえないよ・・・。

(総括) うまにそば 旨煮がもしも 馬煮なら おかめそばは お亀そば也

 さて、前回の稲村ケ崎から5が出て、「湘南海岸公園」駅。夕闇も迫ってきた。今回最後の下車地だ。クジ。
「マッドサイエンティスト(気狂い博士)が住んでいそうな家を探す」
 ここ湘南海岸一帯は、戦前からの保養地でもあり、松の木の多い、静謐な感じもする海辺の住宅街だ。しばらくそんな町を皆で行進する様に歩きまわり、少々歩き疲れた頃、俺は、一軒の古ぼけた洋館の前に立った。と、俺は吸い込まれるようにその中に無言で入って行った。みんなの表情がサッと変わる。
「えっ! かっ、勝手に入っちゃうの!」
 おどおどしたそんな声も聞こえてきたが、この旅行の隊長でもある俺は、
「クジの為なら、この命果つるとも!」
 と呻きながら、さらに玄関の横にあったチャイムを鳴らしてしまった! 
「どちら様ですか!?」
 年輩の女性が顔を出す。マッドサイエンティストのお手伝いさんだろうか!?
 俺達は一瞬、口ごもる。一体、真意をどう伝えたらいいのだろうか!?
「ここはマッドサイエンティストの家ですか!?」
 と聞けばいいのだろうか!?
 しばしの沈黙のあと、しかし俺はその重たい口を開いた・・・。

「あー、どーも。浩司です! しばらくですー!」
 ・・・そう、実はなんとこの家は、俺のおばさんの家だったのだ! というか、この家の離れは、俺が1才から小学校1年生までの幼少時を過ごした懐かしの我が家だったのだ! 駅でクジを引いた時、全くの偶然にこの家が近い事に気づき、さらに古い洋館でもあることからクジにも当てはまるので、みんなに「こっちの道の方が怪しい気配がするよ」などと言ってさり気なく誘導してきたのだ。
 はっはっは。勇気の持ち合わせがどこにもない俺が、知らない家のチャイムなんて鳴らせるもんかいっ! ってなことで、おばさんの家といっても俺自身も中学生の時に来た以来なので、なんと25年振りの来訪。いやー、ごぶさたしてます。おばさんは不意の意味不明の団体客に、とまどいながらもお菓子やお茶をふるまってくれた。
 しかし大正時代頃に建てられたと思われるこの家は、充分マッドサイエンティストが住んでいてもおかしくない雰囲気もかもし出しているので、まさに偶然のいたずらのクジとも言えよう。但し、おばさんには最後まで「雑誌の取材で偶然このあたりを通ったので、寄ってみました」と伝え、クジである
「マッドサイエンティストの家を探して、ここにたどり着きました」
 とは、言えなかった。いっ、言えるかいやー!!

(総括) 四半世紀 経て戻る家 懐かしや されどクジなら 気狂い博士家
エッセイ酒場に戻る
石川浩司のひとりでアッハッハーに戻る