京浜東北線すごろく旅行(フロムA)
今回からの旅行は京浜東北線。「ふるさとのなまりなつかし停車場の」上野駅から北上だ。まず出たのは1。隣の鴬谷だ。鴬谷といえば、笑福亭鶴光の「鴬谷ミュージックホール」という曲で有名なところだな。えっ!? 誰も知らない? むむぅ、ジェネレーション・ギャップか。くそぉ。クジを引く。
「生きているイキモノを10種類以上みつける。但し、人間・植物以外」
しかし駅前は延々と続くラブホテル街。怪し気な男女はモソモソといるが、人間は駄目という掟だし、ホテルの中に精子と卵子はたくさんいそうだが、これを生物といっていいのかどうか・・・。
と、ともかく、つまりはコンクリート・ジャングル。こんなところに生物が10種類もいるのか? と誰かの「すずめ!」の声。確かに頭上にはすずめがピーチク舞っていたので、ひとつめっけ。しかし他にはどーやらあまりこのあたりには何もいそうにない。むむう。そこで、駅の裏側に墓地のような所が見えたので、
「あそこの方が生物はいそうだ!」
ということでそこに向かうことに。途中、駅の構内を北口から南口に抜けさせてもらうと、南口の出口付近に、なんと「カブトムシ持ち帰り自由」と大書してある巨大な昆虫ケースを発見。カブトムシが沢山うごめいていた。おおっ、太っ腹じゃないか、鴬谷駅! ということで二匹目発見。もっともそのカブトムシのうち半分はピクリとも動かなかったので、イキモノではなかったがな。
それから墓地のまわりを、暑いので日陰を影踏みのように、ピョンピョンと皆で渡り歩きながら歩いていくと、次々と生物がみつかる。アリ・カラス・トンボ・ハト・蝶々。視線を上や下にキョロキョロしながら進んでいく。蝉の鳴き声は姦しいが、姿が見えず、一匹とは数えられない。「コウモリだっ!」という人もいたが、他の人が確認できなかったので駄目。上野動物園が近いので、ゾウとかキリンとかパンダとかが脱走していて、平然とカポカポと路上を歩いていたら、すげー面白いのにな、と思ったが、さすがにそんなことは起こらなかった。蜘蛛、ハエ、蜂をみつけ、10種類達成。さらに寛永寺内の墓地にて、ネコチャン発見。人なつっこかったので、捕まえて抱き上げてみる。猫はやっぱりかーいーなー。さらに、犬を二匹連れたおばさんも発見。計12種類のイキモノを発見、意外と都会にも、生物が多いということがわかった。って、これじゃまるで夏休みの自由研究だな。
(総括) 大都会 けなげに生きてるイキモノの 今日一日に目が楽し
前回の鴬谷から3が出て、田端。のはずだが、切符を買い、皆でニッコニッコしながらホームに立って京浜東北線の列車を待っていたら、列車はそんな俺達をあざけ笑うよーに、ミュゴーンと前を通り過ぎていった。
「・・・んっ?」
そう、上野駅の最初のひと振りはまだ10時だったので、次の駅は鴬谷だったのだが、なんと午前10時半から夕方まで、京浜東北線は全線快速になってしまい、鴬谷は通過してしまうのだった。
「アジャパー!!」
「なになにっ!? 夕方までこのホームでポカーンと口開けてろっていうの!?」
の声。それじゃ、いくらオマヌケすごろく旅行でも馬鹿過ぎる。ということで、ルールをちょっとだけ変更して、全く同じ線を走る山手線にミュンミュン乗って、ようやく田端に到着。クジ。
「公園に行き、スイカをボールにして、ゴルフ大会をやる。割れないように注意してやる」
ってことで、クジもまた、馬鹿だった。まずはスイカを買わなくては。おーい、スイカーっ。商店街は駄菓子屋や古本屋などがあって、下町情緒満点。もう使われていない瓶のジュースの自動販売機は、草に覆われているが、センヌキがついていて、懐かしい。「祭りの神輿の担ぎ手募集」のポスターもあちこちに貼られている。そんな雰囲気の中、八百屋さんで、
「なるたけマン丸のスイカをくださいな~」
して、「田端西台児童遊園」へ。砂場の一角にスイカがはまりそうな穴をみんなで靴でガッツンガッツン開け、アンズさんの持っていた折畳み傘をクラブ代わりにして、順番にスイカを転がしていく。大の大人がワーキャーいいながら、傘でスイカを転がしている。俺達は夢中だったが、横の道を通り過ぎる人達の足がスタタタと早かったのは何故だろうか。
でも、そんな馬鹿な俺達の中でも、さらに異彩を放っていたのがパニャグルミン夫婦だ。このふたりはキャプテン・パニャとグルミチコという着ぐるみパフォーマンスユニットをやっていて、実は俺の友達なのだ・・・。と「やっぱ、俺達はこの格好じゃないと」とか言いながら、やおら公園の片隅で、毛深い裸の上半身の上に、毛糸で作った、奇妙な服だかなんだかわからないカラフルな衣装をつけて、「トオリャー」とかいいながら、スイカゴルフに興じていたのだ。もちろん、公園の脇を通り過ぎる人達が、さらにさらに早くスタタタタタッ、シュビーンシュビーンと、通り過ぎていったことは、言うまでもなかった・・・。
(総括) スイカをば 傘で打ったら 骨曲がり 開かなくなって 夏真っ盛り
前回の田端から6が出て、埼玉県に入り西川口。ここは友達の健さんの住んでいるところなので、たまに麻雀をしに遊びにきたりする、俺にはなじみ深い町だ。ちなみに健さんのチンチンは、友人仲間で一番デカイので有名だが、この際、話しに関係ないので割愛させてもらう。あと、昔、腰痛で寝込んだというのでお見舞いに行ったら、部屋のゴミ箱がオナニーで使ったティッシュであふれ返っていて「そんなことだから、腰痛が直らねーんだよ!」と一喝した話しも、さらに関係ないので割愛させてもらう。
さて、クジは、
「全員キザになり、ポエムのような言葉で会話する。喫茶店にいく」
というものだった。しかしみな、なかなかポエムのような言葉が思いつかず、
「えーと、く、雲が・・・」
とか言ったきり絶句。不自然に押し黙ったまま、キザにふさわしい、小洒落た喫茶店を探す。と、今回のクジにぴったりのその名も「ポエム」という喫茶店を見つけたが、昼時であいにく満席。仕方なく、また町をうろつく。西川口には、アジアの色が濃い。韓国やフィリピンの食料品店などが、町に溶け込んでいる。なかなか雑多な面白い町だ。「ローズガーデン」という喫茶店を見つける。ランチセットが料理、スープ、サラダバー、ドリンク、デザートまでついて750円と、こりゃお得だっ! ということで、その店にズモモモッと入って、飯にガブガブ食らいつく一行。途中で、まったくただの食事を無心でニッコニッコしていることにハッと気づき、
「そういえば、キザは? ポエムは?」
と聞くとみんな
「ウッ」
と言ってまた口をもごもごさせるばかりなり。そして、
「料理の味はどうだい?」
とパニャに聞くと
「こっ、このまったりとした鶏肉は、柔らかく肉汁が出て、しょっぱからず甘からず、うまからず・・・」
って、そりゃ、キザじゃなくて『美味しんぼ』だろっ! あと、みんなキザというと、やたら語尾に「だぜ」をつけることしか思いつかないらしい。
「このスープは右半分が温製、左半分が冷製だぜ」
ってキザか? まぁ問題はその前にそのスープはなんなんだ、ということでもあるんだが。俺も料理を見て
「その地中海に沈む夕日のようなソースと、子供のように走りまわっていた鶏が、皿の上で出会い、えも言われぬハーモニーを奏でている」
とか自分で言ってて、わけわからんわい。むーん。せめてライスをフォークの背に乗せて食ってみる。意味なく、キザだ・・・。
(総括) キザ男 ハハンと手をあげアメリカン 氷の中で虫が笑うよ
前回の西川口から3が出て、浦和。ちょっと前まで埼玉県の県庁所在地として君臨していたところだが、現在はさいたま市になってしまったところ。クジ。
「30分間バラバラになり、すてきな物をそれぞれ拾ってくる。一番のお宝はなんだ?」
さぁ、果たしてただの道っ端に、お宝がそうそう落ちている物か? とにかく歩いてみよう。駅前はさすがに清掃局もしっかりしているのか、ほとんどゴミ、い、いや、お宝らしき物は落ちていない。そこで脇の細い道にそれていくのがお宝探しの常道。俺も裏道を入っていくと、何か書いてある木片が。拾い上げてみると「さとうかずひこ」と記してある。横には「さぶろー」とも。つまり「さぶろー」が「さとうかずひこ」にあてた、男同士のホモ碑か!? それとも、死んだ友人への怖い卒塔婆か? 謎は深まるが、一応お宝の候補として拾っておく。さらに歩いていると、ビルの駐車場の脇に何やらお宝の気配。と、未使用の「鈴虫のカゴ」が。中には土や木片が入っている。しかしよおく見てみると、鈴虫ではなく、便所虫が入りこんでいる。なんでやねん。しかしちゃんと「全日本すず虫協会」(そんなんあったのかっ!?)の作った本格派だ。ということで、意気揚々と帰還。
さて、他の人のお宝は。まず編集の斉藤さんは、なんとジパンシーの傘と、東急ハンズのバッグ。むむっ、ブランド物だな。まさかどっからか、かっぱらって・・・
「落ちてたんです!!」
そ、そうですか。パニャは自動販売機の下に落ちていたという、クマちゃんのアクセサリー。キラキラしているところが、お宝っぽいな。いらないけど。グルミチ子は、自転車放置区域の警告カード。
「・・・それ、宝か!?」
「私には宝です!!」
の強い声。無茶な女だな。アンズさんは、キティちゃんの安全ピンの頭と、ロト6の番号表。う~む。小泉さんは、松たか子のシール。
「松たか子ファンには垂涎物よっ!!」
って、でもただの紙屑に見えるんすけど・・・。そして渡辺さんはパチンコの玉ひとつ。
「もしかしたら、このひと玉が、何万円にも化けるかもしれないでしょっ!!」
たっ、確かにその可能性だけは秘めているが・・・。ということで、一応優勝は「夢だけはある」ということで、渡辺さんに。オメデトー。でも、最後にひとつだけ言っておきたい。みんなは、お宝を拾ったんだよな。なのになんで、「次に進むか」と言った途端、駅前のゴミ箱に全部投げ込むんじゃーい!!
(総括) お宝は 価値観によって変わる物 だけどさすがにそれはゴミでしょ
前回の浦和から3が出て、さいたま新都心駅。まだ新設されたばかりの、新しい駅だ。駅舎も、白いペンキのにおいが残っている。駅前はビルが何棟か建っているものの、建設途中の町、といった眺めだ。さて、ここでのクジは、
「4コマ漫画雑誌を買い、2人づつ組になり、その漫画どおりに芝居をする。どの組が一番受けるか?」
というもの。駅のKIOSKにはちょうどその手の雑誌がなかったので、駅前のイトーヨーカ堂に行き、購入。3組に分かれたので、雑誌をみっつにビリビリと乱暴に引き裂き、その中からてきとーに選んで芝居をすることになった。誰かが買ってきた「さいたま名物 沖縄サーターアンダーギー」という、
「そりゃ、さいたま名物じゃないだろう!」
と突っ込みを入れたくなるお菓子をパクつきながら、みんなどれをやろうか、それぞれの組で相談。しかし正味の話、これといって面白いものがないので、選ぶのに皆、苦戦。ついつい手軽だからそれなりに需要もあるんだろうけど、はっきりいって、ほとんどはひどいネタばかりだよなー、4コマ漫画雑誌って。それはともかく、なんとか選んで、駅のテラスのようなスペースで、その発表会をやる。みんな銀行強盗になったり、OLになったり、犬になったりと、しばしの懐かしの学芸会の風情。
「石川さん、芝居うまいですね!」
と言われて少しニンマリ。実は、ひと月ほど前まで、佐藤アツヒロ君や、中嶋朋子さんや、近藤芳正さんらと本当の芝居公演をしていたのだ。俺は老人役で、役者兼劇中バンド(たま)として出演していたのだ。そして来年には、俺がはじめて出演した映画「害虫」も宮崎あおいちゃん主役で、日活で公開されるのだ。(注・さり気ない宣伝・・・さり気なくない!?)ってことで「石川さんて、演技全然ダメですね」だったらヤバイところだったのだ。とりあえず、良かった、良かった。ということで、無事、即興学芸会(?)も終わり、駅に向かう面々。と、アンズさんが突然、
「さっきの、見ました?」
と言う。なんと、その時近くにいた高校生のカップルの女の子が、すんごいパンチラだったそうなのだ。
「な、何!?」
鼻息をフンガーッと荒くする俺とパニャ。
「俺、オールヌードとかよりも、パンチラの方が好きなんだよっ!」
と言うとパニャも、
「石川さん! 僕もそうなんっすよ!!」
と意気投合。と趣味が合ったところでパンチラはもう戻ってこない。おぉい、カムバァック!! パンチラー!!
(総括) 四駒の 漫画芝居はともかくも パンチラだけは悔し涙よ
前回のさいたま新都心駅から5が出たが、大宮で京浜東北線は終わりなので、そこから川越線に入って、川越。蔵の町として有名なここでのクジは、
「カラオケに行き、野球拳をする。これ以上脱げない人は『マイッタ』と言って、その姿のまま、腰をフリフリ、何か1曲歌う」
だった。商店街を通り、カラオケボックスに入る面々。なんでこんな由緒ある町に来て、いきなり野球拳をしなくちゃならないんじゃー、と言いながらも、ともかく開始! まずは俺とアンズさん。このすごろく旅行の連載当初から、ずっと一緒に旅をしてきたアンズさんだが、最後に一発、脱いでもらいまひょかっ! ウヒョヒョヒョヒョ!
♪やーきゅうぅーすーるならーこーゆう具合にしやしゃんせーアウト! セーフ! ヨヨイのヨイ! ありゃ、俺の負けか。しょーがないな、はい、帽子。♪やーきゅうぅー・・・あれ、また俺の負けか、靴。♪やーきゅうぅー・・・おいおい、俺の3連敗かよー、まいったなー靴下かー。♪やーきゅうぅー・・・えっ!? まじっ!? アンズさん無傷で俺がTシャツまで? おいおい、みんな何故、俺の腹を凝視する? ・・・そうさ。これが日本古来からの伝統の「太鼓腹」というやつさ。よしっ、こ、今度こそ。♪やーきゅうぅー・・・って、遂にズボンまで! さすがにもう脱げまへーん。めそめそ。ストレート5連敗じゃー。パンツ一丁の、それはそれはあわれな格好に。イヤン、見ないで! 見ないでったらっ! ・・・って、俺が作ったクジか。しょうがなく、その姿のまま、♪もーいくつ寝るとー、と「お正月」を腰をクネクネくねらせながら熱唱する俺。俺、昔は紅白にも出たことあるんだけどなぁ・・・今じゃカラオケボックスでパンツ一丁で腰クネクネ・・・これも人生じゃのう。
と、誰かが「窓!」と言った。カラオケボックスには通路から見える窓があるのだが、パンツ一丁のおっさんが中で腰をクネクネ歌っていたら、風営法違反の現行犯で逮捕される。あわてて窓の前にさり気なくひとり立ち、現場を隠蔽工作。そして次にパニャが登場。と、勝ったのだが、小泉さんは帽子、靴、靴下だけで「マイッタ」おいおい、早すぎるよ~。と、勝ったはずのパニャが「まだやりたい」とダダをこねて、結局、ジャンケン王アンズさんとやって、パニャも着ぐるみだけで裸に。ニヤニヤしながら歌うパニャ。結局、おめーは脱ぎたいだけじゃねえか! へ、変態めーっ!
(総括) 結局は 男の裸の乱舞だけ 蔵の町の夜の帳に
おわりに
さて、この原稿を書いている今現在、アメリカで同時テロで、大変なことになってる。ビルに飛行機突っ込んでビルがガンガン崩壊しとる。これを読んでいる人は、もう「過去の事件」かもしれないが、今の俺にはとんでもない事態だよー。とてもこんなおまぬけエッセイ書いている場合じゃないよー。と言ったから、というわけではないが、なんと連載が今回で終わってしまうという。ありゃりゃ、そっちの方がもっと大変だよー。ってな事で、最終回の今回は、世界の情勢に関係なく、今までこの「すごろく旅行記」で行った首都圏9路線の様々なクジの中から、印象に残ったクジを思いだしてみる。山手線、巣鴨「縄跳びで次の駅まで移動」は、ピョーンピョンと、さすがに馬鹿でなおかつ、つらかったな。原宿「踊りつき『アカペラ童謡団』を結成し、ストリートパフォーマンスをやる。お金が1円でももらえるまで歌い続ける」は場所がストリートのメッカ、原宿で良かったな。江ノ電、由比ヶ浜「しりとりをし、負けた者は駅前で奇妙な踊りを踊る」は乗降客がみんな、不思議そうに俺達の暗黒舞踏を、見てたな。中央線、高円寺「牛乳宴会。ひとり1リットル以上飲む」は、その後、メンバーの体調がトンデモナイことになって、トイレに走ったな。京葉線、新浦安「宇宙人語を喋る」では、レストランの人をビビらしたな。大江戸線、新御徒町「次の駅まで後ろ向きに行進」は道を間違え、3駅分も行進したな。しかも雨まで降っていて、アホ丸出しだったな。京浜急行線、弘明寺「電話ボックスの中に全員でギュウギュウに入り、家族に『今、ギュウギュウですが、元気です。それじゃ!』とだけ言って電話を切る」は、家族を安心させるつもりが、逆に不安にさせたな。京成線、中山「細道に入り、バラバラに分かれ、すれ違う人すべてに『こんにちわー!』と元気よく挨拶する」は、自転車の子供、あちらこちらから元気よく挨拶されて、驚いて転びそうになってたな。小田急線、下北沢「砂糖を3袋買い、佐藤さんの家を3軒探してプレゼントする」は、もらったおっさんも、わけがわからず、困ってたな。京浜東北線、田端「スイカをボールにゴルフ大会」は、まさに夏の風物詩だったな。ってなことで、思い出せばきりがないが、おまぬけをまじめにやってくれたスタッフと、読者のみんなには、感謝感激雨霰だぜ。おっと、もうお時間だ。んじゃ、また会う日まで、さよーならー。
(総括) おまぬけを やって笑って日が暮れる すごろく旅行にあがりはないよ
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