小田急線すごろく旅行(フロムA)



 さて、今回からの旅は小田急線。読者、スタッフ合計9名の面々が新宿駅に集合、早速サイコロを振る。2が出て、参宮橋。まだ新宿の高層ビル群がすぐそこに見える、マンションの多い住宅街だ。クジはちょうど、

「ビルの屋上に登り、自分の願い事を書いた紙飛行機を飛ばす」

 と、うってつけ &すごろく旅行には珍しいちょっとメルヘン風なクジ。「お空に届け、あたしの願い!」ということさっ! しかしいかんせん、セキュリティの厳しいビルが多く、屋上どころか、中にも入れないところばかり。ウググ、俺達を入れてくれい。そしてようやく見つけてきたのは、屋上は鍵がかかっているが、そのひとつ下の7階まではエレベーターで行けて、そこから屋上へ通じる階段の踊り場に窓があり、そこからなら、紙飛行機を飛ばせそうだ、というビル。

 途中で折り紙を買い、そのビルに皆で泥棒の様にこっそり抜き足差し足で忍び込む。まずは願い事をそれぞれ書き、もしも下の道に落下していたら、その内容をみなに見られてしまう、という風に取り決める。なので、みんな真剣によく飛びそうな紙飛行機作りにムゴゴゴと専念する。まずは景気づけと、俺から飛ばすことに。

「虹を越えて飛んでいけ~!」

 そう言って力強く飛ばした俺の紙飛行機は、なんと30cm飛んだと思ったらブーメランのように元の窓にシュビビビッと舞い戻ってきてしまい、全員ずっこける。俺の書いた願い事が、白日の元にさらされる。「一生、楽。」そーなんだよーっ。俺はとにかく楽が好きなんだよーっ。寝転がったり、だらけたり、よだれ垂らしたりして、くだらないことで笑って一生終わりたいんだよーっ。

 他の人達も次々とズモモーッと飛ばすが、風のせいか、それとも普段の行いが悪いのか、ほとんどは1mも飛ばずに、あとはハラホロヒレハラとヘナヘナ急降下していく。それからウモモモッと皆で下に降り、落ちている飛行機を広げて願い事を読み上げてやる。

「100万円のギャラの仕事」(当たり屋でもやるかっ!?)
「めくるめく素敵な生活」(水虫の皮ならめくれるぞ、たくさん)
「金」(「玉」付きならなんとか・・・)
 と、みんなやはり思ってる事はだいたい同じ、利己的な奴ばかりじゃなっ!! と、俺は何も言えないが・・・。そんな中、工藤君の願い事だけは、実に慎ましやかだった。
「また、おみくじで大吉がでますように。」
 神様、そのぐらいの願い事はかなえてあげてやって下さいな・・・。

(総括) 飛んでいけ 紙飛行機に願い事 欲望丸出し童心いずこ

 参宮橋から1が出て、お隣の代々木八幡へ。クジ。

「この町で一番シブイ居酒屋か食堂に行き、シブイつまみで、シブイ顔を作りながら、一杯飲む。」

 尚、この「シブイ」というのは、「かっこいいシブさ」ではなく、「味わいのあるシブさ」すなわち、はっきり言ってしまえば、ボロい店ほど良いのだ。建物自体が傾いているとか、何か獣の臭いのするとか、もしくは「これが店かっ!?」とかの、素敵な店はないかいなー。と、駅前には小さな商店街はあるが、ともあれ、まだ午前中だ。ちょっとシブめな店を見つけても、当然のごとく「準備中」の札。飲食店関係の店はほとんど眠りについている。グーグーグー。
 ってなことで、シブさはイマイチだが、唯一ランチをやっている居酒屋「H」へ。中には脈絡なくしょーもない民芸品なぞ飾ってあるところが、ちょいとわけわからんでシブイと言えば、シブイ。早速みんな、ビールやら焼酎、俺はウイスキーをダブルのロックでもらう。もちろん、カウンター席に座り、少々眉間に皺を寄せながらだ。なんせシブク飲まなければな。
・・・こらっ!! マニ!! シブク飲んでるんだからキャーキャーくだらないテレビの話しなどするでないっ!!
「マスター、つまみはチーズとサラミ、もろきゅうももらおうか・・・」
 とシブく言ったところ
「すいません~。つまみは夜からなんです。今は、ご飯ものしか出来ないんですぅ」
「むっ・・・」
 出鼻をいきなり挫かれたが、しょうがない。
「じゃあ、せめてシブイ飯でも食うか」
 そう思ってメニューを見た瞬間、衝撃が走った。
「こっ、これは・・・!!」
 そう、そこにはランチメニューとしていろんなカレー等が並んでいたのだが、その表記が「カレーライス」ではなく「かれいらいす」なのだ。しかもソフトドリンクの欄を見ると、「コーヒー、紅茶」ではなく「こーひー、こーちゃ」とカワイク書かれている。さらにアルコールが飲めない編集の入舩君がたのんだアイスコーヒーについてきたミルクピッチャーには、メルヘン溢れる「モーモーさん」の絵が。
「いっ、いっかーーーんっ!!」
 これはシブさから最も対極にある「清里高原や軽井沢で、ちょっとおしゃれなペンション、見つけちゃいました。きゃっはっ?」のセンスではないか!! しかしもうあとには引けない。俺達はそれぞれシブイ顔を作りながら「カレーライス」ならぬ「かれいらいす?」をただ黙って食うしかないのであった・・・。

(総括) シブサをば 求めて街をさまよって 着いたところはメルヘン酒場

 前回から3が出て、下北沢。おっ、久々におしゃれな街に到着したぞ、ララララン。さて、クジは、

「砂糖を3袋買い、佐藤さんの家を3軒探して、プレゼントしてくる」

 という、およそおしゃれとは何の関係もない悪戯クジだった。ここで佐藤さんの家を探し出し始めた時、読者参加の二階堂さんが言った。
「あたしの家、この町なんだよ」
 と、すごろく隊長の俺の顔は豹変した。
「ふふふ、そりゃ、おしかけさせてもらいまっせ、お嬢さん!」

 ということで、彼女の家をまずや急襲することに。ちなみにすごろく旅行はクジも重要だが、あくまで「知らない土地を観光する」も大命題だから、人の家は、滅多に行けない格好の観光地なんじゃー。おほほほほ。
 しかも二階堂さんはバリバリのパンク少女。髪は真っ赤に染められ、唇にはピアス、腕のタトゥーも本物だ。さて、この「純パンク娘」の部屋とは? アパートの階段を駆け登り、みんな興味津々でドアを開けるや、ドドドッとなだれ込む。壁にはトモフスキーとかピーズ、ニューロティカといった、「たま」がインディーズで活動していた頃共演などもした、ひと昔前のパンクバンドのポスターが一面に貼られている。そして部屋もピンクで統一されているが、意外にも小奇麗で、ゴミひとつ落ちていず、整理整頓も完璧。ルーズな感じは全くなく「真のパンクスは根はまじめ」を現していて、面白かった。

 さて、クジに戻ろう。佐藤さんの家を再び探す。と、あった。一軒目はアパート。しかしベルを押すも誰も出て来ず。しょうがないので、「佐藤さんなだけに、砂糖をプレゼント! 詳しくはフロムエーを見てね!」という謎の貼紙をして、砂糖をポストに入れてくる。
 ニ軒目に見つけたのは、お屋敷風の家。
「すいませーん」
「どなたですか」
 おじいちゃんらしき人が、その孫らしき子供をだっこして現れた。
「あのー、えーと、佐藤さんですよね? なので砂糖をプレゼントします」
「はぁ!?」
「いや、雑誌の企画でですね・・・」
 と詳しく説明するが、結局「よっく、わかんねえなぁ」って当たり前か。でもちゃんと砂糖は受け取ってくれた。「変な物は入ってませんので、安心して使ってください」と何度も言ったが、使ってくれてるかなー。
 三件目も不在のアパート。ここにも置き手紙とともにポストに入れて来た。しかしこのクジ、もしかして警察に届けられ「謎の砂糖投込み事件」になって一大騒動になってたりして・・・。

(総括) 佐藤さん 砂糖もらってくださいな ただのギャグです安心してね

 下北沢から5が出て、千歳船橋。クジ。

「500円ずつで、それぞれ自分の欲しい物を買い物。後、3文字しりとりをやり、勝った者が総取り」

 早速、町にバラバラに繰り出し、30分後にまた駅に集合することに。さて、500円でそれぞれ買った物は、まず俺は先程食べた昼ご飯の、食後のデザートが欲しかったので「アド街ック天国に紹介された店」というパン屋で、甘~い菓子パンを4個購入。工藤君はたいやき4ケ。やっぱり男は甘物だな、工藤君。会田さんは生のひまわり2本。乙女だな。アンズさんはアンデスメロン。ちょっと高級感あり。二階堂さんは「日本史から見た日本人・昭和編」(渡部昇一)の本。バリバリの赤髪、唇ピアス、タトゥーありのパンクスなのに、変わった趣味だな。加賀谷さんはおかしセットに、古本屋で買った漫画「浦安鉄筋家族1」に靴の脱臭剤。分裂症だな。マニは動くアーミー人形。ディスカウントショップででも買ったのか、ジージーいいながら匍匐全身する人形は、なかなか笑える。そして竹谷さんは、これもディスカウントショップじゃなきゃ3000円ぐらいしそうな、車の形をした、ミッキーマウスのかき氷器。とにかくでかい。ということで、8人もいるので、かなりの数のお宝となった。

 さて、駅近くの神社の境内に行き、ここからしりとり大会だ。3文字ならば有名な人名・地名もOKというルール。10秒間で言えなかったら失格なので、結構テンポが早い。と、最初はしりとり界の鬼門、「る」責め合戦になった。「ルール」「ルーペ」「ルード」「ルキノ(ヴィスコンティ)」などかなり際どい攻防戦が続いたが、次々と脱落していき、最後に残ったのは俺と工藤君という甘物男ふたり。と、突然「ぷ」責めが始まった。「プール」を言ったものの「プリン」は駄目だし、「プラスチック」のように3文字じゃない物はもちろん駄目。
「ぷ・・・ぷ・・・ぷぎゃーーーー!!」
 と雄叫びを残して、俺がついに工藤君に振り落とされた。やっぱり現役大学生の若さには、かなわんワイ。ということで、優勝は工藤君。
「おめでとー」
「わーい」
 素直に喜んだ工藤君だったが、次の瞬間、顔色が変わった。
「あの・・・てことは、これ全部これからの旅で俺が持つ、ということすよね」
「もちろんそうさ」
 なんだかんだで全部集めると重さも相当あり、なおかつ、かさ張ることこの上ない。そして彼はポツンとひとこと言った。
「これって罰ゲーム・・・!?」

(総括)「わーい」言う その喜びの裏に地獄あり 重き荷物で旅は続けり

 前回の千歳船橋から1が出て、祖師ケ谷大蔵。ここは俺が時々審査員で出させてもらっている「たけしの誰でもピカソ」収録の、砧スタジオの最寄り駅なので、なじみである。しかし町をゆっくり見たことはないので、ちょいと観光気分。クジをひく。

「次の駅まで、各自石蹴りをしながら行く。途中で石をなくしたり、蹴れない状態になったら、前より大きな石を探して蹴らなければならない。尚、次の駅まで3Km以上ある場合は、クジを引き直せる」

 これは郊外の駅で出た場合、次の駅まで5Km離れている、などということもあるので、あまりに苦しいと罰ゲームの要素が強くなりすぎてしまい、本来の「クジで楽しく遊ぶ」というものからかけ離れてしまうからだ。5Kmも石蹴りしてたら、きっと苦しくて悲しくなって涙チョチョ切れるからなー。ちなみにこのあたりはまだ都心の住宅地なので、次の駅まで3Km以内と思われるので、実行に。しかしもうひとつのお約束、「なくしたら前より大きな石」は、つまりへたをすると、石がどんどんでかくなり、最後には、巨大な岩を蹴らなければならない危険性もはらんでいるということだ。みんなで、道路をふさぐほどの岩をガンガン蹴っている集団がいたら、ちょいと怖い光景だな。
 それはともかく、早速、石探し。と、ちょうど駅の近くの工事現場に、石はいくらでも転がっていた。
「あっ、このカワイイの私の石!」
「へーん、私の方が黒くてかっこいいもーん!」
 とか意味のない競争心で皆「マイ石」を選び、そして次の駅である成城学園前まで蹴り始めた。駅前は商店街なので、障害物も多い。
「すみませーん、ちょっと失礼しまーす」
 とか言いながら、各自蹴り進めていく。
「いっくん、そっちいっちゃ駄目!」
 とか勝手にペットのように自分の石に名前を付けてる奴もいる。側溝に落ちてしまったり、広場に蹴り入れてしまい、他の石と混ざってわからなくなったりで「二代目でーす」「三代目でーす」なんてのも続出したが、なんとか皆、岩にまではならずに進む。途中、石蹴り集団が次々通り過ぎていくので、おばさんに、
「流行ってるの?」
 とか聞かれて
「ええ、今、ニューヨークじゃ凄いんですよ、これ。ブームで。」
 とかテキトーな嘘つきまくりながらもポーンポーンと蹴っていく。なんだか、小学生の頃に戻ったみたいで、懐かしかった。といっても、端から見れば、ただの馬鹿軍団にしか見えないかもしれないが・・・。

(総括) 石蹴りや 蹴った数だけ 若返り

 前回の祖師谷大蔵から6が出て、準急に乗った為、新百合ケ丘へ。このあたりは20年ほど前、通学の為、頻繁に沿線風景を見ていたところ。当時は山を荒削りして新興住宅地がポツポツあるだけの寂しい所、という印象だったのが、デパートなどがいくつも建っていて、アリャリャーと、隔世の感。クジ。

「神社に行き、自分が体験した怖い話をする」

 ・・・と、それまでカンカン照りだった空が一転、にわかに黒くかき曇り、大粒の雨が降って来た。まるで恐怖の演出効果のように。さらに、駅前の地図で神社を探してみると、「十ニ神社」というがあったのだが、ここの入り口がなかなか見つからず、ひと苦労した。結局人に聞いたところ、分かりづらい山の脇の細道の、雨の為、泥々にぬかるんだ石段を上がり、ようやく到着。境内にこしかけて、それぞれの恐怖体験を語る。金縛りにあった話しなど、やはり心霊的な話が多かった。

 俺も昔、イギリスのオックスフォードの郊外の、中世の貴族の屋敷を改造したスタジオでの恐怖話を語った。そこは裏手が荒れた教会と墓場になっていて、その屋敷自体も古く、まさにホラー映画の舞台そのままという場所。そこである夜、子供もいないのに、部屋の壁一面をクレヨンでグチャグチャに落書きをされていたことがあった。エンジニアの人が霊感が強い人だったのだが、それを見た途端卒倒しそうになっていた。テラスもない二階の窓に、外から人が顔を覗かせていたこともあった。また、まだやっと言葉が喋れるようになったメンバーの子供が、誰もいない真っ暗なピアノ室から出て来て「お兄ちゃんや、お姉ちゃんがたくさんで、パーティやっているね」と無邪気な顔で報告していたこともあった。さらに天井裏から、イギリスだというのに、低くつぶやくようにお経が聞こえてきたこともあり、スタッフが「ギャー」と叫びながら階段を転げ落ちてきたこともあった。もっともこれだけは、実は屋敷の管理人が屋根裏部屋に住んでいて、日本に総本山のある、とある宗教に入信していて、本当にお経を唱えていたのだが・・・。でも、次々と話していて、工藤君が最後に、
「怖かったですよ。この前、トイレに入ったら、ウンコが、ウンコが緑色なんです!」
 結局疲労かなんかで、そんな色のウンコが出てしまい、何日か入院したそうだが・・・そうだな。結局世の中で一番怖いのは、霊とかそんなものじゃなくて、自分の健康だからな~。

(総括) 雨の中 恐怖潭を話しけり 神社の神もそっと聞き耳

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