京浜急行すごろく旅行(フロムA)



さて、今回からは京浜急行の旅。遅刻してくる名物マニをおいて出発。なんでも、編集の入舩君が前の夜、確認の電話を入れたところ「わかりましたぁ!」と元気に電話に出たものの、待ち合わせの品川で電話を入れてみると、
「ふにゃっ!? ・・・今、起きた」
 とのことで
「バッカモーン、すぐやってこーい!」
 ということで、残りのメンバーでとりあえず出発。3が出たので、「青物横町」かと思っていたが、切符を買うのに並んでいるうちに各駅停車が行ってしまい、はっと電車に乗ったら特急で、3駅目は横浜。いきなり今回はすっ飛ばすぜ。クジを引く。

『500円以内で、この旅に何ら関係のない物を各自買って来る。あとで交換会をやり、旅が終わるまで持ってまわる』

 30分後集合で、みんなちりぢりばらばらになる。本当は100円ショップとかあれば、俺はモップとかバケツとか、フライパンとか鉄アレイとか、簾とか足つぼ竹踏みとか、いろいろ思いつくものがあったのだが、残念、巨大駅すぎて、駅前には高級デパートだけ。果たして500円でいかに「なんでこんな物持ち歩いて、旅してるんじゃあーーーっ!!」という物が買えるか。雑貨売り場とかを見て歩くが、どれも500円以上の品ばかり。むむぅ。そこで地下に降り、食品にすることに。出来るだけ重ばって馬鹿みたいなものが良い。フランスパンとかパイナップルとか迷ったが、結局八百屋に行き、ゴボウ、ネギ、ニラの「長い野菜セット」にする。持ちづらいぞ、ククク。時間ギリギリで待ち合わせ場所へ。さて、皆は何を買ってきたかな?
 読者の、着物でおしとやかに登場の山尾さんは、サボテン。もうひとりの読者浅田さんは、加護亜衣のCDケース。アンズさんは麦(花屋で売っていた観賞用の物らしい)。入舩君は仮面ライダーのお面。ということで、ジャンケンして、それぞれもらう物を決める。結果、俺が一番勝ちでサボテンをゲット。ちょっとチクチク痛いが、旅のあとで観賞用に使えるからな。アンズさんは加護亜衣。友達にファンがいるのであげるそうだ。山尾さんは俺の「長い野菜セット」。和服とあいまって、本当に近所に買い物に出たオバチャン。入舩君はちょっとシュールに麦の稲穂。そして、浅田さんが駅の階段を登っている時、
「お姉ちゃん、なんか落ちたよ」
 そうお兄ちゃんに言われて拾った物は、恥ずかしい仮面ライダーのお面だった。さぁ、わけわからん物かついで、馬鹿旅に出発じゃい! 

(総括) 旅に出る 時は持ち物少なめに 決して持つなネギニラゴボウ

横浜から6が出て、弘明寺。クジ。

「ひとつの電話ボックスの中に、全員でギュウギュウに入り、それぞれ家族に電話して『もしもし○○です。今、ギュウギュウだけど、元気です。それでは!』とだけ言って、電話を切る」

 ここ弘明寺は古い門前町のようで、寺の前に、古そうな佇まいの商店街が続いている。草履屋があったり、干菓子を売っている店があったりで、なかなかの風情。そんな中、電話ボックスを求めてポクポク歩く。赤い欄干のある橋を渡り、広い道路まで出てやっと電話ボックスを見つけた。まずは5人でギュウギュウにボックスの中に詰まる。「ウギャー!!」「もっと詰めて、詰めて!」前の商店のおばさんが「あらあら!」とか声に出して、不審がってる。そりゃ、そうだ。春先にはおかしな連中が出るものさ。押しくら饅頭状態で、汗ダラダラ。さて、電話だ。まずは入舩君から、実家にかける。
「もしもし、あぁ、僕だけど。今・・・ギュウギュウだけど元気です。えっ!? あっ、あのね・・・」
 とその時、無情にも、俺は電話のフックをガチャリと下げた。それ以上何も喋らせないように。
「何って言ってた!?」
 と聞くと、
「バーサンが出たけど、耳がちょっと遠いので、最初の『ギュウギュウ』がよく聴こえなかったらしくて『元気でやっとるねー』と嬉しそうに言ってたよ」
 とのこと。入舩君のおバーサンも安心だな。孫が元気で・・・。
 次に浅田さんがかける。同じようにその言葉だけ喋らせて、力づくで切る。
「弟が出て、『はぁ!?』だって」
 浅田さんの弟君よ。君は正しいぞ。その受け答えが正常な反応だぞ。そして、山尾さん、アンズさんは昼間ということもあり、残念ながら家族は誰もつかまらず。最後に俺が実家にかけてみる。トルル・・・
「はい、石川ですが」
 母親が出た。
「あっ、浩司だけど。今、ギュウギュウだけど、元気です。・・・それじゃ!」
 と一方的に言って切った。ちなみに母親の返事は「あら、そう」だった・・・尚、夜、家に帰って妻にその話をしたら、妻はあわてて「そんな電話したら、心配するじゃない!」と言って、俺の母親に事情を電話していた。すると母親は呑気な声で、「あぁ、変な電話で、ギュウギュウとか言ってたから、なんか監禁とかされているのかしらー、と思ったけど、『元気です』って言ってたから、元気ならいいわね、って思って」と言っていた。もしかして、俺の母親って、滅茶苦茶クール!?

(総括) 馬鹿なこと 今日も一日 やってます でもね母さん 元気が一番

弘明寺から5が出て、能見台。ここでのクジは、

「英語を喋る。どうしてもわからない言葉は、たどたどしいカタコトの日本語なら喋っても良い」

 で、昼飯をかねて喫茶店を探す。
「フェアーイズ・ティーハウス!?」
「ウイアー・ベリベリベリー・ハングリー!!」
 と、バリバリの和製イントネーションで町を闊歩。一軒の喫茶店に入る。
「何名様ですか?」
「ファイブ!」
 初老のおばさんがひとりでやっているような店なので、おばさんも(見た目は100%日本人だけど、台湾とか韓国あたりの人かもしれないわね)と少しおどおどしながら席を作ってくれる。しかし注文はあまり問題なかった。何故なら「ランチタイム・ハンバーグ・セット!」とか「スパゲッティ・ミートソース!」とか普通に言えば良かったのだから。最も、正式な英語ではないかもしれないが、どーせ正しい言葉はわかんねーからな、誰も。
 ところでここで、遅刻して今から参加するマニを編集の入舩君が駅に迎えに行くことになった。毎回必ず参加している我がたま企画室事務員のマニだが、今回これだけ遅れてくるのには、3つも原因があった。
 その1。品川に10時集合で、入舩君が今まで何度も場所や時間を間違えているマニに「くれぐれも」と前夜に電話していたのにもかかわらず、10時を過ぎても来ないので、西八王子に住むマニに電話してみると、見事に「フニャッ!?」と電話に出た。
 その2「ともかく、来い!」と言って「京浜急行に乗ってるから、途中で携帯で連絡するからとにかくそこに向かえ!」と言ったところ「はいっ!!」と元気良く返事して、「京浜」だけ聞いて「京浜東北」線に乗っちまった。
 その3、さらに「『能見台』というところに向かってるので、そこで落ち会おう!」と言ったら、またもや「はいっ!!」と元気良く返事して、「台」だけ聞いて「洋光台」に行っちまった・・・。
 なっ、うちの自慢の事務員はモノホンだろう!? が、なんとかここまでやって来て、しばしの再会を喜ぶ。「マニ・ユーアー・フール!」
「へっ!?」
 まだクジを読んでいないマニは、わけわからず。俺がクジの書いてある紙を見せる。と、
「わかった! じゃなくてラジャー!! トコロデ『フール』ッテ、ナンデアタシガ、マンイン!?」
・・・ってそれは「フル」じゃいっ!!
 とそこにマネージャーから電話。
「ちゃんとやっとるか?」
「オー、オールOK、ノー・プログラム!!」
「何言っとんじゃ、アホ!」
 馬鹿の次はアホだった・・・。
 
(総括) マニイズ・オールウェイズ・トラブルメーカー・バットトゥビィ・オールハピネス

 前回の能見台から2が出て、金沢八景。なかなかに風流な地名が多いが、駅前はどうってことはない。ただ、海が近いせいか、松の木が眺められるのがちょっといい感じ。さて、クジ。

「町の人をひとり捕まえ、全員でその人の似顔絵を描く。その人に『1番似ている』と言われた人は、全員にホッペにチューされる」

 近くに公園があったので、行ってみる。しばしそれなりの標的はいないかと探していると、ひとりでゲートボールの練習をコンコンやっている歯の抜けたおっさんがいた。(あの歯の抜けたおっさんだ)みんな無言でうなずきあい、近づく。
「あの~僕ら絵を勉強しているものなんですけど、似顔絵を描かせてほしいんですが」
 とテキトーなこと言って近づくと、ちょっとシャイなその歯の抜けたおっさんは、俺たちの顔もあまり見ずに
「でも、歯、ないよ。歯、ないよ」
 と繰り返す。俺たちが
「いえ、ただ描きたいだけなんで大丈夫です。」
 というと、
「本当に歯、ないよ。歯、ないよ」
 と言うが、別に歯がなくてもスケッチに支障がない事を伝えると、
「別にええよ」
 とそのままゲートボールを打ち続けた。俺たちは早速、その歯の抜けたおっさんのまわりを囲んで、スケッチを始めた。ところが、歯の抜けたおっさんはボールを打ち続けているものだから、目がボールを追っている為、なかなか顔を上げてくれない。仕方なく、俺たちはその歯の抜けたおっさんの下にムゴーッと這いつくばったり、まじまじと覗きこんだりして、なんとかシャーッシャーッと顔をペンで描いていく。そして描き終わり、歯の抜けたおっさんの判定を待つ。ちなみに本命はアンズさん。なんといっても、プロのイラストレーターだからな。続いて、美術学校に通っているマニ。そして美術ではないが、東京芸大に現役で通っている浅田さん、山尾さん。俺も一応、アルバムのジャケットや、自分の著書の挿絵などは描かせてもらっている。そして大穴は、編集部の入舩君。
「みんな、うまいねえ」
 と歯の抜けたおっさんはしばしお世辞をいいながら迷っていたが、
「誰かひとり、選んでください」
 と言うと、
「難しいねぇ」
 と言いながらも、つと、ひとりの人の絵を指差した。そう。それは、大穴の入舩君の絵だった!
「ちなみに、どういう部分が良かったんですか?」
 みんなとまどいながら聞く。と、
「この人のが、一番でっかく描いてある・・・」
 そ、そういう基準かい! 歯の抜けたおっさんよっ!!

(総括) ごほうびの チューの力は俺が一番 強かったですと入舩泣かむ

 最近ずっと、映画の撮影をやっていた。「害虫」(仮題)という日活の映画で、公開はまだ来年らしいが、青春物だ。そして俺はその青春映画のヒーロー! ・・・のはずはもちろんなく、浮浪者の役でごぜえますだ~。しかもただの浮浪者とちゃいまっせ。知恵も遅れてます・・・。ま、そんなことはこの際どーでもよろし。で、この映画の本当のヒロインは宮崎あおい(15)ちゃんというカンヌで賞も取ったことのある、実力派だ。ところで映画というのは俺は実は初体験だったのだが、待ち時間が結構長い。俺はもっぱら座って現場の様子を見てたりしたが、あおいちゃんは、待ち時間の間中、若いスタッフとキャーキャー鬼ごっこ。「ふっ・・・やっぱり、子供だな・・・」
 と微笑ましく見ていたら、なんと今回はそれとほとんど同じことを自分達がやってしまった。前回の金沢八景から5が出て、汐入。クジ。

「すきをみて、お互いの鼻をつまむ。なるべくつままれないように牽制しあう。一番多くつまんだ人は『鼻つまみ王』として、皆に頭を撫でてもらう」

 汐入はもう横須賀の街なかの駅で通称「ドブ板通り」が走っており、米軍関係者が闊歩する、アメリカンな町だ。そして、「鼻つまみ」は、やってみたらほとんど鬼ごっこだった。
「ふふふ~ん」
 と後ろからさり気なく近づき、鼻をムギュッ。または素知らぬふりして歩いて、後ろの気配にクルッと振り返りフニャッ。で、これが実は・・・すげえ盛り上がってしまったのだ!
 まさに童心に戻ってキャーキャーいいながら、路上で鼻をつまみあっているいい年の大人達に、さすがのネイビー達も
「オーマイガッ!!」
 だった。俺も調子に乗って電話ボックスの中に入り、ガラスの向こうから鼻を押し付け、豚鼻にして、
「ほらほら、つまんでごらん~」
 とフガーフガーと挑発する。アンズさんなどは、誰かに強引に鼻を押さえられたものだから、その場にへたりこんでしまったところ、他のメンバー全員に「ワァーッ」とのしかかられて鼻をつままれている。ほとんど真昼の集団レイプ現場。
 そーいえば、誰かの本で、
「老人になると人は子供になるというが、そうではなく人はずっと子供なのだ。ただ、一時期「常識」という服を着て「大人」になっているように見えるだけだ」
 ってな感じのことを読んだことがあるが、まさにその通りだな。ここでは一時、俺達は完全に「常識」から全裸になって、ひとりの子供として遊んでいた。

(総括) 鼻つまみ 鼻つままれて 春の日は おまぬけながら 子供に帰る

 前回の汐入から3が出て、堀の内という駅で下車。早速クジ。

「ひと駅歩く。途中、中華料理屋があれば必ず寄って餃子を食べる。10軒あれば10皿食べる」

 ちなみにこれは、読者が作ったクジだ。もしもこのクジが出たところに中華街とかあったら、おそらく全員の腹が餃子で爆弾のようにブッシャーンと、はち切れるな。そこまでいかなくても、結構、都会の駅とかだと、餃子が置いてある中華料理屋やラーメン屋、食堂が次々に軒を並べているところもある。さぁ、どうなるか!?
 ところがここ掘の内は、横須賀の町の外れの住宅街で、駅前には商店街もない。小腹もすいてきたところだが、もしかして一軒もなかったら、ちょいと逆に悲しいな。店がありそうな道をなるべく選びながら歩く。しばらく歩くと「のんき食堂」というなかなか味わい深そうな食堂が一軒。外から覗きこんでみると「餃子」の文字が。早速、突入。ここはまさにひと昔前の「昭和の食堂兼飲み屋」といった風情。
 先客のおっさんが、なにか変な物を手づかみで食っているので、(ありゃ、なんだ!?)とメニューから探してみると、何と豚足だ。豚足だけを頼んで、おっさんはムシャムシャとそれにしゃぶりついているのだ。しかも酒とかを飲んでいる様子もなく、ただただそれに食らいついている。なんとなく異様な光景だ。その他のメニューも、ちょいと不思議。ラーメン500円、餃子500円(ラーメンと同じ値段はちょい高め!?)、落花生350円、ピーナッツ350円(どー違うんだ!?)チーズ150円(なんか他の物に比べてやけに安いぞ)目玉焼400円、缶詰各種450円と、まさにのんきな品揃え。
 しかし今どき、缶詰を堂々とメニューに載っける食堂も珍しいな。皿には盛ってくれるのだろうか? まさか、缶詰と缶切りだけを渡されるわけじゃないだろうな!? しばらくして、ギョーザが出て来た。わりとペナペナと貧弱な感じだが、それが逆にわびしさを感じてちょいと良い。最初からタレがビシャーッと上からかかっているのも、さらに貧乏臭さを増している。というか、自分の金だったら
「これで500円は高いんでねーの?」
 というところだが、フロムエーの金で食っているので、別に良い。くくくく。そのあと、次の駅まで約15分歩いたが、結局餃子のある食堂はこの「のんき食堂」だけだった。マニがため息まじりに言う。
「もうひと皿ふた皿食べたかったねぇ。変にお腹が期待しちゃったよ~」

(総括) 餃子食い ニヤッと笑う その歯茎 ニラがついてて 変なお歯黒
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