大江戸線すごろく旅行(フロムA)



 さて今回は、最も新しく出来た地下鉄、大江戸線の旅。石原都知事の命名だが、ビミョーなネーミングだな。といっても、慣れてしまえばなんてことなくなるんだろーけど。ともかく、山手線に次いで第ニの都心環状線だ。「新宿西口」駅という、これまたちょっとビミョーなネーミングの駅から出発。サイコロは3。
「牛込柳町」という寺の多い住宅街の町。クジ。

「カラオケボックスに行き、10年以上前のヒット曲だけを歌い、ノリノリになる」

 だったが、聞き込みの結果、カラオケは一駅分以上歩かないとないことが判明、クジを引き直す。

「利き腕は一切使ってはいけない。喫茶店に行き、パフェを食べる」

 で、とある喫茶店へ。みんな利き手をポケットの中に突っ込み、なんとなくチンピラ風ヤサグレ感が出ているのに、オーダーは席に座るや否や朝から、
「チョコレートパフェ、5つ!」
 と全く得体の知れない集団だ。さてパフェだが、アイスクリームなどは、反対の手でもスプーンで問題なくすくえた。が、そこに乗っているリンゴとスイーティーがなかなか苦戦を強いられた。普通なら、反対の手をちょいと添えて剥いて食べればいいのだが、片手なのでそれが出来ない。スプーンですくおうとすると、変に力が入って、パフェのグラス全体が倒れそうになる。うーん。ということで、皆、パフェのグラスに強引に顔をウププと突っ込んだり、腕でグラスを押さえながら、
「ムゴーッ!」
 とうめき、全身を海老ぞらせながらパフェにガブガブ食らいつく一行に、店員も見てはいけない物を見てしまったと思ったのか、ハッと、静かに目をそらしていた。テーブルの縁を口から落としたクリームでベトベトにしながら、ようやく席を立つ。
 尚、この日はあいにくの小雨だったので傘を差さねばならないのだが、これまたひと苦労。ワンタッチ式ではなく、さらに片腕にはバッグを下げているので、片手で差すのは至難の技なのだ。なんとかがんばって気合いを入れたが無理で、ええいままよと、歯でガシッと傘の枝にはさんでヌオォッと、食いちぎるかのように開いた。まるで傘にプロレス技をかけている危ない親父のようだ。ようやく体勢を立て直してニコッと笑い、歩き始めた途端、
「石川さん、ホッペにクリームついてますよ!」
 ところがハンカチは右前のズボンのポケットに入っており、左手でそれを取ろうとしたら、何故か道路上で俺は、静かにくるっくる回転ダンスを始めていた・・・。

(総括) 利き腕の 使えない事不便なり ハンディキャップの 苦労知る也 

牛込柳町からの出目は1。牛込神楽坂だ。クジ。

「参加者全員をフルーツの名前で呼ぶ(必ずちゃんづけ)町中や店の中でも大声で呼ぶ」

 なんとなく、意味不明なクジだ。でもとにかく、自分が何のフルーツになるか、まずは決める。結果、アンズさん-デコポンちゃん、樋川君-マンゴスチンちゃん、持田さん-ストロベリーちゃん、入舩君-アボガドちゃん、そして俺は台湾バナナちゃん、ということになった。ちょうど昼時なので、近くの韓国料理屋に入る。店内はランチタイムということもあり、満席。席も全員一緒には取れず、他の客と相席をしている者もいる状態。そこで、でかい声でお互い会話する。
「ねぇ、マンゴスチンちゃん、何にする?」
「そーだな台湾バナナちゃん、俺、この定食にしようかなぁ!」
「じゃっ、デコポンちゃんは?」
「あたし、石焼ビビンバ食べたことないから、これにしようかなー。ストロベリーちゃんもこれにしようよー!」
 一瞬、店内のみんなの耳が凍り付き、そしてダンボになった。
(こいつら、何者だ!?)
(新手の宗教か!?)
 いい年した奴らがマンゴスチンちゃん、台湾バナナちゃんなどと言って普通に会話しているのだ。どー考えてもおかしいが、それ以外は別に上半身裸になっているわけでも、鼻に洗濯バサミ付けているわけでも、背中から天使の羽根を生やしているわけでもなく、普通に食事しているだけだ。なんとなく横目でチラチラ見られながらも、「町のちょっとした異空間」を作っていた。
 そこで思い出した。高校の時、当時流行していたベイ・シティ・ローラーズというバンドのパット・マグリンというメンバーの事が好きだ、と言っていた後輩の女の子に「パット・マグリンが好きなら、略してハマグリだな。今日からお前はハマグリちゃんだっ!!」と言ったら、本当にその名でその子は呼ばれるようになってしまった。で、ちょいと色気のある子だったので「ハマグリちゃ~ん」と呼ぶと、そのあだ名を知らない人達は「どんなエロな娘なんじゃいっ!!」と驚いていたことがある。
 ちなみにその後、ハマグリちゃんと付き合う事になった俺の友達が、
「これだけ浸透しちゃったら、いまさら呼び名を変えられない。でも、デートしててムード出てきた時に『ハマグリ・・』というと、なんか自分がアホみたいなんだよー」
 と俺を怨んでいた。う~む、人の名前はやはりあだ名と言えども、重要だな。な、編集のアボガドちゃん!

(総括) あと半年で 齢四十の俺だけど 呼ばれる名前 台湾バナナちゃん

 牛込神楽坂から5が出て、新御徒町。クジ。

「次の駅まで後ろ向きに行進」

 これは俺の歌「お肌ツルツル老人」の中の『後ろに走る老人 イヤデス~イヤデス~』という歌詞を具現化したクジだ。人が意味なく後ろ向きにズザザッと突き進んでいくのは、日常の中の非日常で、ちょいと怖いからな。やってみると、まず第一に、駅から出る時、エスカレーターに乗るのだが、これが怖い。生まれて初めて乗る子供のように、一歩が怖くてなかなか踏み出せない。みんなも一度やってみると良いぞ。
 さて、町に出る。と、みんな俺達を見て、まず「オヤッ!?」という顔をする。しかもひとりだけならともかく、来る人来る人、皆後ろ向きに両手を激しく振りながらやってくるのだ。何か自分が間違っている気がして、キョロキョロと振り返っている人もいる。事務所かなにかで、ボーッと窓の外を見ていて、
「えっ!?」
 とギョッとしている親父もいる。途中、「佐竹商店街」という下町っぽいアーケードがあったので、後ろ向きに入って行ってみる。と、突然、おばさんが散歩に連れていた犬が俺達を見て、
「ワワワンッ!!」
 と吠えだした。いや、犬よ。お前は間違っていないぞ。なにか、不自然な物を咄嗟に感じたのだな。怪しい気配を感じたのだな。正しいぞ。ってなことで歩いていると、別のおばさんが
「何? 後ろ歩きの練習?」
 と普通に聞いてくるので、
「ええ。みのもんたが『おもいっきりテレビ』で言っていた健康法です」
 とか嘘つきまくりながら、ズンズン後ろ向きに歩いていく。といっても、後ろに目があるわけではないので、首だけ捻りながら歩いているので、かなり無理な姿勢。さて、だいぶ歩いたのでボチボチ駅か。と、JRの御徒町駅らしい物が見えてきた。
「・・・んっ!?」
 新御徒町駅は「上野御徒町」の次の駅だったはず。ということは・・・
 ギャアッ!! 前の駅までさかさまに歩いてきてしまった!! ということはクジは「次の駅」までだから・・・今までの往復とあわせて、次の「蔵前」駅まで、計3駅分も後ろ向きに歩かなければならないことにっ!! みんな泣きそうになりながら、それでも後ろ向きに行進、行進。指を差して笑っているカップルもいる。くうぅっ。馬鹿丸出し。
 ちなみに次の日、何故かは知らぬが俺は首と太ももがパンパンになっていたので、行きつけの整体に行った。
「何やったんですか!? 凄く張っていますよ!!」
 ・・・答えられなかった。

(総括) 後ろ歩き 星人もしもいたならば ちょいと痛いぞ 首の筋肉

 前回の蔵前から、3が出て清澄白河。地名にあまり聞き覚えがないが、下町っぽい風情がいい感じで残っている町だ。クジ。

「架空の同窓会の待ち合わせ。年令が違っても同級生のふりをする。一番年下の者を『先生』に仕立てる」

 というまたまたお馬鹿なクジ。地図を見ると、近くに「深川江戸資料館」というのがあるので、そこを待ち合わせ場所にする。入舩君が「石川中学校同窓会会場」という紙を持ち、ばらばらにやってくる皆を待つ。
 ちなみに、俺は悲しいことに他のみんなとは、ひと周り以上年は違う。でも、今日だけは同窓生。
「よー、入舩! (気さくに)」
「おぉ、石川じゃねーか、久しぶりーっ(気さくに)」
「入舩も樋川も、なんか若いな(当たり前だ)」
「石川は、なんかちょっと中年みたいだな(・・・当たり前だ!)」
「いやー、俺、相撲取り目指してただろう? でも途中で挫折しちまってさ。で、その時から比べればだいぶ体重落としたんだけど、それが逆に皮膚のたるみになっちまってさぁ。ふけて見られちまうんだよな(ちょっと強引だ)」
「あっ、アンズ先生だ。先生~!(どう見ても20代前半。本当は幾つの設定なんだ!? そして一体、何才の時に俺達を教えてたんだ!?)」
「あら、みんなもう来ていたのね。持田さんもきれいになっちゃって(先生になりきっている)」
「あたし、歌手目指してたんだけど、挫折して、今はネイルアートやってるんです」(ネイルアートのところは本当。ってえことはもしかしたら、本当に歌手目指してたんじゃあ!? ちなみに、俺が税務署に届けてある「職業」は歌手だぞ。歌手の現実、ってこんなもんだぞ)
 受付のお姉さんや、入場券を買おうとしている一般客にわざとアピールするように、でかい声で話すが、誰もろくに俺達のことを見てくれない。おいっ、こっちを見てくれ。なんか俺たち、変じゃないか!? どー見ても変だろう!! しかし都会の人は、皆、他人に無関心だった・・・。くそぉ。しょうがないので、資料館を見学しながら、自分達だけの芝居を続ける。俺が告白する。
「先生、実は、アンズ先生は俺の初恋の人だったんです(照れながら)」
「何言ってんの。年が違い過ぎるでしょっ!(反対にな)」
 しかしそのうち、なんか本当にアンズさんが先生に、俺達が生徒に見えてきたから不思議だ。
「こうやって、久しぶりに逢うのもいいもんだね」
 そんな気持ちにもふとなったが・・・今日がほとんど初対面じゃーい!

(総括) ニセ同窓 気持ちはただの 中学生 鏡見なけりゃ 進歩なし 

前回から6が出て、赤羽橋。さて、ここでのクジは、

「ひとりずつ自己演出して『アイドル写真』を撮る」

 というものだった。ところでおっほん。みんなは俺が昔アイドルだったことを知っているかな!? なんせ、写真集まで出したことがあるのだ。これをアイドルと言わずして、誰がアイドルかっ!! ・・・但し、衣装も一切変わらない、おふざけ顔ばかりの、ほとんど「誰が買うんじゃーい写真集」だったが。今、古本屋に出れば「100円均一コーナー」か、プレミアがついて意外な高値でびっくり仰天か、どちらかだな。いづれにしても「珍本」なので、見つけたら買った方がいい。笑えるぞ。
 それはともかく、地上へと出てみると、目の前にはズドドーンと東京タワーがあるロケーション。とりあえず、そこに向かう。東京タワーと言えば、かつて某雑誌の企画で、外の階段で上の展望台まで歩いて風がビュービュー吹く中、ヒーコラ登ったこともある。高所恐怖症の俺は、涙チョチョ切れたな~。怖いぞ~。と思い出に浸りつつも、それぞれ撮影開始。とびっきりの笑顔や、ちょっぴり大人のアンニュイな顔など、それぞれ自己演出して、馬鹿丸出し。
 ちなみにアンズさんは「クレープを食べているちょっぴりオチャメな女の子。エヘッ!」
 樋口君は「『南極観測で働いたカラフト犬の記念像』前の、ちょいと意味不明な憎い奴」
 俺は「東京タワーみやげ物売り場のキッチュなタペストリーと満面笑顔」それから蝋人形館に入って、もう一枚「ビートルズと一緒にハイ、ポーズ」
 入舩君は「スタートレックの女性をリードするニヒルな男」
 そして持田さんは「あたし、お花畑の中にいるメルヘン・アイドルよっ。キヤッ!」と撮影は順調にいったが、ひとつ気になることがある。
 それはこの「東京タワー蝋人形館」だ。ずっと昔に入った時は、こんな風じゃなかったと思うのだが・・・。「白雪姫」や「世界の拷問」「シュワルツネッガー」ぐらいはまだわかる。しかし、その展示場の半分を占める「ジャーマン・ロックの殿堂」とは一体!? ロックミュージシャンの事なら、まあまあの知識のある俺でも、全く知らないミュージシャンの数々。クラウス・シュルツって、マニュエル・ゴッチングって誰なんじゃーい!! 蝋人形館の出口にも、マニアックなそれらの人々のCDが売られていた。日本有数の観光スポットは、実は日本有数のマニアックスポットだった!!

(総括) アイドルの 写真はホント 修正だらけ ニキビも皺も 何処に消えいく 

 さて、今回の旅、最後のサイコロは赤羽橋から6が出て、新宿。新宿西口駅から出発して、ちょうどぐるりと一周して「ただいまー」と帰ってきた感じだ。クジ。

「黒ガムテープで、全員チャップリンのようなチョビヒゲをつけて歩く。サブーイ駄ジャレを連発する」

 さぁ、みんな腰をふりふり架空のステッキを持ちながら、新宿の街が一瞬にしてアラスカのように凍りつくような、さっぶ~いギャグを飛ばすんじゃ!
「信号が変わらないので、シンゴーたまらん!」
「ルノアールはどこにアール? ・・・そこにアール!」
「どこに行こうか。赤・青・黄色でいいかな? 0Kだね。・・・カラーオッケー!!」
 ということで、カラオケに行くことに。実はこの旅で最初に出た「カラオケボックスに行き、10年以上前の歌をうたう」というクジが、その駅周辺にカラオケボックスがなかった為、保留になっていたので、今回のクジと組み合わせることにしたのだ。というか、男はたいして恥ずかしくないのだが、女性陣達はどーやらチョビヒゲがそーとー恥ずかしいらしく、ヒゲを付けたものの、手で鼻を覆って隠している。ずっと鼻をおさえているので、かえって人が「何事か!?」と振り返ってるんじゃー!! そんなんじゃ、いっかーん! と叱咤しようと思ったが、あまりにもしんどくて、楽しい旅が地獄の時間となるのもかわいそうなので、カラオケボックスに隠してやろうと、親心を出してやったのだ。ってなことで、ドドドとなだれ込む。
 と、途端に持田さんやアンズさんもヒゲ、全開にして、歌いだした。う~む、みんなカラオケとなると、人が変わるな。鼻息でヒゲがフンフン持ち上がって、馬鹿丸出しだぞ。樋川「ナオミの夢」入舩「座頭市」持田「ダイアモンドハリケーン」アンズ「ラムのラブソング」そして俺は十八番の「宇宙戦艦ヤマト」と古くさ~い歌のオンパレード。得点が出る機械だったので1000点満点で「あっ、850点か! うれしーい」とか「720点か・・・駄目だな」とか言ってた。
 と、最後に俺のバンド、たまの曲「オゾンのダンス」があったので歌ってみる。俺はリードボーカルこそとってはいないが、コーラスとかは当の本人だからな。ついに満点が出るか!? と期待は高まった。そして結果は・・・588点。どの歌よりも最低で「もっとがんばりましょう」って、画面のアニメがうなだれている。こっ、こらっ、うなだれるな!! 本人じゃ、言うちょろーがっ!!

(総括) カラオケを 歌うチョビヒゲ軍団に ウエイターだけ恐れおののく
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