あの時、この本(こどものとも0.1.2.)

正直、僕が大海赫を知ったのはつい最近である。
僕のマネージャーが子供の頃から大ファンだというので、本を貸してもらい、たちまち魅了された。その不可思議なお話と、本人が描くちょっと不気味な絵に。聞くと、大海赫は70~80年代頃に活躍したものの、著書がほとんど絶版になっており「幻の童話作家」と呼ばれていたらしい。しかしその独特の世界はファンも多く、復刊運動が行われ、21世紀になってから次々と本が甦ったという。
この本の扉に「ぼくは こわーい 本です。」と書かれているとおり、物や動物たちが子供らしいかわいい擬人化ではなく、シュールで怖いものとして書かれているものがほとんどだ。
一般の童話の勧善懲悪、正義は必ず勝つ、の価値観とはある意味真逆である。救われない主人公に軽いトラウマになる子供もいるだろう。しかしだからこそ子供たちの脳裏に深く刻み込まれ「子供の頃読んだあの不思議な本は何だったんだろう?」と再読を喚起させたのかもしれない。
そして社会は表裏一体だということ、かわいいものと怖いものは実は同じものだったりすることだという、社会の真実にはかなり小さい時から人は気づいているのではなかろうか。だからこそ大海赫に魅かれるのではないだろうか。

実は昨年秋、大海赫先生と一緒にイベントをやった。先生の紙芝居に僕がパーカッションや即興歌を付けたり、短い童話を僕が朗読したり。会場はニヒル牛というへんてこな作品ばかりが並んでいるアートギャラリー(実はうちの妻がやっている店なのだが)で、狭いながらも大盛況だった。
イベント終了後、妻に感想を聞いてみた。すると「今回お客さんは大人ばかりだったけれど、やはりこの世界は子供にこそもっと知って欲しい」。

そう。これは子供が初めて「怖い=物への畏れ」を知る機会を得られる、数少ない本なのだ。




 


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