ママとパパには内緒だよ5
第五回 明るい転校生
本日はこの連載初の中学生。三年生のまりちゃん。
学校では吹奏楽部に所属していて昔はホルンをやっていたが今はトランペットを吹いていると言う。
「へえ、音楽が好きなんだね〜。どんなの聴いてるの?」
「AAAとか少女時代とかモンゴル800とかJ-POPです!」
(名前は聞いたことあるがよく知らない・・・。そして僕も大きな括りだとJ-POPなんだろうけどまぁ知らないだろうな)
東京都下、田無市。
駅からお父さんに車で迎えにきてもらったが高層マンションが途切れたらいきなりトウモロコシ畑があったりやたらネジネジ(サインポール)の多い理髪店があったと思ったら昔ながらの赤い郵便ポストが現役で残ってたりと都会と田舎、過去と現代が入り交じった様な不思議な町だ。
そのまりちゃんの自宅であるマンションの5階でお話を聞く。
この日はまさに夏日だったが流石に上階は風通りが良く冷房が無くても気持ちいい空気が流れている。
東京に引っ越して来てまだ一年とちょっと。
名古屋で生まれ大阪、福岡、広島と転校を繰り返して来たと言う。
「転校生っていじめられたりしない?」
「全然ないです。吹奏楽やってたと言うと『あっ、私もやってるから入部しなよ』とその日のうちに友達出来ました!」
素晴らしい。明るく人見知りしない性格がそうさせたのだろうな。
転校をすることで嫌なことはほとんど無く、逆に全国に友達がいるのが嬉しいと言う。
確かに大人になったらいろんな所にいる友達を訪ね歩く旅も楽しそうだな。
僕も転校生だったのだが、神奈川から群馬に引っ越した時は何と友達じゃ無く先生のいじめにあった。
転校してしばらくして風邪で学校を休んだ時に担任の先生がクラスメイトにお触れを出したそうだ。
「みなさん、他県から来たよそ者の石川くんとは遊ばないように」
幸い「そう先生が言ってたけど、俺は遊ぶぜっ!」と言ってくれる友達がいたから助かったけど今なら大問題だろうなあ。
「真面目な感じだよね〜」
「あっ、でも小5の時はグループでちょっと荒れてました。その間先生3回変わったし」
「ええっ、どんなことしたの?」
「授業抜け出してトイレにみんなで籠ったりしました」
「トイレ?そこで何してたの?恋バナ?」
「(笑)友達や先生の愚痴とか」
「ああー、愚痴はあるよね」
「そうしたらトイレの前にその話題の先生が偶然立っていて」
「・・・そりゃ気まずいね」
でもトイレに籠って愚痴を言うくらいならカワイイものだ。
僕が中学生の時は小説を書いていた。
ただその小説の登場人物が担任など実在の学校の先生でしかもちょっとオトナな描写なども取り入れてた。
最初はクラスの中だけで回し読みされていたのがいつの間にかそれが人気を呼んで他のクラスにまで廻り誰かが本棚に無造作に置いておいていたところを先生に発覚。なんと僕の小説が職員会議にかけられる羽目になった。
悪いことをするいわゆる不良だとケンカとか万引きとかにはたいていそれなりのマニュアルもあり「こういう風に指導するように」があるらしいのだが、不埒な小説を書く生徒は例が無かったらしくどう指導していいか先生たちも大いに困ったらしい。
あの時の先生たち、すみませんでした!
でも石川はおかげでこの様に文章を書くことが少しは生活の足しになるようになりました!
どうかその様な生徒がまた現れたら広い心で見守ってやってくだせえ!
・・・話がまりちゃんからだいぶズレてしまった。
「お父さんとお母さんは仲いいの?」
「良過ぎるんです」
「良過ぎる?」
「私とお母さんはよくケンカするんですけど、するとすぐお母さんは『助けて〜』とお父さんに抱きつくんです。すると今度はお父さんが私に『助けて〜』とやってくるんです。私は『イヤ』と言いますけど」
絵に描いた様な幸せな家庭じゃん!
だからこんなに屈託が無く明るい子どもに育ったんだなあ。環境って絶対あるよなと思った。
と、お母さんが帰宅。
実はお母さんは韓国の方。「今からチヂミ焼きますよ〜」と。
「そんな気を使わないでください!」と言ったもののもう用意しているとのことでずうずうしくも頂くことに。
これが旨い!韓国料理のお店で食べるのよりいい味出してる。まさに家庭料理という感じ。
「おいしいですね〜!」
「薄く焼くのがコツなんですよ」
僕も韓国には4、5回は遊びに行っているが確かに何でもたいていおいしい。物によって辛さはあるが世界規模で見ればやはりアジアという括りの中で日本と韓国は似てるんじゃないかなと思う。僕らがヨーロッパのオランダとベルギーの違いがよく分からない程度に。
まりちゃんも毎年の様に帰省しているそうで韓国語も喋れるらしい。
そういえばちょっと前までアメリカの学生がホームステイしていたそうな。
日本語と韓国語と英語が入り乱れるインターナショナルな家。
これは考え方もグローバルになるだろうなあ。
将来は保育士か幼稚園の先生になりたいというまりちゃんは誰でも分け隔てのない素敵な先生になりそうだ。
すっかり御馳走になり、エレベーターの前まで見送りに来てくれたまりちゃん。
「バイバーイ!」
と別れてまた車に乗り駐車場を出ようとした途端、その出口の所にまるで忍者の様にまりちゃんが先回りしていた。
「あの、これ」
なんとかもめの本棚の写真撮影用のマスコット人形が部屋に置きっ放しになってたのだ。
「あ・・・ありがとう!」
ドジなスタッフの代わりにペコリとして再度別れる。
まあ僕たちはもうまりちゃんの様な若さは無いから忘れ物のひとつぐらいはしょうがないよね。
そう言いながらまた駅まで送って頂きお父さんにもご挨拶。
「チヂミ、おいしかったねー。まりちゃん、明るいいい子だったねー」
と言いながら駅のホームへ。
と、スタッフの元に一本の電話。
「あの・・・インタビューの録音機も忘れてますけど・・・」
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