ママとパパには内緒だよ3



第三回 ホラー・ダンゴムシ



(第二回は原稿紛失の為しばらくお待ちください)

僕は20代はずっと高円寺という町に住んでいた。
アパートの僕の部屋はミュージシャンの卵、役者の卵、絵描きの卵、写真家の卵など卵だらけの溜まり場でさながら養鶏所ばりに毎日コケコケ騒いでいた。
本日は同じ中央線のとある駅から徒歩十分、閑静な住宅街……と言いたいがちょうど隣のマンションが取り壊しをしておりそこそこ騒がしかったその中の一軒にお邪魔した。
昭和の香りのする「子どもの頃はこういう家多かったな〜」と思う木造平屋の一戸建て。
小さな庭には昔ながらの縁側。
ちなみに私的な話で悪いが最近17歳の女の子と19歳の女の子と54歳の僕でアイドルユニット「えんがわ」という名前でデビューしたのだがそれは本編と関係無いので割愛する。

今回そんな縁側にチョコンと僕と杏さんの間に挟まれてお喋りしてくれるのが小学校二年生のつむぎちゃんという女の子。
何故女の子とわざわざ書いたかというと僕の友達の子どもでやはりつむぎ君という名前の男の子もいるから。
最近は名前だけ聞いても女の子か男の子か分からない人も増えた気がする。
まあ僕らの世代では女の子は「○○子」男の子は「○○男」など明らかに性別が分かることも多かったがこれも時代なんだろうね。 僕は男女どっちか分からない名前、嫌いじゃないな。

つむぎちゃんは天真爛漫な感じのする女の子だった。
好きな遊びはドロケイ、ブランコ、すべり台などのアウトドア派。
「前の道で大声あげたり走ったりすると隣の家のオジサンによく怒られちゃう〜」
でもそれは車が来て危なかったり走って怪我するのを注意してくれるオジサンかもしれないよ。
最近は他人の子どもをちゃんと叱ってくれる人も減ったからね。
もしかしたらそれはいいオジサンかもしれないよ。ただ怖いだけのオジサンかもしれないけど。まぁどっちもなのかもね。

「大人になったら何かやりたいことある?」
「あるよ。んーとね、最初に『れ』が付いて最後に『ん』が付くもの」
「クイズかぁ……。んー、れんこん!」
「バーカー。れんこんになんかならないよっ!(笑)」
「ええとじゃあ、レントゲン!」
「……レストラン!」
「あっ、そうかあ」
などといろんなお話をしているうちに杏さんがこの連載のテーマでもある「何かお父さんに言ってないナイショ話って無い?」と誘導質問。
すると小声で「あるよ!」
「なあに?」
「宝箱」
「それ見せてくれない?」
「……いいよ」
そして部屋に戻ってしばらくガサゴソしていて小さな小箱を持って来てくれた。
「中、開けてみせて」
と、ザザーッと大胆にその中身をぶちまけてくれた。
中に入っていたのはたくさんの小石、梅干しの種、アルミホイルを丸めた物、虫の抜け殻、お菓子を包んでいた金の紐……。
ああ、こういうものが宝だったことあった、あった!
僕はなんだか急に嬉しくなった。
そうそう、大人には見向きもされないこんな物が何より大事で大切に大切にしていた。
それがいつか大人から勝手に「これには価値がある、これには価値が無い」を押し付けられて洗脳されちゃっている。
価値なんてものは物をどんな角度から見るかで実は変わってくるんじゃないかな。
本当はダイヤモンドよりも梅干しの種の方が価値があるかもしれない。
物の希少だけで決まる誰にでも当てはまる価値は本当の価値なんだろうか?
ひとつひとつキラキラと目を輝かせながら丁寧に説明してくれるつむぎちゃんを見ていてふとそんな思いがよぎった。

「他にも宝あるよ!」
興が乗って来たつむぎちゃんは次に虫かごに入ったアゲハの幼虫を持って来た。
「ヒエエ〜」
虫嫌いの僕はちょっと大げさにのけぞった。
まぁ苦手であるのは事実だが本当は虫かごに入っているのはそこまで怖いわけでは無いがちょっと演技した。
すると急にまたつむぎちゃんの目が輝きはじめた。
「えっ、大人なのに虫怖いんだ〜。じゃあちょっとここに来て」
そう言って庭に置いてあった縁側の足場になっているブロック塀のひとつをヨイショとひっぺがした。
「ウヒャア〜」
そこには案の定ミミズがのたくってた。
「やめてくれ〜」
僕が逃げると
「大丈夫だよ、怖くないよ」とケラケラ笑ってる。
そのうちダンゴムシを見つけるや僕の腕に載せてくる。
「ヒエ〜」
子どもは実は大人が怖がったりするのが大好き。これで一気に壁がなくなって僕をからかうつむぎちゃん。

実は僕にはやはり小学生の甥っ子と姪っ子がいるのだが、ある日僕が「猫のヌイグルミを異様に怖がる人」になったらそのふたりが僕を驚かそうと夢中になり途端に「一緒に遊べる大人」になったことがある。
もっとも久しぶりにふたりに会った時に僕は自分で作ったその設定をすっかり忘れており
「おじさん……ほらあっ!」
と猫のヌイグルミを突然出され
「んっ、なあに?」
と平穏に接してしまってふたりがポカンとするという失敗はあったのだが(笑)。
なので知らない子どもと仲良くなる為には大人という上からの存在じゃなくて自分たちと同じ何かに怖がったり怯えたりするただの人間になると親近感がますらしい。
子どもと仲良くなりたい人は是非試してみて欲しい。

ナイショ話が終わり家に入ってちょっとお茶をいただきお父さんと話す。
「この子、手の中からダンゴムシが20匹くらい出て来たことがあるんですよ」
ちょ、ちょっと待って。それは演技じゃなくて本当に怖いから。ホラーだから。
ヤ、ヤメテクレ〜〜〜。

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