ママとパパには内緒だよ1



第1回 カッコイイTシャツ



たま時代には何百回もインタビューされたことがある。デビュー当時は一日で取材が十本なんていうこともあり、しかもほとんど同じような質問だったりで「バンド名の由来は?」なんて同じこと答えるのが嫌になり途中からテキトーに嘘ついて「みんな多摩地区に住んでたのでたまです」なんて答えを変えてたこともある。本当は知らない猫を勝手に「た〜ま、たまたま」と読んじゃうように名前としてしか意味の無い言葉として「どこにでもいる野良猫のような名前」が正解なんですが。
ちなみに同時期に活躍していた「TMネットワーク」は当初は本当に「たまネットワーク」の略だったそうですよ。でもデビューする時にそれはカッコ悪いからとタイムマシーンネットワークということにしたらしいです。ハハハ、すみません。要らぬ知識でした。

しかして今回からはインタビューをする側の仕事。尚かつ第一回目が自閉症の双子の小学生という難題。やっぱり嘘ついた罰が当たったか・・・。一体大丈夫だろうか?久しぶりに若干緊張しながら待ち合わせ場所に向かった。と、展覧会の仕込みをしている会場に元気に遊んでる子供がふたり。何と彼らが今日のインタビュー相手だという。えっ、この子たちが自閉症!?何となく何を聞いてもずっと下を向いて「…うん」ぐらいしか返事をしない子どもを想像していたので肩すかしを喰らった。

りおん君としおん君。
元気な運動系がりおん君でちょっと細身の頭脳派がしおん君。杏さんがドーナツを渡すとふたりともすぐにホッペをチョコで汚して少し照れながらもこちらの質問にはちゃんと答えてくれた。でもこの知らないオッサン誰だと警戒されるのじゃないかと思ったら以前杏さんのイベントで僕がパーカッションを叩いた時に一緒にガラクタ楽器を叩いたことがあるという。なーんだそれじゃもうセッション仲間じゃないか!これなら話が早い。
「好きなマンガってある?」
「ドラえもん!」
おおっ、それならオジサンにも分かるぞ。ナントカレンジャーとか知らないヒーローが出て来たら、
「へえ、そんなのいるんだ…」
と話が続かないところドラえもんなら大丈夫だ。ありがとう、藤子不二雄先生!
学校の話になる。
「あまった給食はジャンケンで勝ちとるんだ!」
と食い盛りのりおん君。
「人気なのは狭山茶プリンとコーヒー牛乳」
としおん君。おぉそれはオジサンの時代にもやったよ。もっともコーヒー牛乳はあったけど狭山茶プリンなんてオシャレなものは無かったけどね・・・。
「ジャンケンはパーを出すと少し勝つ確率が高いみたいだよ」
とにわか仕込みの知識をひけらかすと
「えー、今の時代はチョキだよ!」
そ、そうか。ジャンケンにも流行り廃りがあるのか。じゃあジャンケンしてみようか。杏さんと4人でジャンケン。僕はパーだけ出すことにした。一回目パーで引き分け、二回目パーで勝ち。平成に昭和が勝った!
「ふたりはケンカすることは無いの?」
「それはあるよ。今日もした。10時34分に。」
細かいことを覚えてるなー。取っ組み合いとか?
「いや、口ゲンカだよ。だって暴力はやっちゃいけないんだよ」
おおっ、流石に平成の子どもたちは紳士だ。もう昭和とはケンカの仕方も違うんだな。
その後もいろんな話をしたがふたりとも本当に普通の子どもらしい子どもだった。と、その時気づいた。
「なんかカッコイイTシャツ着てるじゃん」
「あっ、これ僕たちが自分で描いた絵」
何とふたりが着ているのはそれぞれが自分で描いた絵だという。カッコイイ恐竜のTシャツだ。
「スゴい!」

そこでお母さんに登場して頂きお話を聞いた。
「自閉症だということを早期に発見したので治療教育をしたんです。」
「そうなんですか…。それはともかくこの絵はスゴいですよ!」
「納得いくまで止めないのでトコトンやらせてるんです。」
それですよ、お母さん。あまた居る天才に共通してるのは。
歴史に名前を残すような人はたいていその作品や業績とは裏腹に性格が変わっていたり他の人が平然と出来ることが出来なかったりの何らかの障害があることがほとんど。
その代わり興味のあることが見つかると尋常じゃない集中力で何ごとかを成し遂げる。
マイナスと思われてることは実は他の角度から視ると他の人には到底なし得ないプラスだということはよくある。
もちろんわずか一時間程度話しただけなので断言は出来ないが、苦しいこともあるかもしれないけど自分の道を見つけたらトンデモナイ逸材になる可能性は充分。
「実はこのTシャツも『JIHEIJIN-rioshio』というブランドで発売してるんです」
おおっ、お母さん流石だ。才能をちゃんと見抜いてる!そしてブランド名がそのままだ!(笑)
その時、僕は密かに決意した。
(りおん君としおん君とはこれからも年の離れた友達になってもらおう。もしかしたらスゴい有名作家になるかもしれないから・・・)

オッサンの考えることはいつもちょっとズルいのであった。

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