第七話 三日間


「えっ!? 冗談だろ、ははは」
 俺は携帯を肩ではさんだまま、奴の声を聞きながら部屋で足の爪を切っていた。
「違うんだ。残念ながら、本当なんだ……」
「でもテレビでも何も言ってないぜ」
「そりゃそうさ。なにせ官庁や大学はおろか上司にすら報告していない。知っているのは、おそらくこの世で俺ひとりだけだ」
 電話の相手は俺の親友。出来の悪い俺とは違って、子供の時から天才肌で今はとある大学で最先端の宇宙工学の研究をしている。
「だってあと3日で地球が滅亡なんて、そんな……。」
「だからだよ。あまりにも時間がなさすぎる。もうどうあがいても無駄なんだ。ここで世界に発表したところで誰も解決出来ることじゃない。パニックを引き起こすだけだ、そうだろ?」
「そんな……。だって普段と外だって何ら変わりねーじゃねえか」
「ブラックホール、っていうの聞いたことがあるだろ? それとほとんど同じ物でホワイトホールというのがあるんだ。それに飲み込まれたら、一瞬にして何もかも、なくなる。そしてそれは全く人間の視覚では見えないけど、確実に……。確実に3日後には地球はそれに飲み込まれる。俺も何度も何度も狂ったように調べた。……間違いないんだ。」
「……。」
「そういうことだ。俺も混乱している。ただ幼なじみのお前にだけは教えとこうと思ってな。たぶんもうお前と会うこともないだろう。……グッバイ!」
 そう言うと電話は突然切れた。ただこれだけは確かだ。奴はこういう事で冗談を言う奴ではない。
「3日か……」
 俺はとりあえず爪を全部切り終わると、ため息をついた。

そして、部屋の壁にかかったカレンダーを見る。
 3日後。高校を卒業してから3年、大学浪人という肩書きで引きこもりの生活を送ってきた俺にとって、なんの変哲もないハズだった日。
 そして、4日後…その日、もう地球はないんだな。俺も消滅してしまってるんだ。俺の運命が変わる日だったのに。でも、俺はその日まで存在してない。真っ白い穴に何もかも飲み込まれちまった後に、その日はやって来るんだ。
 くそぅ。小学生の頃から育ててきた悪魔の卵が、やっと4日後に割れるというのに!悪魔を育てるコトだけを生きがいとして、ヤツが生まれてくる日だけを待ちわびていたのに!ホラ、もう卵にヒビが入りかけてる。
 それは、いじめられっ子だった小学1年生の時、秘密の河原で拾った卵。そうそうあの日、アイツ、さっき電話してきて俺に地球の終わりを教えてくれた親友のアイツも一緒に行ったんだ、あの河原に。アイツだけさ、今も昔も、友達と呼べるのは。だから秘密の河原にも連れてってやったんだ。でも、この卵を見つけた時俺は、アイツに気付かれないうちにサッとポケットにそれを隠した。だって、卵がこう言ったのだ。「お前は、2005年の今日まで、この卵を誰にも見せずに育てるのだ。この卵を人に見せたり、死なせたりした時点で、お前も死ぬ」「お、お前はダレだ!?」「フフフ…、俺は悪魔さ。お前は世界中のヤツらを憎んでるんだろ?」
 悪魔…俺は悪魔を手に入れた!なんて素晴らしいコトだろう! (ミドリン)


 と、時計を見るとお昼過ぎだ。今日が金曜日だから、月曜のお昼ちょうどぐらいにこの世はなくなるのか。
 とにかくこのことは誰にも喋れないな。なにせよく昔から、
「明日でこの世が終わりだとしたら、何をしますか?」
 とかいう下らない質問する奴がいて「寿司屋で寿司を死ぬほど食べる」だとか「遊園地で楽しく過ごして終わりを迎える」だの言う奴がいたけど、もしもみんなが世界の終わりを知ってたら寿司屋が寿司を握るか! 遊園地の職員が出勤するか!
そうだ。加奈はどうしよう。俺の彼女の加奈。あいつにだけは教えるべきかどうか。というか今日はデートだ。そろそろ家を出なくては。もちろん悪魔のことは加奈にも言っていない。しかしその前にこの世は消滅する。卵を直接見せなければ悪魔に殺されることもないわけだから、ひとつ加奈に相談してみるか? いやいや「この世は終わりだ。俺は悪魔を育てている」なんて続けざまに言ったら冗談か、もしくは精神状態がおかしくなったと思われるのがオチか。あぁ、なんか頭が混乱してきた。
 とにかく約束の時間が迫っている。俺は外出用の服に着替えるととりあえず加奈の元に行く為、家を出た。

 待ち合わせ場所の喫茶店には、もうすでに加奈が待っていた。
「ま、待ったぁ?」
「ううん。私も今来たばかりだよ。」
喫茶店の外は至って平凡だ。あと3日で地球が滅亡するとは思えない。
「あのね、話しておきたいことがあるの。」
「え?」
「実はねえ、私、結婚するの。」
「えぇぇぇぇぇぇ~~~~!」
加奈が結婚するだぁ?俺はパニックに陥った。それだけならまだよかった。
「結婚相手はサラリーマンなの。あなたのことも好きよ。でも、結婚となったら話は別。だって、あなたは浪人ってだけのニート君だから・・・。」
ニート君・・・そりゃ、俺は定職にはついていないけどさあ・・・。
「結婚するとなると、何だかんだでお金かかるよね。」

 「あ~あ、ふられちまったよ・・・。女って結局は金なんだな・・・。」
でも、悲しくはなかった。どうせあと3日で地球は滅亡するんだ。
俺もあと3日の命さ。俺は自暴自棄になっていた。家に戻るまでは・・・。

 家に帰り、俺の部屋に戻ると、裸の女が俺の机に座っていた。
めっちゃ美人でしかも体系はボン・キュッ・ボーンとグラマーだ。
あまりにも刺激的な光景に思わず鼻血ブーになってしまった。
「あんた、何者だよ、人の家に勝手にあがりこみあがって!」
「おまえ、俺のこと忘れたのか?」
「え?」
聞き覚えのあるその声は紛れもなく、例の悪魔の卵だ。
やつの足元には割れた卵の殻が散らばっている。
でも、孵化するのは4日後のはずだが・・・どういうことだ?
「ちょっと早く孵化しちゃったかな?ははははは。」
見た目は女の割には言葉遣いは男そのものだ。悪魔ってこんなもんなんだろうか?
「はははははじゃないよ。ったく・・・。ん?」
待てよ?予定より早く孵化したってことは、ホワイトホールの接近と何か関係があるのだろうか?
まあ、いい。こんな美人のボン・キュッ・ボーンな悪魔の女が俺の側にいるのも何だか悪くないな。
「お前が何考えているのか、当ててやろうか。えっと・・・女にふられたんだろ。
はーっはははは、図星だな。・・・ん?どうせ、あと3日の命?・・・ホワイトホール?何それ?」
俺は友人から聞いた話をそのままボン・キュッ・ボーンの悪魔に話した。
「ふーん。でも、ホワイトホールに地球が飲み込まれなきゃいいんだろ? ホワイトホールの軌道をずらすことができりゃいいわけだな。」
「そ、そんな簡単に言わないでよ。」
「俺は悪魔だぞ。これくらいはできるさ。ああ、俺が予定より早く孵化したのは、このことだったのか。」
人間の技術では絶対に解決できないことでも、悪魔なら可能かもしれない。
「でもさ、条件があるんだよね。それは・・・。」
俺はその条件を聞いてぶったまげた。
「そ、それは・・・いくらなんでも・・・。」
しかし、その条件を飲み込まないことには地球は救われないのだ。俺はその条件を受け入れざるを得なかった。
「だってお前、今でも世界中のやつらが憎いと思っているんだろう?俺に協力しろよ。」(ちちぼう)


「分かったよ。や・り・ま・す!! やりゃあいいんでしょ、ふんとにもー!でもそれ、なんだよ。地球滅亡とぜんっぜん関係ないと思うんだけど!」
 俺がちょっと怒気を含んで言うと、
「だって俺は別に地球が滅亡しようがどうしようが関係ないもーん。ようするに、お前が出来るかどうか見てみたいだけなのさ~。ふふふ!」
 悪魔は余裕しゃくしゃくで笑っている。
 しかしどうしよう。奴の出したお題とは、
「3日以内にワイドショーのトップを飾るようなことをお前がしでかすこと」
 なのだ。
 でもただのシロートの俺がワイドショーを賑わす。・・・それっていったい何をすりゃ~いいんだい! 
 まぁもちろんとんでもない犯罪でも犯せばワイドショーには出るかもしれないけど。渋谷の駅前交差点で日本刀で無差別に歩行者を叩っ切るとか。でもそれじゃ地球は守れても死刑とかよくても無期懲役で牢獄で生涯暮らすことになるんじゃ意味ないしな~。む~ん。しかもトップ記事となると、相当な事じゃないとな。

 ・・・ん? その時、ふとひらめくものがあった。

「そうだ『核兵器廃絶』を訴えよう! なんか凄い格好をして東京タワーのてっぺんによじ登って旗を振ろう!」
 俺は自分のアイデアに感心した。
 これならワイドショーのトップを飾れそうだし、確かに犯罪だろうけれどそうたいした罪にはならないだろう。しかも核兵器廃絶ならば世間からの風当たりもそんなにないだろうし。
「これだっ!」
 俺は大きくうなずいた。(MAKI-D)


 そしてうなずきながら微妙に冷や汗が流れて来るのがわかった。
「・・・って、俺、高所恐怖症じゃねえかっ!!」

しかし、またそこでひらめいた。
「逆立ちすれば、いいんじゃん?逆立ちして登っていけば、高所恐怖症の俺には、地面が一番てっぺんになって怖いから、どんどん降りてく事になる。すなわち、どんどん登ってく事になるんじゃん?!」
 高所恐怖症の問題は解決した。さて、じゃあどんな格好しようか、頭をひねった。(ケッペロステロンポ)


核兵器廃絶を訴えるんだから・・・そうだ金○日だ! 金○日のお面を被ってあの独特の灰色の服を着ればパロディさもあってますます話題になるんじゃないか?
 俺は早速造形関係の仕事をしている奴に電話をかけた。
「えっ? 金○日のお面と服!? まぁ今暇だから急いでるんならば明日の夜には出来るけど・・・。でも一体そんな物何に使うんだ!?」
「いや、ちょっと友達でお笑い系のパンクバンドやっている奴がいてさぁ、どうしてもあさってのライブで使いたいらしいんだ」
 なんとかうまく誤魔化せた。
 さて、東京タワーはとりあえず陽が昇りはじめる頃にてっぺんに向かって上り始めるか。となると実質実行はあさっての早朝だな。ちょうど朝のワイドショーが始まる頃それが発見され、生中継になると。見つからなかったら意味ないから、携帯電話で自分からテレビ局に電話するか。よし、完璧じゃんっ!!

 と、その時たまたまつけていたテレビから天気予報が流れ出した。
「非常に強い台風6号があさっての朝、東京に上陸する模様です。特に高い所にお住まいの方は突風等に細心の注意を払って下さい」

エエエエ!!!!??
マジかよ…
「ハッハッハ!台風だとよ。諦めるしかないんじゃないか~?」
悪魔が笑う。
ハッ!そうだ、コイツ。悪魔なら台風をどうにかするくらい軽いんじゃないか?
なにしろ、ホワイトホールの軌道をずらすコトが出来るんだから。よし、コイツに頼もう!
「お前、台風の軌道をずらして、東京に上陸するのを防いでくれよ」
「ぁあ!?オメーどんだけ親の教育なってねぇんだァ?ホワイトホールの次は台風だとォ?…ようよう、人にものを頼む時ってのはよぅ、自分もそれ相応のコトをするのが筋ってモンじゃねぇのかよ?ぁあ?違うか!?」
「わ、分かったよ、じゃあ何をすれば良いのさ?」
ニヤリッ…と悪魔は笑って
「そうだなぁ…お前の1番大事なモノとひき換え、ってんなら言うとおりにしてやってもイイぜ」
「い、1番大事なモノ…」
そう考えてあるモノが頭に思い浮かんで、オレは戸惑った。オレにとって1番大事なモノは、そうだ…小学生の時からいじめられっ子だったオレの唯一の友、そしてあと3日で地球が滅びるコトを教えてくれた、アイツだ。でも、アイツを悪魔に渡すなんて…!!(ミドリン)

 しかし俺はもう細かいことを考えるのがうざったくなっていた。普通の精神状態でもなかった。
「わあーた! わ・か・り・ま・し・たっ! もうあいつを煮るなり焼くなりオカマを掘るなり好きにして下さいぃ!! どーせ毒を食らわば皿までだ! えぇーい、持ってけ、泥棒!」
「ふふふ、じゃあ好きにさせて貰うよ。さて、どうするかな。オマエにとって一番ショッキングな形になるかもしれんがな…」
「勝手にしろいっ!」

 その時、付けっぱなしのテレビから臨時ニュースが流れてきた。
「日本に接近していたはずの非常に強い台風6号が突如、台湾上空あたりで消滅しました。前代未聞の出来事に気象関係者達も原因の究明に取り組んでおります」
「…なっ?」
 悪魔がニヤリと笑った。

 そして、ついにその日が来た。
俺と例の悪魔は東京タワーの前にやってきた。
金○日のお面に灰色の人民服・・・完璧な金○日だぜ。
「逆立ちして東京タワーに登っていくんだろ。早速やってもらおうじゃないか。」
悪魔は相変わらずスッポンポンの裸だった。
「お、おいどうでもいいけど、服ぐらい着ろよ。目のやり場に困るんだから。」
「何だよ、おまえ俺に命令する気かよ?」
「公然わいせつ罪でつかまるぞ。」
「悪魔が警察につかまるわけねえだろ!バカか?おまえ。おい、東京タワーに登るのか?登らねえのか?どっちだよ?」
「これから登りますよ。登りますってば。」

気合を入れて俺は逆立ちをした。
・・・が、その瞬間、俺は思いっきり尻もちをついてしまった。
「ははは・・・、今のは余興ね。今度はまじめにやるからさ・・・。」
再び気合を入れなおして逆立ちをした・・・・
が、今度は頭から思いっきり落ちてしまった。
「うわっ!痛てえ!」
何度やっても逆立ちができなかった。引きこもりの浪人生活をしている間に
腕力がかなり衰えてしまったのか・・・。

「何やっているんだよ?おまえ。疲れるやつだねえ。しょうがねえな。ほら、こうしてやるよ。」
悪魔に抱きかかえられ、あっと言う間に東京タワーのてっぺんにテレポートしていた。
「ほらよ」
俺は東京タワーのてっぺんに吊り下げられた形になった。
「これで満足だろ?核兵器廃絶を訴えるってのをやってもうらおうか。」
だが、核兵器廃絶どころじゃなかった。宙ぶらりんになった俺は恐怖心でいっぱいだった。
「た、た、た、たすけてくれえ~!」
が、いつのまにか例の悪魔の姿が見えなくなった。
俺1人東京タワーのてっぺんに取り残されてしまったのだ・・・・。(ちちぼう)

と、突然我に返った俺は気がついた。
「あっ、そうだ! ケータイケータイ。持ってて良かったケータイちゃん、とぉ。でもこっ、これはマスコミよりまずは119番ですよ! 落ちたら元も子もないしな。 あれ、待てよ? 救急車はこんなところ来られないぞ。じ、自衛隊かっ! 自衛隊の電話番号って何番だっけ!?」
 などとブツブツつぶやいている時である。突然手が汗でつるっと滑ってケータイはあっという間に地上にと消えていった。

「ズモモモモーーーーーッ!!」

 思わず叫んだこともないような擬音を俺は発していた。

泣きっ面に蜂、なんてなんの助けにもな らないことわざ作った昔の人、暇だったんだなー

と不意に思った。同時に、「だからなんなんだよ!」と誰に向かうでもなくごち た。涙か鼻水か分からないものが思わず流れた。東京タワーの上は、ゴジラやキングコングが居なくても、大の男が泣き叫ぶほど不安定なのだ。突然、吹き上げてくる強風にあおられ、すんでのところで足を踏み外すところだった。おちたら終り。長居は できない、いやしたくない。

その時だ。金○日シャツの胸ポケットに何か入っていることに気づいた。千円札 を4つに折りたたんだくらいの大きさだ。

「なんこれ?」。思わず九州弁が飛び出て、こころなしか気が楽になった。

それは小さな紙の切れ端だった。金○日のコスチュームを作ってくれた木村から の伝言つきの。

「話す時間がなかったから伝言で。気づいてね=(笑)。この金○日のマスクに は秘密兵器がついてます。ステージが盛り上がったときに、場内大爆笑間違いない、 むしろパニクらせる仕掛けだ!」

さすが、アングラ劇団裏方出身の木村だけある。

「なになに、メガネのふちを回すと虹色のパラシュートが背中から飛び出て、白 い鳩が飛び立ちます、だとー!」

意外なことに、ぬか喜びもしなかった。一体全体、劇団裏方やってて造形関係の 仕事してる奴がつくったパラシュートなんか、信用できんのか。飛ばない、飛んでも舞台からのダイブくらいの想定で作ってんだろ?俺はコンマ2秒悩んだ。時間は無駄に出来ない。

「やってやろうじゃないの。」

考えてみれば、地球滅亡も悪魔も加奈も東京タワーも携帯も、ぜーんぶ今まで運 命にもてあそばれた訳だ。俺の意思じゃない。そこにきて、木村のパラシュート。これはわらしべ長者的にパラシュートでダイブするしかない。失敗した場合に死因をなんと書かれるのかが心配だったが。

そのときだ。はるか地上から話し声が聞こえてきた。かなり大勢の、だ。俺は勇 気を出して5秒くらい下を見てみた。白いリムジンが止まっているのが見えた。何人かを囲むように黒山の人だかりが出来ている。なんか音楽も聞こえる。

「ドラマの撮影かな?」、とはじめは思った。しかし白いリムジンがそぐわな い。「うまく行けばマスコミも居るかもしれないぞ」とも思った。俺は結構、危機に強いらしい。リムジンから人が降りてきた。俺は右手をおそるおそるタワーから離し、じゃんけんのグーの形にし、双眼鏡のようにのぞいた。スパイ映画によれば遠くがみえることになっていたからだ。

「あっ!あれは!」、おれは愕然とした。あの大きな黒い傘、リムジン・・・ ・。「傘が邪魔で見えないけど、マイケル・ジャクソンじゃねーのかー?」

マイケル・ジャクソンに虹色のパラシュートで東京タワーからダイブ・・・・ ・。白い鳩つきだ!

こんな事がほんとに、地球を救うわけ?  (スキーズボン)

その時だ。
悪魔かはたまたもうひとりの自分かわからないが、脳の中に声がこだました。
「行けっ!」
そして自分でも驚くほどその決断は早かった。
俺はメガネのふちをくるくると回すと掴まっていた鉄塔から体を外にひょいと投げ出した。

木村の作った虹色のパラシュートは思ったより丈夫だった。
ふうわりふうわりと心地よい空中遊泳で徐々に落下していた。
そして白い鳩も飛びだしたがあまりの高さにビビッたのか、必死で俺にしがみついプルプルと震えていた。
かわいかった。

と、下から、
「オーマイガッ!」
というマイケルの声を先頭にどよめきが起きた。
「おおっ、このまま着地すればまさにワイドショーのトップに! やったな! きっとカメラもまわってるな!」

そう思いながら虹色のパラシュートの金○日姿の俺は鳩を飛び回らせながらまさに彼らの真っ只中に着地しようとしていた。

「でも、まてよ?何でマイケル・ジャクソンが日本にいるの?
マイケルは裁判中のはずじゃ・・・・」
そんな思いが一瞬よぎった。

その瞬間だった。マイケルが顔を引っ剥がした。
何と、マイケル・ジャクソンの顔は仮面だったのだ。
そこから現れた顔は、マイケルはマイケルでも芸人のマイケルだった。
「マイケル、マイケル、マーイケルーーーー」
「何だよ!こっちのマイケルかよー、つまんねー!」
人だかりの山からはブーイングが続出した。
「はーいはい、びっくりどっきりカメラでしたー!」
びっくりどっきりカメラのスタッフが看板を持って、リムジンから出てきた。
「なんだなーんだ」
「ぶーぶーぶー」
人々が一気に去っていった。
そりゃそうだ。マイケル・ジャクソンがこんなところに来るはずがない。

俺がリムジンの上に着地したときには、ギャラリーは誰もいなかった。
「ん?あんた、誰?げっ!金○日だ!」
びっくりどっきりカメラのスタッフが俺の存在に気づいた。
「俺は金○日じゃないですよ。これはお面ですよ!」
俺は金○日のお面を引っ剥がそうとした。
ところが、お面が・・・俺の顔・・・??え?お面のはずが、お面じゃなくて俺の顔・・・・?
ど、どうなっているの?

「なあ、こいつ、何言っているんだろう?」
「どうやら○鮮語のようだね。」
「こいつ、本物の金○日なの?」
「今朝のニュースでやっていたよな。北○鮮でクーデターがあって、金○日が亡命したって。」
「とにかく、警察につき出したほうがよさそうだ。」

俺はびっくりどっきりカメラのスタッフの車に乗せられていた。ラジオから臨時ニュースが流れていた。
「北○鮮のクーデター関連のニュースです。亡命した金○日とその一族が本日未明、成田空港に現れたとの情報がありましたが、
あ、ただいま入った臨時ニュースです。金○日が成田空港に到着後、突然行方不明になったとのことです。」(ちちぼう)

と、ディレクター達がひそひそ話しをしている。
「警察より前にうちのワイドショーじゃねえか!?」
「そうか、そうだな! 視聴率も凄いことになるぞ!」
「局長賞間違いなしだ」
「そうだ。やったな! 緊急生出演というわけか。前代未聞だぞっ!」

それを聞いて俺も思わず「やった!」と叫びたかった。
見事ワイドショー出演が決定されたのだから。
しかもこの状況。トップ報道は確実だっ!
車は静かにテレビ局へと吸い込まれていった。

「でも、何で俺が金○日なんかに・・・・あ!さては、あの悪魔の仕業だな!」
しかし、そのおかげでワイドショーに出られるんだから感謝すべきなのか・・・?
「それにしても、どこ行ったんだ?あの悪魔。」

「うわっ!やばいよ!渋滞じゃん!」
「全然車進まないじゃん。」
「お、おい、ワイドショーの収録に間に合うのか、すげー不安になってきたんだけど・・・。」
「そういえば、ずいぶん周りが騒がしいな。」
ディレクター達がやけに不安そうにしている。
その時だった。
「げ!げっ!あ、あれ見ろよ!」
スタッフの1人が指差した方向には・・・太陽が2つ!

「太陽が2つなんて・・・そんなバカな・・・。」
「もしかして、この世の終わりが来たってことか?」
「縁起悪いこと言うなよ。」

「あれがホワイトホールか・・・。」
俺はつぶやいた。
「それにしても、人間って何でこんなにトロいのよ・・・。」
いつの間にか俺の隣に例の悪魔がえらそうに座っていた。
「一体どこへ行っていたんだよ。しかも、俺の姿を金○日に変えあがって!」
「おっと、それよりこのままだと、ワイドショーの収録が終わっちまうな。テレポートするぞ。しっかりつかまってろよ。」
「テ、テレポートって・・・どこへ・・・」

その瞬間、俺はテレビ局のスタジオにいた。
「ひょっとして、ここって、3時のワイドショーのスタジオ?」
しかも、生放送中のところだった。
「あ、あれは、金○日!金○日が突如現れるなんて、一体どういうことなのでしょうか?」
あまりの出来事に司会者がパニック状態になっている。
あの悪魔が俺にささやいた。
「ここまでお膳立てしてやったんだ。あとはお前さん次第だぜ。」(ちちぼう)


その場の空気は完全に凍りついていた。
何しろ金○日が突如現れ突っ立っているのだ。
ハッと気づいた司会者が慌てて俺に向かってマイクを差し出した。
「あ、あの・・・金○日さん、で間違いはないですよね?」
俺はどう答えようかと、とまどった。

と、その答えを探しているうちに、あまりの自分への次々の変化に突如身体が耐えきれなくなった。「えっ!?」と思う間もなく俺の尻から物凄い爆音が轟いた。

ブッピーーーーーーーッ!!



肛門を閉める間もなく、いきなり周りは悪臭に包まれた・・・。

周囲の人達は、ばたばたと倒れはじめた。(チクリン)

(ちょ、ちょっと皆さんおおげさ! いくら臭いといったって・・・)
と思って人々を見て驚いた。

みんな白目を剥き、長いベロを口の端から出し、そして死んでいた・・・。

少し離れたところにいた人は、今まさに震えながら痙攣をはじめたところだった。
みるみると顔が青ざめていき涎を垂らしていた。そうして泡のような物を出し、次第に動かなくなった。
もっと離れていた人々は恐怖で顔を引きつらせていた。静寂の中、微かなうめき声だけがが聞こえてくる。
俺は呆然とするしかなかった。

・・・だってよ、俺、屁こいただけじゃんよ。

きっと情けない顔で、眉毛はハの字に下がり、口元は引きつり、鼻水と涙を垂らしていた事だろう。
幸いにも小便は漏らしてはいなかった。
自分が恐ろしくなり、生きている人間がいる方へ視線を向け一歩足を出した。
ここで初めてスタジオ全体がパニック状態になった。
出口や非常口に狂ったような悲鳴を上げたスタッフが殺到していた。

俺はワイドショーのトップを飾る予定だったが、少なくとも今のスタジオ主要メンバーは抹殺してしまったようだ。
どのカメラマンも白目を剥いてカメラの下で動かない。体を変な形に折り曲げて苦痛にゆがんだ顔をしている。
数分でスタジオの中は俺と死体だけになってしまった。

なんで俺は死なないんだよ!?
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
頭を抱えてしゃがみ込んだところ、ガスマスクを付けた警官がドカドカとやってきて俺の両脇を固めた。
突如、胸がムカムカしてきた。今にも吐きそうだ。
毒がついに自分にも回ってきたのだろうか。
「うっ!」
胃がねじり絞られるような痛みとともに、こみ上げる物があった。
俺は警官に向かって水鉄砲を打ち付けるかのように激しい嘔吐をぶつけていた。(きぃ)


ピチャピチャ・・・

んっ?
何か物音が聞こえる。
しかもそれは俺の床一面に広がった吐瀉物の中からだっ!

なんと、吐瀉物の海の中に小さなナマズのような、または大きなおたまじゃくしのような生き物が跳ねている。
・・・俺の腹の中から出たのか!?

と、その真っ黒い生き物がみるみる増殖して何百匹にもなり、あっという間に床を埋め尽くしていった。

「なんだ、これはっ!?」

その時だった。

床を埋め尽くす不可思議な生物の群れ、そしてそれを口から吐き出した張本人の俺。
そんな光景があまりにも恐ろしかったのだろう。
警官たちは外へと逃げ出した。

「ふぅ・・・なんとかやりすごせたか・・・な?」
そう思ってスタジオの隅に目を向けると、恐怖のあまり足がすくんで動けなかったのか若い警官が一人、スタジオの隅に残っていた。
そしてその警官の手には銃。銃口は当然俺に向けられている。
その警官はあまりの状況の不気味さにパニック気味だ。
顔は引きつり、恐怖のあまりに目に涙を浮かべ、銃を持つ手は小刻みに震えている。
おいおい、こんなワケの分からない事で射殺されたらかなわない。
とりあえず、言い訳をして銃を下ろさせよう。

「ちょ・・・ちょっと待て。話を聞いてくれ。こんなの俺も吐き出したくて吐き出し
たんじゃないんだから・・・」

しかしその警官は聞く耳をもたない。
あまりの不可思議な状況に、理性もぶっ飛んでいる様子だ。
そりゃいきなり金○日が現れて、口からこれだけの不気味な生物を大量に吐き出したのだ。無理も無い。
銃口をこちらに向け、一歩一歩俺に近づいてくる。

「・・・ふぐ・・・ぐむ・・・ぅぇっ・・・」

警官は嗚咽のような声にならない声を出している。
恐怖のために、完全に理性が飛んでいる。
もう首都防衛だの、市民を守るだの大義名分は二の次だ。
自分の身を守るためにだけ、俺を撃とうとしているようだ。
「ちょ・・・待て・・・待ってくれ!!」
半狂乱の警官は、全く俺の話を聞く様子もなく、容赦なく引き鉄を引いた。


弾は俺の胸めがけて一直線に飛んでくる。

「・・・助けてくれ!おかあちゃ~ん!!」

俺は思わず目を閉じて、心の中でそう叫んだ。

ボスンッ!
その瞬間、スタジオ中に鈍い音が響き渡った。

「・・・・・・あれ・・・痛くない・・・どこにも当たってない・・・弾が外れたのか?」

いや、そんなはずは無い。
警官はかなりの至近距離まで近づいていた。
外すわけが無い。
じゃあ、一体どうなったんだ?

俺がゆっくりと目を開けると、目の前に真っ黒な巨大な壁が立ち塞がっていた。
漆黒の壁に光が遮られて、何も見えない。
どうやら、この壁に俺は守られたようだ。
まさか俺の心の壁が具現化?まさかね。

その壁に手を当ててみると、壁は生き物のようにモゾモゾと動き出した。

「ヒッ・・・これは、さっき俺が吐き出した生き物じゃないか!」

壁だと思われたものは、俺が吐き出した生き物だった。
その何百匹といる生き物が塊となり壁になり、俺を守ってくれたのだ。
どういうことだろう?
ワケが全く分からない。
しかし、俺は生きている。それだけでも有り難い。
そして、少しホッとすると、その壁はハラハラと崩れだし、吐き出した時と同じように、部屋中に散らばった。


目の前の壁が崩れると明るくなり、視界が一気に広がった。
そしてふと床に視線を落とすと、先程の警官が失神して白目をむいて倒れている。
大便・小便も漏らしてしまっている。

彼は発砲した後の一部始終を見てしまったのだろうか。
確かに、不気味な生物が突然動き出し、壁になったりする光景を目の当たりにしたら気の一つも失うかもしれない。

「こんな状態じゃ撃ってきたのは仕方ないか・・・でもこの姿はちょっと気の毒だな。」

俺がそう思った瞬間、再び俺の吐き出した生き物たちが動き出して、一つの塊になった。
そして、その警官の粗相をしてしまった跡に群がった。

よく見ると、その塊は掃除をしているようだった。
そしてもっと目を凝らして見てみると、その塊は「お掃除おばちゃん」の姿をしているではないか!!
心の壁ではないけれど、この生き物たちは本当に俺が思った事を具現化しようとしているのか?

「よっし・・・それじゃあ試しに・・・何か念じてみるか・・・」

俺が以前から欲しいと思っていたバイクをイメージしてみた。
長らくの浪人生活、金も時間も無かった。
その間、バイクなんてもってのほかだった。
そんな事を思いながら、イメージを膨らませた。

すると、その「お掃除おばちゃん」は、またもやハラハラと崩れだしそして俺のイメージした通りのバイクの形になった。

「やっぱりそうか!こいつら俺の念じた通りの形や機能になるのか!!」

これ以上ここにいても、もう何の進展も無い。下手すりゃまた警官隊が突入してくるかもしれない。
俺は一旦外に出た。何百匹もの生き物も俺の後をついてくる。
そして再びバイクをイメージすると、その生き物たちはバイクの形になった。
そして、俺はそのバイクもどきに跨った。

「イルカに乗った少年なら絵になるのに、不気味生物に乗ったニートって端から見たら、どうなんだろう?」

そんなクダラナイ心配をしながら、俺はバイクもどきに乗り、テレビ局を後にした。(珍平)

ブロロ、ブロロ・・・。
ブロロ、ブロロ・・・。
ブロ。
ブロロ、ブロロ・・・。
ブロロ、ブロロ・・・。
ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。
ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。ブッブロ。

バイクもどきを走らせてるとチャッピーがやって来て、

「あれれ、バイクもどきが溶けてきたよっ! 大変! 大変!」

「チャッピー助けて!」

「ちょっと待ってて。今、スーパージェッターを呼んでくるから!」

ボヨヨヨ~ン。
道のまんなか、はだかんぼ。

「わたーっい、俺一回ちんこをアスファルトにすりすりしてみたかったんだ!」
俺は口の中で小さくつぶやいた。
やっぱり人間の脳みそには情報の許容量があるんだな。それを越えると、何もかもがどうでもよくなっちゃうんだな。
俺は腹ばいになり、女に乗っかるように体を動かしてみた。さっきまで不思議動物のバイクに乗っていたのに。アスファルトは午後の太陽に温められ、俺の一番大事な部分を 癒してくれる。
生まれついての現代人なんだな、俺は、と思った。
「キャー!あんた何やってるの!」
俺が上半身を持ち上げて歩道を見ると、母親が高島屋の買い物袋を提げて立っていた。急に頭の中が冷たくなっていくのを感じた。(スキーズボン)


「い、いやっ・・・あ、あれっ? 俺は何を・・・」
母親はいつだって俺の頭を冷やす作用を持っている。まるで瞬間冷却剤のように。
と、母親の体の大きさはそのままに、顔だけ地べたを這いずりまわる虫のように小さくなって、悲しそうな目で俺を見た。
「ん・・・やっぱり俺の頭おかしいぞっ!?」
そしてマバタキをした一瞬後、今度は母親の顔は気球のように大きくなって空にプカプカ浮きながら俺を見て今度はほがらかに笑っていた。
まだ俺が幼い子供の時に見せたような、もしくは俺が想像で丹誠込めて作り上げた良い記憶という名のプラモデルのように。
「こんな現実は絶対ありえない。・・・夢だっ! 夢だ! なっ!?」
俺は自分に言い聞かせるように大声をあげたつもりだったが、口の中からは青臭い蛙がピョンピョンと外に飛び出し言葉にはなっていないのが分かる。
言葉の代わりに蛙。蛙飛び込む水ノート。ちゃぷん。
だが、それとは逆に現実感はひしひしと痛いほどある。
痛いほどにあるのだ。
それなのに。それなのに。それなのに。それなのに。それなのに。
アタマノナカトカラダノソトガジョジョニイッタイカシテイクノガワカル。
反転。
中と外、嘘と誠、表と裏が渾然一体となって鼻を突く火薬の臭いに包まれる。
頭の中の映像が次々と具現化され俺の前に去来するも一陣の風のように消え去り、記憶が空をトンビのように輪を描いて飛び、言葉が泥流のようにドドドドドッと大地にと流れ込んでいく。

「これは・・・これは何なんだーーーっ!!」

「ま、まさか、俺、ホワイトホールに飲み込まれちゃったの?」
どうやら、そのようだ。
「よっ、お前さんには笑わせてもらったぜ。」
聞き覚えのある声だと思ったら、例の悪魔だ。
「これから、ホワイトホールの軌道をずらすからな。俺がちょっと蹴飛ばしてやれば、チョロいもんさ。」
「あ、あの・・・俺はどうなるんだよ。」
「ホワイトホールの軌道をずらすとは約束したが、ホワイトホールに吸い込まれたやつを助けるとは約束してねえぜ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・」

ものすごい爆音が聞こえたかと思うと、ものすごい勢いでどこかに飛んでいくような感じがした。
「地球は、これで助かったかも知れないけどさ・・・お、俺、マジでどうなるの?っていうか・・・俺って・・・誰?」
記憶がだんだん無くなっていく。

気がついたら、どこかから子供らしき声が聞こえてきた。
「あ、こんなところに卵がある!」(ちちぼう)


 3つの目を持つ紫色の顔と柔らかい軟体動物のような体を持った子供達がわいわいと走りながら俺の方にやってくる。
姿形は変わっても変わらない子供らしい楽しげな発見のキラキラした声だ。

「良かった・・・地球は助かったんだ・・・」

 俺はなんだかとても安心して体の力が抜けていくのを感じた。
 そしてまた俺の目から視界が、そして耳から音が徐々に消えて行き、不思議な安息感に包まれながらやがて、時間というものが滝を落ちる飛沫から水蒸気になるように静かにそしてゆっくりとスローモーションのように消えていくのをはっきりと、そうはっきりと。

 俺は感じていた。



             ー了ー


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