第二話 ぼくのはつ恋

 ぼくのなまえは、おおにたあつおといいます。
ぼくは、しょうがく2ねんせいです。
でも、まわりからはちょっとかわったしょうがくせいといわれています。なぜかというと、しん長が、180センチメートルと、とてものっぽなのです。そしてたい重は120キログラムと、とてもデブなのです。くらすの友だちはもちろん、先生でもぼくとおなじおおきさは、きょうとう先生ぐらいです。だからとてもめだちます。でも、めだつのはそれだけではありません。はなの下も、口のまわりも、あごのところも、ひげがいっぱいはえているのです。
おいしゃさんは、「あつおくんは、ほるもんがちょっとおかしいの。人よりせい長がはやいの。あたまは、ふつうのしょうがく2ねんせいなのだけど、からだだけは30さいなの。」といいます。ぼくはほるもんというのはよくわからないです。いえのちかくにほるもんやき、というおみせがあるので、なにかやくもんらしいですが、よくわかりません。
そんなぼくですが、がっこうはたのしいです。
ろうかをあるいていると、たまに先生にふかぶかとおじぎされます。そしてそのあと、先生は「ハッ」としたかおになり、「なんだ、おおにたくんじゃないの。先生、きょういくいいんかいのえらい人かとおもってまちがえちゃったわ」といってわらいます。
きょうしつでは、みんなといっしょにあそびますが、ちょっとぼくがふざけて、友だちの上に「うわーっ」とかいってのっかったりすると、友だちが大けがをして、その子のおかあさんががっこうにやってきて、「こんなきけんなせいとのいるがっこうに、うちの子はもうかよわせられません」といってつぎつぎてんこうしていってしまうので、あんまりふざけることができないのが、ちょっとかなしいです。

そんなぼくですが、さいきんすごいことがありました。なんと、はつ恋をしてしまったのです。

その日ぼくはていきけんしんでびょういんに行きました。
びょういんにはバスとでんしゃにのって行きます。
ぼくはでんしゃにのるとほんとうはくつをぬいでまどのそとにむかってすわりたいけ ど、 おかあさんにおこられるし、みんながぼくを見てへんなかおをするのでできません。

ていきけんしんがおわって、ぼくはおかあさんとおいしゃさんのはなしがおわるのを、 いつものように1人でまっていました。
すると、びょういんにぼくとおなじぐらい大きなおねえさんがはいってきました。
おねえさんはぼくみたいにデブじゃないし、とてもきれいだけど、 ぼくみたいにひげがはえていました。

ぼくは、おねえさんもほるもんがおかしいのかもしれないと思いました。
だから、おもいきっておねえさんにはなしかけてみました。(うろたえ太郎)

「あの・・・おねいさん、おねいさんはどこがわるいの?」
 すると、おねいさんは、ぎょっとしたかおでぼくをみたので、ぼくはあわてていつものせつめいをしました。
「あっ、ぼく、大人にまちがえられるけど、まだしょうがく2ねんせいなんだ。ほるもんのちょうしがよくないから。おかあさんときてるんだ」
 それでもなにかへんなかおをしているので、ぼくはランドセルをあけて、中のきょうかしょをみせてあげました。さんすうや、りかのきょうかしょをだしました。
「ほら、これがしょうこだよ」
「あっ、あなたがじゃあ・・・おおにた君?」
 なんと、おねいさんはぼくのことを知っていました。たしかにぼくのことはこのあたりではちょっとゆうめいで、ときどきしらない人からこえをかけられることもあるのです。
「そうだよ、ぼくがおおにただよ」
 少しじまんで、そういいました。そしておねいさんにききました。
「ねえ、おねいさんも、ほるもん? だって女の人なのにぼくとおんなじひげがはえてるもんね。」
 おねいさんは、少しかんがえてからぼくにいいました。
「そうね。あたしもほるもんね。おおにた君とはちょっとちがうけど、まちがったほるもんが、からだの中にはいっちゃってたのよ」
「ふーん」
 ぼくはよくわからなかったけど、やっぱりほるもんはけっこうわるいやつで、いろいろになるんだなー、とおもいました。
「あつお、かえるわよ」
 おかあさんのこえがしました。おいしゃさんとのおはなしも、おわったみたいです。
「じゃあね、おねいさんも、ほるもん、がんばってね」
 おねいさんはちょっとさびしそうに、ふふふっ、とわらいました。
 と、そのときぼくはそのおねいさんのさびしそうなえがおをみて、なんかわからないけど、どきどきしました。さびしいんだからうれしいはずないのに、うれしいような、ちがうような、へんなかんじです。ぼくはなんだかわからなくなって、でもいつまでもおねいさんをみていたいようなへんなきもちになりました。
「じゃあ・・・ね」
 もういちどぼくはこごえでいうと、おかあさんの手につかまりました。
 でも、うんめいがあったのです。そう、それからしばらくして、そのおねいさんと、またあってしまったのです。

あれからなんにちかあと、ぼくんちに、「いとうひろぶみ」みたいなひげのおじさんがあらわれました。
おじさんは、めいしを、出しました。それには「ひげのある暮らし実行委員会」と かかれてありました。
「この度、われわれは、町おこしのため、町役場と提携して、ひとつのイベントを 行うことになりました。つきましては、おおにたくんに今回、マスコットキャラクタ ーとして、参加していただきたいのです。」
「あつお、でなさい」
おかあさんが、そういうので、でることになりました。

そして、それのよこうえんしゅうのひのことでした。(みどりの夢23才改めミトコ ンドリア24才)


 ぼくはなんと、パレードの先とうにたってオープンカーにのせてもらえることがきまりました。そんなスターのようなあつかいに、ぼくはうちょうてんになっていきました。友だちにも、いっぱいじまんができます。そして町にいるひげのはえている人が、そのオープンカーのうしろから、たいこをたたいたり、ふえをならしたりしてこうしんするのです。「いとうひろぶみ」みたいな人は「ひげをつうじて、せかいにへいわを」としきりにいっていましたが、ぼくにはくわしいことはよくわかりませんでした。とにかくパレードの先とうなんです。ぼくのうしろからひげの人たちがついてくるのです。よこうえんしゅうのかいじょうには、ひげの人がたくさんいました。くつやのゲンじいさんもいたし、ヤンキーのとし君もいました。「あんがい、ひげの人っておおいんだなぁ」そうおもったときです。ぼくのむねがギュッとしました。そう、そこにあのおねいさんが、ふえのれんしゅうをしながら、こっちにむかって手をふっていたからです。(石川)

 「あ、おねいさんだ」
 ぼくは、どうしてだか、わからないんだけど、やるきがでてきました。
   いよいよ、イベントの日です。ぼくは、この日のためにおかあさんがつくってくれたタキシードをきてきました。町のおおどおりのまんなかで、ぼくがのったオープンカーのうしろに、がっきをもたひげのみんながズラリとならびます。くつやのゲンじいさんも、ピカピカみがいたゴツゴツとしたやたらとおおきなくつをはいています。ヤンキーのとし君の、「りーぜんと」は、いつもより、するどくとがっています。
 ほかのひげのひとたちも、みなそれぞれ、かっこよくきめています。そんななかに、おねいさんのすがたをみつけました。おねいさんは、ドレスをきていました。おねいさんは、とてもすてきでした。ぼくとおねいさんが、ふたりでもしならんだら、けっこんしきみたいだとおもって、なんだかはずかしくなりました。ぼくが、かおをまっかにしていたら、「それでは、パレードをはじめます」と、かくせいきで「いとうひろぶみ」みたいなひとがいいました。バーンというピストルの合図とともに、えんそうがはじまりました。

 ズーンタカズッタタカチャンチャラチャンチャンチャンポンポン
 ベーンベーンベケベケベンベンベンベンベケベケパッパッパッ
 パフパフペッペッペイーッペイッガンガンポヨポヨバンバンバン
 カーンカーンジャンジャンジャンピーヒョロヒョロロロジャンジャンジャーン

 ふえやたいこや、みたことないようなへんなかたちのがっきからでるおとが、ひとつにまとまりあうこともなく、バラバラに、ひびきながら、ぼくらのパレードがはじまりました。「いとうひとぶみ」みたいなひとは、かくせいきで、「ひげでへいわを・・」とか「ひげのある暮らしは・・・」とかいっしょうけんめいさけびます。ぼくは、オープンカーのうえから、まえに、テレビでみた、ゆうしょうした、やきゅうチームのかんとくや、すもうのひとみたいに、まわりにいっしょうけんめい、手をふりました。どうろのりょうわきでは、ぼくのおかあさん、がっこうのともだちやせんせい、きんじょのおばさんたちが、かみふぶきやテープをなげたり、クラッカーをパンパンとならしながら、ニコニコ手をふってます。ひげをはやしていないおじさんたちの「おれたちもひげをはやしておけばよかったー」という、くやしそうなこえも、きこえてきます。そのようすをテレビきょくが、ぜんこくに生ちゅうけいしています。

 だんだんとパレードはもりあがっていきます。そんななか「いとうひろぶみ」みたいなひとが、さけぶのをやめて、こっそりと、ぼくのほうにきて、こういいました。「ありがとう、おおにたくん、きみのおかげで、うまくいきそうだよ」やったーと、おもったけど、ふと、ぼくはやっぱり、おねいさんのことがきになりました。おねいさんのほうをみました。おねいさんも、たのしそうに、ふえをふいてます。だけど、なんかおんなのひとでひげのひとはひとりだけだったので、なんとなくさびしそうにみえました。ぼくはしばらくおねいさんのことをみてました。すると「いとうひろぶみ」みたいなおじさんが、「おおにたくん、どうしたんだい?」ときいてきました。「ううん、なんでもないよ」というと「いとうひろぶみ」みたいなおじさんは、ぼくがみていたほうをみて、「さては、おおにたくん、あのおねいさんのことが気になるんだね」といいます。「・・・・・うん」とこたえると、「そうか・・・、あ、いいことをおもいついたぞ。あのおねいさんにもオープンカーにのってもらおう。そうすればパレードも、もりあがりそうだぞ」といいます。というわけで、ぼくのとなりにおねいさんがすわりました。「おねいさんは、なんでわたしが?」って、いったりしたんだけど「いとうひとぶみ」みたいなおじさんが、「まあ、いいからいいから」とごういんにおねいさんにいったので、おねいさんははずかしがりながら、しかたないわねというかんじで、オープンカーにのりました。ぼくら、ふたりとも、さっきおもったみたいにけっこんしきみたいにならんで、すわることになったのです。ぼくは、はずかしくてかおをまっかにしてしまいました。

 パレードはますますもりあがってきました。「ひげのあるくらし、ばんざーい」、「おーにたくん、おーにたくん」「おねいさん、おねいさん」とあちこちから、こえがあがります。すごい、もりあがりかたです。そして、ひげのないひとたちみんながオープンカーのうえで、めだっている、ぼくらふたりのひげをみて、うらやましくなったのか、いつのまにか、くろいガムテープでおもいおもいに、ひげをつくってつけています。なかにはくろいマジックやペンキでひげをかいてしまっているひともいます。おとこのひとも、おんなのひとも、みんなそうしています。そのうち、パレードはバラバラになって、みな、いりみだれて、おどりはじめました。「ワッホウイ、ワッホウイ、ワッホウイ」と、いうかけごえがきこえてきたりして、「ひげまつりじゃー」とだれかがいい、「ひーげ、ひーげ、ひーげ」とひげコールが、まちじゅうに、ひびきわたりました。

 そんななか、ぼくらだけ、オープンカーのうえで、しずかにふたりならんで、すわってました。まわりのみんなは、こうふんじょうたいで、おもいおもいに、おどったりうたったり、さけんだり、えんそうしたりしているので、べつにそんなことは、きになってないみたいです。ぼくは、はずかかったので、おねいさんをまっすぐみれなくて、よこめでチラチラおねいさんのようすをみてました。おねいさんは、オープンカーにのってからしばらくはこまったかおをしていたけど、おとこのひとやおんなのひとだけでなく、おじいさんやおばあさんも、こどもたちもみんな、ひげをつけはじめたので、まわりをみると、ひげだらけになっていて、そのせいか、おねいさんもだんだんあかるいひょうじょうになってきてました。ぼくもウキウキしてきました。「おねいさん。たのしいね」って、ぼくがいうと、おねいさんは、ぼくのほうをみてすごくニッコリしてくれました。ぼくは、おねいさんの、こころからうれしそうな、えがおをみて、すごくしあわせなきもちになりました。

 ところが、そのときです!!

 「きゃー」とか「うわー」とか「あっ、あれはなんだ!!」とかあちらこちらでそんなこえがしました。「ツルンツルンツルン」というへんなおとがうえのほうから、きこえてきました。みんな、そらのうえのほうをみて、ゆびさしたり、くちをポカンとあけたりしています。なんだろう?とおもってうえをむくと、そこには、ものすごくおおきくて、とてもツルツルとしたそらとぶえんばんがありました。それがゆっくりと、じめんにおりてきました。そしたらえんばんのしたのところから、からだぜんぶがツルツルしたひとたちが、すごくたくさん、でてきて、そのなかでも、いちばんツルツルしているひとがスタスタと、こっちのほうにきて、それからすごーくおおきなこえで、こういいました。

 「ワレワレハ、『オハダツルツルセイジン』ダ!オマエタチハ、『もじゃもじゃ』シスギダ!ワレワレハ、『もじゃもじゃ』ハ、ダイキライダ!!ヨッテ、ワレワレガオマエタチノ『もじゃもじゃ』ヲ、『ダツモー』スル!!!!!!!!!!!!!」

 ぼくは、びっくりして、おならをしてしまいました。(ミトコンドリア24才)


「おおにた君、逃げて!」
 おねいさんが、ぼくの手をひいてはしり出しました。
ぼくはなにがなんだかわからずに、でもおねいさんの手をギュッとにぎりしめて、おねいさんといっしょにはしり出しました。
 ペットショップの角を曲がり、もうだれもおってこない気がして、ぼくらは立ちどまりました。
「ふーっ、こわかったわねー。なんだったのかしら。」
 おねいさんがいいます。  ぼくはこわかったけど、おねいさんと手と手をつないではしってるのがなんだかすごくうれしくなっちゃって、「フフフ」とわらってしまいました。
「なにわらってるのよ、おかしな子ねえ。」おねいさんもなんだかちょっとほほえみながらこっちを見ていました、と、ぼくはきゅうにはずかしくなって、つないでいた手をパッとはなしました。
「な、なんでもないやいっ!」
 と、そのときです。

 ツルン ツルン ツー ピタンッ!

 という音がきこえてきたとおもったら、さっきのオハダツルツルセイジンが、ぼくらのまえに立っていました。ヤツらはツルンツルンなので、すべるようにやってきたのに、気づかなかったのです。
「しまった!」
ぼくとおねいさんはどうじにさけんでいました。(石川)

ぼくたちはいつのまにかオハダツルツルセイジンたちにかこまれていました。
オハダツルツルセイジンたちがぼくたちのほうに近づいてきました。
「オハダツルツル~、ダツモ~、ダツモ~」
「な、何するんだ!」
「きゃ~!やめてぇ~!」

「おねいさん、だいじょうぶ・・・・げ、げっ・・」
「お、おおにた君・・・そ、そのあたま・・・」
ぼくたちはかおじゅうの毛をすべてぬかれていたのでした。
ひげがなくなるどころか、まゆげもなくなり、あたまの毛もなくなってづるっぱげになってしまったのです。

 そして、ぼくたちはもっとびっくりしました。
ぼくたちのまわりの人たちもみんなづるっぱげだったのです。 (暗黒大黒魔導士クロマこと ちちぼう)


「ヅルッパゲー ヅルッパゲー ヤッホーヤッホーヤホヤホホーッ」

 へんなこえに、ぱっとうしろをふりむいてみました。するとなんとオハダツルツルセイジンたちは、みんなあつまって、きみょうなおどりをおどりはじめていました。
 しばらくぼーぜんと、ぼくもおねいさんも、それから町の人たちもオハダツルツルセイジンが、わになってそのおどりをしているのを見ていました。

「ヅルッパゲー ヅルッパゲー ヤッホーヤッホーヤホヤホホーッ
 オハダツルツルサイコウダー オハダツルツルカッコイイー
 ヒゲハモジャモジャ ウゲゲゲノゲー
 カミノケ マユゲ マツゲニハナゲ ヒゲニムナゲニワキゲニスネゲ
 インモーダッテ ダイキライ ダツモー ダツモー ヅルッパゲー
 ヅルッパゲー ヅルッパゲー ヤッホーヤッホーヤホヤホホーッ」

 オハダツルツルセイジンはたのしそうにおどりおえると、ぼくらの方を見て、ゆいました。
「こんどから、ヒゲまつりなんてやったら、しょうちしないからな。オハダはツルンツルンにしてこそ、かがやくんだからな。もしもまたやったら、またくるからな。おぼえとけよっ!」
 そういうと、オハダツルツルセイジンたちは、えんばんにのりこむと、ツルンッという音をさせて、そらのかなたにかえってゆきました。

 はっ、とふりむくと、おねいさんはかたをおとして、ふるえながら泣いていました。
「もう・・・もうヒゲははやせないのね・・・」
 ぼくは何をおねいさんにいっていいのかわからなくて、ただおねいさんのよこに、じっと立っていました。(石川)

オハダツルツルセイジンにツルツルにされてからしばらく、おねいさんにあうことはありませんでした。
おねいさんはどこへいってしまったんだろう・・・。
ヒゲまつりの大事件のあと、町のひとたちはいつもからだじゅうをだつもうしてツルツルにするようになりました。
ぼくも、ほんとうはひげをはやしたかったけど、いまでは町中にオハダツルツル旋風が吹き荒れていてすこしでも毛のはえてるひとはへんなやつだとおもわれるのでしかたなくだつもーしていました。
ああ。ヒゲをはやしたいな・・・。
そんなある日、学校から帰るとちゅう、どこかからちいさなこえがきこえてきました。
「・・お・・・にた・・く・・ん・・・」
おねいさんだ!ぼくは直感でわかりました。
「おねいさん!どこにいるの!」
すると、でんしんばしらのかげから突然おんなのひとがあらわれました。
「おねいさん!・・・あっ!!」
おねいさんは黒々としたひげをはやしています。かみもまゆげもふさふさと地面までとどきそうです。
「おねいさん、かっこいい!でもそんなに毛をはやしてたら、またオハダツルツルセイジンがやってくるよ。またツルツルにされちゃうよ。」
おねいさんはクスッと笑いました。
「だいじょうぶなのよ。ほら、みて。」
おねいさんが息をすうと、
しゅるしゅるしゅるしゅるる~~~
ふさふさの毛は全部毛穴に吸い込まれてしまいました。
「しばらくおおにたくんに会えなかったのは、この技をれんしゅうしていたからなの。」
そういうと、おねいさんはつるつるのかおでぼくにやさしくほほえみかけました。(でびー)

「すごいやっ、おねいさん! そうか、そうすれば、オハダツルツルセイジンにも、ねらわれないもんね。」
ぼくは、うれしくなりました。
「じゃ、じゃあ、ぼくにもその技、おしえてくれる?」
ぼくはこうふんしていいました。
「もちろんよ。そのために、ここで待っていたんだから」
おねいさんはにっこり笑いました。
「でも・・・期間は二週間しかないの」
「えっ、二週間? そりゃ、おぼえられるならいいけど。でもどうして二週間なの?」
するとおねいさんは、かなしそうな顔でいいました。
「それはね、おおにたくん。あたし、二週間たったら・・・」
そういうと、おねいさんはぼくの顔をじっと見て、それからおおつぶのなみだをボロボロながしました。(石川)

「おおにたくんは、わたしたちがはじめてあったばしょをおぼえてる?」
「うんと、びょういんだよ。」
「そう。わたしはずっとあのびょういんでけんさをうけていたの。なんでヒゲがはえ
ているのかを調べるために。そのけっかが、こないだ、でたのよ」
「それで?」
「わたしは『おっさん病』だとしんだんされたのよ。」
「おっさんびょう・・・」
「そう。ヒゲがはえるだけでなく、そのうちだんだん『おっさん』になってしまうの
よ。」
「チンチンもはえるの?」
「もちろんよ。それだけではないわ。みみげ、はなげもボーボーになるし、おなかが
どんどんでてくるし、かみのけもうすくなるし、からだのにおいもくさくなるし、演
歌をきくようになってしまうし、ゴルフをするようになってしまうし、おやじギャグ
も連発だし、ジャイアンツファンになるし、しょうちゅうをビールで割ってのむよう
になるし、おてふきでかおやからだをふくようになってしまったり、とくにかくあり
とあらゆるおっさん的特徴がすべてあらわれてしまうの。」
「そんなのイヤだよ・・・・」
「そう。わたしも、ヒゲがあるのはいいけど「おっさん」になってしまうのはすごく
イヤ。」

そらをみあげると、つがいのことりが2わとんでいました。

「だからその治療のために、インドの山奥の仙人に弟子入りすることにしたの。2週
間後に出発するわ。じつはこのわざも、いちどインドにいってその仙人のおじさんに
おそわったのよ。」
「それで、そのしゅぎょうをすればおねいさんはおねいさんにもどれるの?」
「それはわからない。わからないけど、それしかほうほうはないの。こんどはほんか
くてきにしゅぎょうするからなんねんもかえってこれないわ。」
「・・・そうなんだ・・・。」
 おねいさんがインドのやまおくにいってしまうのはかなしいけど、でもそれでおね
いさんの『おっさんびょう』がなおるなら、それはしかたないとおもったのでぼくは
こういいました。
「わかったよ。おねいさん。じゃあしゅぎょうがんばってよ。ぼくはおねいさんがか
えってくるのをまってるからね。」
「まっててくれるのね。ありがとう。じゃあさっそく技をおおにたくんにおしえてあ
げるわ。ちょっとたいへんだけど、がんばって2週間でおぼえてね。」
「うん。がんばるよ。」
 それからぼくらは毎日、技の修行をしました。だけど、ぼくは2ミリひげを出し入
れできるようになっただけで、おねいさんのようにはできませんでした。

 そうして、おねいさんはインドへ旅立ちました。そしてあれから10年が経ちまし
た。(ミトコンドリア24才)


 僕は20才になろうとしていました。結局、身長はあの小学二年生の時からは成長せず、体重はダイエットもしたおかげで、ちょっと背が高めの、普通の青年になってしまいました。
 ひげも、今ではもっと伸ばしている友達がたくさんいるし、もう僕だけの特徴ではなくなってしまったので、時々無精ひげを伸ばすことはあるものの、ほとんどそってしまいました。
 「ひげ祭り」もあの年を最後に行われなくなりました。今の若い人は、もうそんな祭りがあったことさえ知らない人も多いです。「お肌ツルツル星人」もその後やってくることはなく、過去の事として、まるで第二次世界大戦のように、阪神大震災のように、ニューヨークテロのように、人々の記憶からも少しずつ忘れ去られています。
 
 平凡な、なんでもない青い毎日が続いています。

 でも時々思い出すのです。
 あのお姉さんのことを。
 そして10年経ってようやく気がついたのです。
 あれは、僕の初恋だったんだ、ということに。

 その後、お姉さんの消息は不明です。今でもまだ、インドで修行をしているのでしょうか。それとも案外、「おっさん病」を克服して、僕のすぐ近くで暮らしているかもしれません。お互いに会っても、もうおそらくわからないでしょう。

 ただ、今でも、ふとした折りにお姉さんの事を思い出すと、胸のここらあたりが、少しだけ重く、そして、少しだけくすぐったくなるのです。(石川)

         

                     -了-


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