第十三話 ぱっぴゅっぴっ




ぺこっぺこっ ぺこっぺこっ
ペットボトルの靴の音
ぺこっぺこっ ぺこっぺこっ
空にUFO飛んでいる
ぺこっぺこっ ぺこっぺこっ
廃線になった田舎の駅で
僕はキリンを待っている
その時カカトの電話が鳴った
「もしもしもしも あなたはだあれ?」

ところが相手は答えない
代わりに受話器の先っぽからは
トローリトロトロ甘いビワゼリー
思わずたらふく腹ポンポン
ポンポン大将やって来たけど
こちらも見ずに行っちゃった
すると何やらへなちょこな音 (カトキチ)


ドンドコパピパピ ドンドコド
山からコケシが降って来て
そこで僕は立ち上がりラジオ体操始めたよ
笛も自分で鳴らすんだ
ピッピピピ ピッピピピー
イチニッイチニッ サンシガナクテゴーロクロク
するとコケシも一緒に動く
ピッピピピ ピッピピピー
ダンゴムシも今日は四角だ
空は今日も緑色

コケシの中によくみるとダルマが一匹紛れこんでいる。
コケシのふりをしてるんだけど、ヒゲが生えてるごまかせない。
知らないふりをしてたらダルマに
「もし、気づいてしまった方とお見受けするが」
と声かけられた。
ダルマだと気づかないふりして
「どうしましたコケシさん」というと
「なんだ、やっぱりなんでもないよ」
とダルマはさっさと引き下がる。 (多摩川)


ところが病いが発生し
コケシは次々ダルマになって
いつのまにやらダルマの体操
手足がないから動かない
すると山からウォッホッホッホ
グリーンジャイアントやって来て
網でダルマを一網打尽
あっという間に去っていき
僕はまたまたひとりだよ

ひとりになって気づいたよ みんながダルマになったとき
ダルマになれなかったかなしさは
みんながいなくなって淋しいはずなのに
ひとり落ち着いていることからもわかった
そもそも何かにじろじろ勘繰られるのはもうこりごりだった
家はどこも雨戸を閉めきって
誰も外には出てこない
どうせ知り合いか知らない人かが住んでいるだけだ
そろそろ陽が沈む頃
誰にも遭わずに
闇に溶けてしまいたい
ただしこの後どうしても夜になったら予測不能の流れ星が沢山降る気がした
そうなれば
88年ぶりにふみきりの遮断機が上がるよ (多摩川)


長い長い貨物列車だった
一体何を運んでいたのか
何万人もの夢なのか
何億人もの絶望か
それを思って草むらに寝転んで
草をハムハムしていたら
ひとりの男がやって来た
「おやおやこれはこんにちは」
僕は聞いたよ「あなたはだあれ?」
すると男は答えたよ。
「私の名前はエントロ・ピー。ピーちゃんと呼んでくださいな」
一瞬で親友になったよピーちゃんと
草を払い、立ち上がった僕らは散歩に出かけたよ

ぺこっぺこっ ぺこっぺこっ
ペットボトルの靴の音
ぺこっぺこっ ぺこっぺこっ
空のUFOついて来る
ピカッピカッ ピカッピカッ
ピーちゃん歩くと頭が光る
僕は何だか楽しくなって
キリンの歌を口ずさむ
「♪首を伸ばして未来を見たらー」
するとピーちゃんの首が伸びた (デクノボー)


こりゃ面白いぞと僕は調子に乗って
「♪ピノキオダンスで踊り出すー」
するとピーちゃんのお鼻が伸びて
たちまちダンスを踊り出す
僕は何だか楽しくなって
笑ってピーちゃん見ていたら
ピーちゃん負けじと歌い出す
「♪ムカデの足でラインダンスー」
すると今度は僕の腰から足がニョキニョキたくさん出て来て
ふたりで町に躍り出た
パラッポラポラポガギガギグー
パラッポラポラポガギガギグー

夜のとばりの落ちる頃
紅蓮のネオン身に浴びて
僕とピーちゃんダンスインザナイト
ビヨヨドタドタビヨドタタ
我を忘れて踊り狂ってたら
右腰の足を誰かがつかむ
「おい君達、誰に断ってそんな格好で踊ってるんだね。そもそも鼻長キリンとムカデ男なんてこの町には居なかった筈だ。そんな異常な姿でこの辺りをうろうろされたら困るんだよ。どうしてそんな格好で踊り続けて恥ずかしいとも思わないのかね。おかしいじゃないか。警察は何をしてるんだ。こんな異様な奴等とっ捕まえて見世物小屋に売り飛ばしちまえばいいんだ。おお嫌だ。ただちに私の前から失せろ」
僕は怒りに我を忘れかけ
百本足キックの準備をするが
突如ピーちゃんの頭の光
目がくらむほど強まった(オポムチャン)


するとその光に吸い寄せられて
空からUFO降りて来る
次々シュタタと降りて来る
でもでも待てよ良く見てみれば
UFOじゃなく洗面器
真っ赤な真っ赤な洗面器
怒った男はバットを取り出し
カキーンカキーンと打ってゆく
洗面器を打ってゆく
だけどもいつまで打ったとて
羽虫のようにきりがない

さすがにそんなに打っていたらメジャーからもお声掛かり
あっというまにアメリカの見世物小屋にも出て帰ってきたとさ
「君達には悪いことを言ってしまったね」
アメリカンのように握手をしてきた
流石にメジャーな人は爽やかだった

個人的な嫌悪感を除けば謝る人を拒む理由もない

なんだか僕とやっとできた僕の友達ピーちゃんが斜に構えていたのだろうか

そもそもダルマにすらなれないどころか逆に足が増えてしまったわけで
ひねくれものには違いない
上手くいけばみんなこんなに仲良しなのか
厭で厭で逃げ出したあの人達とも
怖くて怖くて避けていたあいつらとも
それなりに上手くやれてしまうのだろう

僕は拍手をするときに両手を同じようにぶつけて音を出していたかったのに
正しい拍手はこうやってやるんだと直されて片手を固定しそこにもう片手を打ち付けざるをえなくしたあいつや

腕立て伏せのやり方に文句をつけて正しいやり方を教えてくるために生まれてきたあいつや

靴紐の結び方を執拗に馬鹿にするのが生きがいのあいつや

おにぎりは三角にしなくてはダメと怒ったお母様とも
我慢すれば上手くやれてしまうのだ

久しぶりにスーパーの袋を頭からかぶり
心を落ち着かせることにした (多摩川)


スーパーの袋の中はとても狭いが
全宇宙がすぐ薄い一枚のビニルの向こうにあるわけで
僕はなんだか安心して
鶴のかたちで昼寝してたら
ハッと気づくとピーちゃんが
象形文字で置き手紙
「ちょいとアルゼンチンまで風船買いに行ってくる。くるくるくるくるくるくるピー。いつかきっと会いましょう『いつか』は多分ないけれど」
なんだーまたまたひとりかと
積み木遊びを始めたら
タンスの向こうの大草原から
こちらを見ている
目玉あるったら目玉ある。

それはそれは特徴的な大きな目玉だ

その目玉はあいつだな

直感的にわかったけれど

あいつがだれかわからない

この目に見られたことあるのは間違いない

でも、目玉以外が思い出せない

頭の中の顔リストと照らし合わせるが

そんなのでわかるなら最初からわかるよ

辺りのニオイを嗅いでみる
でも僕はさかなとどじょうとなまずの生臭さの違いもわからない

頭の中のニオイリストもあてにはならない

それでもおかしなもので、香りの達人カオリストとよばれていたこともあったっけ

ほかのカオリストにはどう思われていたのか



そうだ

なんでも事典をつかうんだ

ここにはなんでも事典はないから

仕方がないから積み木でそれなりにつくるよ

なんでも事典はなんでも載ってる

遠い未来もさっきのことも

遠い昔も今からのことも

知識を確認しなくては

『ウサギ小屋にいたウサギはみんな子供を産んで16匹になりました。しかし飼っている小学校の生徒は817人で――』

これじゃない

『桜の木を折ったことを正直に謝って許してもらったという嘘は桜の木のない国から伝わりましたという――』

これも違う

『亀にレースをさせるとみんな遅いので、一番遅い亀が逆から地球を一周して一位をとり審議会がつくられました』

積み木でつくったニセモノとはいえ、なんでも書いてあるから目的のものがみつからない

そもそも何を探していたっけ?

それも事典で探せばわかるか

『◆□■◇◎●ρση◎□仝仝々◆□□□§』

これは読めない

勉強不足だ

『かなくびはかるなさい。まるから☆には、ぱぱぱある』

平仮名はわかるけど

昔の言葉がなんだかわからない

なんでも事典を読み耽る (多摩川)


そうこうしてるうちに目玉は僕の横に来て僕の肩を突いてた
「な、な、なんですか?」と聞こうとしたら
何も言わずに大きな目玉は僕をキュキュキュキュキューンと吸い込んだ
うわーっと言って取り込まれた
うわーっと言って取り込まれた
うわーっと言って取り込まれた
うわーっと言って取り込まれた
「あひゃー」と僕は目玉に取り込まれた
目玉の中から外を見れば
積み木遊びをしてる僕が見えたよ
なんじゃありゃと僕は僕は思った

僕を食べた目玉の物体
重力に反して上昇していく
ふわふわふわふわ上昇していく
老眼の水晶体から見えるもの
小さくなってく下界の景色
アルゼンチンを目指すピーちゃんの姿
アミーゴと呼んでも気付いてくれない
メジャーの男も見えてきた
長い長い貨物列車の最後尾は
もうあんな所まで行っている
山には真っ赤なグリーンジャイアント
ダルマをつまみに飲んでいる
キリンを待ってた田舎の駅は
ペットボトルのキャップほど
すると積みダンゴムシで遊んでた僕が
にっこり笑って僕を見た
僕を乗せた目玉の飛行体
常識に反して上昇していく
まだまだまだまだ上昇していく (デクノボー)


ぱっぴゅっぴっ
ぱっぴゅっぴっ
どんどん上ったその先は
一体何があるんだろ?
ぱっぴゅっぴっ
ぱっぴゅっぴっ
それはまだまだわからない
ぱっぴゅっぴっ
ぱっぴゅっぴっ
生きているうちはわからない
ぱっぴゅっぴっ
ぱっぴゅっぴっ
でも死んだら脳味噌ないからもっとわかんない
ぱっぴゅっぴっ
ぱっぴゅっぴっ
どうせわからないなら決めたんだ
・・・いくよ、せーのー。

ジャーーンプッ!!



      ーーーおしまいーーー


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