イカ天の頃(北海道新聞)
イカ天には、最初出るべきかどうか、メンバー間でもめた。
賛成意見は、
「テレビで見せることによって、チラシでは伝わらない音楽そのものが見せられる。地方とかツアーにも行きやすくなるのでは」
反対意見は
「ブームに乗っているようで安易すぎる。インディーズでもそこそこ知名度が出てきたし、どうだろう」
しかし結局煮え切らないでいたところ、当時マネージャーのような女の子が勝手に応募し、テープ審査が通ってしまったのだ。
「じゃ、ま、でんべえかー」
ということで気軽に行ったが、さすがに一週目はちょっと緊張した。なにせ「つまらない」と審査員がボタンを押せば、完奏する前に演奏ビデオが消されてしまい、逆にバンドとして人気が落ちることもあり得るからだ。しかし、無事完奏してホッとする。そして、結局その週は優勝し「へ~、こんなこともあるんだ~」という感想だった。
なにせ、自分達がいわゆる「バンドの王道」でないことは100も承知していたので、一週だけでも宣伝で出られればいいと思っていたので。
ところが一夜あけて「テレビ」の影響力をまざまざと知ることになった。たまたまその日、バンドメンバーと、友人のバンドのライブを見に行く為に新宿で落ち合ったのだが、駅に行った途端、「キャー!!」という女子高生の群れが追いかけてくる。電車にようよう飛び乗れば、隣のOL達が僕達に気づかないで「きのうのイカ天見た? 凄いバンド出たよねー」電車を降りれば、兄ちゃんが「あっ!!」と大声あげて腰抜かしそうになっている。まさに一夜にして、まわりの状況が一変してしまったのだ。その頃、メンバーの家をバンドの連絡先にしていたのだが、彼が家に帰ると、「留守番電話に数百件登録されています」で、それを聞くだけで朝になってしまったという。
後、年間の最優秀バンドを決める「イカ天大賞」でもグランプリを取り、それまでの番組出演バンド約500組の頂点に立ち、あとはもうてんやわんや。デビュー前からCMには出るわ、「少年サンデー」の表紙は飾るわ、硬派ジャーナリストで知られた竹中労さんは評論本を書くわで、まさに「時代の寵児」に祭り上げられてしまった。そして、その「ブーム」はメンバーが最初から予想してたとおり、2~3年で過ぎた。しかしある種面白い体験をさせてもらったな、とは思ってる。
「イカ天」に出る前5年、ブームが3年、そしてその後10年。計18年も活動をしているわけだが、こちらはちっとも変わってないのだ。もちろん歳も取ったし、微妙な趣味の変化はあるかもしれないが、CDを聴いたり、ライブ等見てもらえばわかると思うが、基本的には変わってないのだ。
活動的にも、去年もCDを3枚リリースしたし、今年もテレビのドラマに劇中バンドとして出演したりもした。ライブも以前より若干回数は減ったものの、依然として続けている。ただ、まわりだけが大きく変わっていく。
僕らはその台風の目の中で、ポカンとしてるような、そんな感じがずっとずっと続いているのだ。
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