かわいそうなクルックー




クルックーは
ハトヤでうまれた一匹のハトでした。
人間でいえば、幼稚園児くらいでしょうか。
羽根はあるけど、まだうまく飛べないので、
もっぱらヨチヨチ家の中をあるいていました。
おかあさんハトは、毎日ハトヤホテルのまわりを飛びまわって、
窓からお客様にごあいさつするのが仕事でした。
なんてったってハトヤのシンボルは、平和のしょうちょうのハトですからね。

ある日のことです。
「おかあさん、ぼくもお客様にごあいさつするお仕事したいよう」
クルックーはおかあさんに言いました。
「クルックー。まだあなたには早いでしょう」
でも、クルックーはおかあさんの羽根をひっぱりながら、
「したいよう。ぼくだってお仕事したいよう」
とおねだりました。
「そうねぇ・・・いずれは行ってもらうことになるのだけど、クルックーはまだ空が飛べないからねぇ」
そこでクルックーは言いました。
「わかってるよ。だから歩いてでも行きたいんだい。ダメ?」
おかあさんはしばらく考えていましたが、クルックーのしんけんな目を見て思いました。
「わかったわ、クルックー。
 そうよね、まずホテルの中を知ることも大切よね。
 ちょっと心配だけど、あんよはお上手だものね。
 行ってらっしゃい、クルックー。
 夕方までには帰るのよ。
 あっ、最初だからお客様だけじゃなくて、スタッフの方にもごあいさつするのよ。
 一階一階、ゆっくりあがってごあいさつしてらっしゃい」
「うん、わかった。その代わり、今日のばんごはんは、ハンバーグだよ!」
「あらあら、まさかそれが目的じゃないでしょうね。
 いいわ、いってらっしゃい」
そう言って、おかあさんは玄関で手をふって見送ってくれました。

そうしてクルックーはハトヤにつきました。
まずは本館にはいります。
豪華なシャンデリアのあるロビーや、大きなレストラン、それにゲームセンターまであります。
「こんにちは、お客様。
 ぼく、クルックーです。
 本日はハトヤにようこそいらっしゃいました」
「あらあら、かわいい小鳩さんだこと」
お客様の反応も上々です。
クルックーは嬉しくなって、胸をはりたくなりましたが、はる前に鳩胸でした。
それからちょっと宇宙的なかっこいい通路を通って、新館に行きました。
通路は二階にあるので、最初は一階までおりて、あいさつを続けました。
「こんにちは、お客様。
 ぼく、クルックーです。
 本日はハトヤにようこそいらっしゃいました」
そしてもう一度上にあがった時、ちょっと階段をあがるのにつかれてきました。
と、そこにいいものを見つけました。
「あっ、ここにエレベーターがある。
 これで上がっちゃおうっと。
 このくらい、ズルじゃないよね」
クルックーは自分にいいきかせて、エレベーターに乗り込みました。
「ええと、ここは二階だから次は三階だな。
 ・・・アッ、アレッ? 三階がないっ!
 というか四階も五階も六階もないっ!」
一番近い階を押したのに、着いたのは七階でした。
クルックーはしばらく考えて、はたと気がつきました。
「あっ、そうか。これはお客様用のエレベーターなんだ。
 だからいきなり客席のある七階まで直通うんてんだったんだ。
 そうだよね、これだけおおきなホテルなんだから、スタッフさんもたくさんいるよね。
 きっとスタッフさんが準備したり、泊まったりする場所が三階から六階まであるんだ。
 てへっ、しっぱい、しっぱい」
そう言ってクルックーは頭をかくと、二階までまたおりました。
「そうだ、今日はスタッフさんたちにもごあいさつしなくちゃな。
 きっとスタッフさんたちはエレベーターを使わずに階段をがんばってのぼってるんだ。
 ぼくもがんばらなくちゃあ」
クルックーは二階から階段をよっこらしょ、とあがりました。
すると、見おぼえのある景色の場所にでました。
「あれ、ここは・・・七階!
 だって『七階』ってちゃんと書いてあるし。
 あ、なんだ、ぼくがぼーっとしているうちに、いつのまにかこんなにあがってきちゃったのかあ」
クルックーはだれも見てないのにちょっと照れて、
「あ、せっかくここまでのぼってきちゃったんだから、今度は上から行ってみよう。
 最上階はたしか十三階だから、そこまでエレベーターで行って、一階ずつおりてこよう。
 その方が、楽だもんね。へへへ」
そう言って十三階まであがりました。
今度は順調にあいさつをしていきます。
「こんにちは、お客様。
 ぼく、クルックーです。
 本日はハトヤにようこそいらっしゃいました」
ところが七階から六階におりようとした時、また不思議なことがおこりました。
そう、そこは六階だと思ったら二階だったのです。
「あ、ダメだよ。スタッフさんにもあいさつするんだいっ!」

「クルックーは遅いわね。もうハンバーグが焼き上がるというのに」
おかあさんは心配になりました。
暗くなってもクルックーが帰ってこないからです。
おかあさんはハンバーグを焼くのを途中でやめて、クルックーを迎えにいくことにしました。
「どこにいるのかしら・・・」
おかあさんはホテルのスタッフやお客様に、
「うちのクルックー、見ませんでしたか?」
と聞いてまわりました。
そのうち、ようやくクルックーを見つけました。
階段の途中で、疲れて眠ってしまったクルックーを。
「むにゃ・・・こんにちは、お客様。
 ぼく、クルックーです。
 本日はハトヤにようこそいらっしゃいました・・・」
寝言を言っています。
その時、おかあさんはハトだけにハット気づきました。
「そうだ、クルックーにはまだ教えていなかったわっ!」
そう言っておかあさんはクルックーをギュッと強く抱きしめました。

ハトヤホテルの新館は、二階の上がいきなり七階になるという魔法のホテルだということを。
「クルックー、おかあさんにもわからないのよ。
 なぜ三階から六階まで抜いたのか。
 もしかしたら昔、グリーンジャイアントがこのホテルにやってきて、
 三階から六階までダルマ落としで落としてしまったのかねえ・・・」
おかあさんの疑問の中、クルックーはスヤスヤスヤスヤと、
いつまでもいつまでも眠り続けるのでした。


 おしまい。


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