数年前、スイスのローザンヌという所に立ち寄った際、「アール・ブリュット」という美術館があり、そこで手に入れた。
いわゆるアウトサイダー・アートという奴で、知的障害者や精神異常者、犯罪者達のアートを集めたものである。
庭に巨大な鳥のおばけみたいなものを作り、その腹部あたりから顔を出してニコニコしている髭のおっさん。
子供の頃工作で作った木のおもちゃをそのまま何十年間も作りつづけ遊園地にしてしまった人。
キイチのぬり絵に出てくるような女の子がなぜか下腹部には男性をつけて、首を絞められている絵は作者である障害者の掃除夫の死後、物置を整理していると大量に発見されたりした。
そのひとつひとつが、なんともいえない圧倒的な「気」で迫ってくる。
そこにはかっこいい「アート」や、ある方向の技術の水準合戦である「美術」にはない、「描きたい」「作りたい」欲望そのままの結果がある。
おそらくこれを見た誰もがまるで子供の頃図鑑で見た「人体のしくみ」の人の皮を剥いた姿をそこに見せられたようなショックを覚えることだろう。
精神的や社会的な欠陥、とされる人々が持つこの力は一体なんだ。
「欠けたもの」が実は標準的といわれる形のものが壊れたものではなく、はじめからその形だったことにそろそろ気付かなくてはならないのかもしれない。
(スタジオヴォイス)