石川浩司のぶらりしりとり商店街 下部温泉篇(BUBKA)



今年は暖冬、と聞いていたのだが、やっぱりサミーヨー。俺はとにかく冬場は家の中から、いや、布団にガヂガヂ囓りついてそこから一歩も出ずに過ごしたいと思う性分だ。トイレにすら行くのも嫌で、溲瓶の購入も真剣に検討しているほどの出ず嫌いな俺に、編集部が囁いた。
「じゃ、暖かい温泉街を散歩するのはどぉう?」
さすがにその言葉に俺も「そうか、それなら良いかもなぁ」とズルズルと芋虫のように布団から這いずり出た。そこに、罠が仕掛けられているのも知らずに・・・。

出かけたのは山梨県の、下部温泉。
山梨と言えば、言わずと知れた武田信玄。信玄と言えば「隠し湯」というのが定番だが、どうやら信玄は「湯」だけに限らず、何でも隠すのが好きなようだった。まずは駅を出ると、おみやげ屋さんに「かくし最中」が。一体、何が隠されているのかとワクワクしながら買ってみる。例えばカラシとかワサビとかが入っていて「ヒェ~!」とか、はたまた裏をかいて餡自体がいっさい入ってない皮だけの最中で「隠された~」と大笑いするものとか。ところがみんなで食べたものの、普通の最中だ。「何か入ってた?」「さぁ・・・」誰もわからないので、しょうがなく成分表を見る。と「レーズン」と一言。う~む、確かに葡萄の味はちょっとしたが、それは葡萄が有名な山梨だから、隠したんじゃなくて、普通に餡の中に練り混まれていると思ってた・・・。
「ま、ま、おみやげなんてこんな物だよね」
 と言いながら歩いていくと「植物園」の看板が。しかし、その「植物園」の門の向こうは、ただの枯れ木の山。遊歩道もなければ、それらしき看板等も一切ない。まぁ、枯れ木だって「植物」には違いないが・・・それなら、日本のほとんどの土地は植物園で、海は全部水族館になっちまうが・・・。
 さらに歩くと「喫茶かくれんぼ」が。名前もずばりそのままだが、「コーヒーでもちょっと飲んでいきますか」のその言葉を言い終わらないうちに、「入り口がない!」確かに看板や門はあるのだが、その先は、一般の民家の地下室みたいなところに繋がっていて、しかもそこに向かう階段は、草むしていて、とても普通の神経では入っていくことが出来ない感じなのだ。
 ここで俺は「ムムムッ」と思った。さっきの植物園にしろ、「喫茶かくれんぼ」にしても、妙だ。もしかしたら、テレビゲームの「謎解き」のように謎を解いていけば、植物園も、喫茶店も現れるのではないか。それに先ほどから道を歩いていると、やけに車どおりは多いのに、町は寂れた感じで、歩いている人の姿もあまり見かけない。どーもおかしい、おかしすぎる。もしかしたら、どこかの岩の蔭か何かに洞穴があって、そこを通っていくと、巨大な下部の地底町が出現するのではないだろーか。そこに町の人達が沢山住んでいてチャンチキ楽しくやっているのではなかろーか。で、時々、用のある人だけが、こっそり地上に現れる、と。
 実際、トルコのカッパドキアという奇妙な岩山の町は、昔、隠れキリシタン達がやっぱり洞窟の奥底に住んでいて、敵がくると様々なトラップで侵入を防いだという。その日本版がここに? うーむ、手がかじかんだので、俺はそれ以上のこの町の追求をやめたが、誰か、手がかじかんでもそれに負けない勇者よ、是非この「かくし町」の秘密を探ってくれ給へ。他にも、普通の道の端に落ちているファンタの空き缶がさり気なく20年以上前のものだったり、「下部温泉会館」は開館してたが「実験中」と小さく書かれており、「何を実験されてるんだ!?」と思ったり、絶対に謎があることだけは確かだ。う~む、と唸りながらも待望の温泉に浸かり、い~い気分。ふー、やっぱりこの連載、やめられまへんな~、と思いながら、「次はどこ行きまひょ」と考える。
「えーと、この駅が下部温泉だから・・・んっ!?」
 なんと、しりとりなのに「ん」がついてしまっとるぅぅぅ~!! ということでこの連載も終わりじゃ~い!    
 またどこかで会おう! さらばー!!
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