石川浩司のぶらりしりとり商店街 馬橋篇(BUBKA)



 この日、待ち合わせの馬橋には午後2時集合。いつもちょっと遅刻してしまいがちな俺は、気合いを入れて10分前には到着。しかし2時を結構まわっても、編集H嬢もイラスト山中嬢も来ない。携帯電話にかけてみても、編集H嬢は留守番電話、イラスト山中嬢に至っては「現在、お客さまの都合でお使いできません」って、電話代も払えないくらいだから、ここに来る電車代もない、ってことか!? もしくは、ふたりの策略で、新手の俺への放置プレイかっ!?

 

・・・イヤァァァァァ!! 



 と思った頃、ようやくふたりが登場。
「石川への放置プレイもこのくらいで勘弁してやるか、フフフ」ということか!?

 さて、ここ馬橋は千葉県。松戸の少し先だ。昔の街道筋だったのか、古そうな店もちらほらある。そんなところを、今日も今日とて、ふにゃふにゃと散歩気分で歩く3人。と、住宅街の中に、ちょっとだけ昔風の喫茶店「とら」があった。まぁ、店がまえは「ちょっとダサイ田舎の喫茶店」といったところで、特別変わっている、というほどでもないのだが、ここで俺が長年鍛え上げた「怪しい物件見つけ鼻」の鼻が、ニュゥゥゥゥっと、30cmぐらい伸びた。
「石川さん! 鼻が、鼻が! まるでピノッキオのようよ!」
 という女性陣の叫び声が聞こえた。
 ・・・というのはもちろんまったくの嘘だが、とにかくなにかピンとくるものがあり、俺は言った。
「ここ、入ってみよう」
 そして中に侵入した途端、俺達はギクリとした。もしかしたら「ギクリ」と音まで出てしまったかもしれない。そう。そこは客席20人ぐらいの店だったのだが、ほぼ満席。しかしそこでギラリと俺達の方を振り返った全員が、おそらく70を越えた老人達だったのだ。しかも、どう見てもメニューにはない柿を剥いたり、煎餅を齧ったりと、よーするに「老人御用達喫茶店」だったのだ。それでもどうにか席を作ってもらって、座る。が、なんともいえない違和感はどうすることも出来なかった。例えばそれは、「ナメクジ愛好会」の会合で、全員がナメクジの動きを実体験しようと、床に油をひいてクネクネ半裸で這いずりまわっているところに、突如自分が放りこまれたようなものだ。とまどひ、とまどひ。俺達は「ゆで卵、トースト、ミニサラダ、コーヒー」のサービスセット500円を食い終わると、そそくさとその場をあとにした。
 実は俺は店のママさん(もちろん老人)に背をむけていたので気づかなかったのだが、あとのふたりに店を出たあと聞くと、ママさんからさり気なく「どーしてこの店に入ってきた。誰かに頼まれたスパイか!?」とでも言いたげな怪しい視線をチラチラ感じたという。しかしなんにしろ、老人達はおそらく日がな一日、この喫茶店でダベッているのだろう。俺達がいる間も老婆達の洪笑は、間断なく、続いていた。とにかく「超フケ専」の読者がいたら、ここは必須スポットだな。常磐線にエッチラ乗ってでも、行く価値あるぞ。

 その後、駅近くの「ブレッド&ケーキ YAMAZAKI」には、パンもケーキもひとつも置いておらず、千葉県名産ピーナツと煎餅しか置いてないのを発見したり、「名物・馬橋せんべい」には「キッコー」という煎餅があり、醤油の産地の千葉なので、キッコーマンの醤油で焼いたものだと思ったら、ただ亀の形をしていて、
「いやぁ、「亀甲」という字が難しかったから、カタカナにしたんすよ」
 というわけのわからない解説を聞いたり、「山長」のごまだんごは黒ごまコッテリ60円でおいしかったり、駅裏には、謎の「古い枕木売ります」の「鉄道用品株式会社」があった。
「俺も枕木でも買おうかな~」
 とふと思ったが、よく考えたら何に使うんじゃーい! でも鉄道マニアにはたまらんだろーな。「抱き枕」ならぬ「抱き枕木」とかにして、鉄道の夢を見る輩もいるのか?
 と、山中さんが、その倉庫の中に入ったまま、なかなか出てこない。と、しばらくして「ピーッ」という音とともに、山中さんが運転席に座り、
「これ、買っちゃった!」
 と列車を走らせてきた。
「でもレール買うお金なかったので、このまま帰るね」
 と言って、そのまま去っていった・・・来月には帰って来てね、山中さん・・・。
 と、今月はメルヘン調に終わってみたりして。
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