石川浩司のぶらりしりとり商店街 梅屋敷篇(BUBKA)



 俺はここ20年近く、頭は丸刈りにしている。ところが前日まで台湾にひとりで遊びに行っており、そこで「髪の毛が伸びてるな~」と思って床屋に入ったら、台湾には「丸刈り」というファッションがどうやらないらしく、一時はうさぎの短い耳みたいな奇妙な髪型にされ、汗だくで説明して、やっと角刈りまでたどりついた。なので今月はいなせな「角刈り男」で散歩じゃいー。

 駅前は典型的な下町風情で、えー感じ。何故か洋品店の前の箱にスモモがたくさん入っており、「ご自由にお持ちください」とあったり、「牛豚内臓器卸ヤキトリ」というエグそうな名前のやきとり屋があったので、こっそり少し離れたところから編集の林さんが写真を撮っていたら、それに気づいた親父がニコニコして、「駄目だよ、ねーちゃん。もっと近くで撮らなきゃ、ヤキトリが写んねえだろぉ」
 となかなか、フレンドリーだ。
 それから「すぐわかるおいしさ」と書かれたパン屋。結局、買って食え、ということじゃんか! そりゃ、買えばだいたいおいしさなんてすぐわかるもので、次の日になってから「あれっ!? きのうのパンはおいしかったな~」ってなことはあまりないからな。
「とうふとあぶらあげツーの方が選ぶ店」なんか「通」じゃなくて「ツー」というところがいいな。ま、片仮名で書いた時点ですでに通じゃない気もするが・・・。
 店の前の商品の入った段ボールの隙間で眠っている猫。自慢のヨークシャテリアを自転車の後ろのカゴに入れ、あちこちで「かわいいわねー」と言われて相好を崩す親父。

 そんな中、住宅地の方からチリンチリンと鐘のなる音。豆腐屋か、風鈴屋か。と思って、音をたよりに行くと、真っ昼間から、おでんの屋台を引いているおっさんがいる。3人で走って追いかける。卵やガンモや大根など、ひとり2,3個づつ頼んで、全員で計300円。安い! フーフー頬張りながら話を聞くと、おっさんはこの道35年。昼間しか営業してないそうだ。普通、おでん屋と言えば夜になるとどこからともなくやってきて、一種の飲み屋になるケースがほとんどだと思うのだけど、
「夜は酒出すとうるさいし、ケンカとかする奴がいるんで、俺は昼間しかやらねえんだ」
 との答え。でも昼間だけで35年もやっている、ということは、取りも直さず昔からの固定客が多い、ということだろう。しかも純粋におでんだけを楽しみにした。そういう土地柄、って懐かしくてちょっといいなー。と、
「あんたら、オタクホー?」
 と聞かれ、一瞬なんのことかさっぱりクエスチョン。
「お宅ホモ?」
 の聞き間違いだとしても、女性もふたりいるのにシュールだなと思ったら、どうやら「大田区報」の事で、写真など撮っているので、その取材だと思われたらしいのだ。「いえいえ」とか言いながら退散。

 さて、俺もデジカメを持っていたので、とある中華料理屋で「昔のラーメン」とかいうのがあったので「まさか、1ヶ月前に作ったラーメンを出すんじゃ・・・」とツッコミを入れる為、写真を撮ろうとしたら、ちょうど外から帰ってきたらしい店のおばさんに、
「駄目だよ! アイデア盗んじゃ!」
 と言われる。「昔のラーメン」がその店のアイデアなのかと思ったら、さにあらず。
「黄色い看板、っていうのがうちのアイデアなんだから。川崎から偵察にきたのかい!!」
 と怒られる。
 あのー・・・黄色い看板って、どこにでもあると思うんすが・・・
 あと、川崎と決定してるのは何故だろーか。角刈りだからだろーか。う~む、最後に謎が残った、情緒町だった。

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