石川浩司のぶらりしりとり商店街 十条篇(BUBKA)
前回の「新高円寺」から今回は埼京線(旧・赤羽線)の十条へ。ところが取材当日のこの日、なんと始発から夜まで、工事の為、池袋~赤羽間は全面ストップ。駅も閉鎖されており、近隣の駅から代替バスでしか行けなかった。しかし、俺達は意地をみせ、血ヘドを吐きながら這って十条にたどり着いたのだった。
さて、十条は名前は知っていたが、はっきりいって、小さな商店街が1本通ってるくらいだろう、と軽く考えていたら、さにあらん。なかなかに大きな町で、駅から四方にショッピング街が伸びている。と言っても近代的なそれではなく、昭和の色濃い下町。
様々な総菜屋を筆頭に、おでん屋、団子屋、青汁ジュース屋などが、活気に満ち溢れている。古本屋では50年くらい前の少女漫画の単行本が750円也で店頭に出ていて、買おうかどーしようか迷った。なんか好きなんだよなー、この味わい。「歯槽膿漏 S歯科」なんていう、専門店(?)歯科などもあった。
イラストの山中さんは「アイスのスプーンの袋」コレクターという珍しい種類の人間なので、とある菓子屋で俺の最近お気に入りの「トルコ風アイス」をひとつ買って、3個スプーンをガバッと取ったら、
「アイス1個にスプーンはひとつ!」
と怒鳴られて、
「3人で食べるんです~」
と大あわてで走って盗み逃げしてきたりした。
あと「登小平氏の晩食 最高の味 坦々麺」という看板があったが、登小平がここに食べに来たわけではなかろー。しかも登小平だって、毎日、坦々麺を食ってたわけではないだろう。それを言うなら、「ユリ・ゲラー氏の晩食 最高の味 ハンバーガー」でも「ジャイアント馬場氏の晩食 最高の味 カレーライス特盛」でもなんでも良かろう。
などと考えてたら腹減った。「からし焼 大番」というのをみつけ、早速からし焼とはなんぞや、と入って食す。と、それはよーするに「唐辛子肉豆腐定食ニンニク2個入り」だったのね。からし焼は和辛子ではなく唐辛子で、それは構わないのだが、謎なのは、どこも焼いてないことだ・・・。茹でるだけなのに「焼きそば」と言ってはばからないカップ焼きそばみたいなものか?
それから「本日は貸切になります。またのお越しをおまちしております。パパより」と書かれた謎の「金物・工具・接着剤・ボルト」という奇妙な工場があったので、
「えっ、貸し切って一体中で何をするの、パパ・・・?」
と思ったら、その看板はその路地の奥のレストランを指している事がわかってホッとしたり、「ゆにおん実験劇場」という60年代のアングラ芝居小屋がそのまま残っていたりと、かなり不思議なスポットが点在。
と、「篠原演芸場」というかなり立派な芝居小屋が。覗いてみると、あと5分で開演。せっかくだ、と入場料1500円を入って中に。本日は「見城劇団」という劇団の公演のようだ。一部が若手衆のいなせな踊り(まー脱がない男のストリップみたいなもの)で婆さんヒャーヒャー歓喜、二部は座長の歌謡ショー(流し目バッチリ)花道歩けば、おばはんが着物の懐に紙に包んだお金を挟み、三部はコメディ仕立ての人情芝居(セリフかぶりまくりだけどいいのか!?)で下品なセリフに爺さん金歯見せて哄笑、という構成。お客さんは老人5に中年5の割合で、ヤング度ゼロ、ってえのがまた泣かせるねぇ。皆、隅に置いてある座椅子を畳に敷いて座っている。俺達もよっこらしょとそれを運んで座って見る。と、座った途端、受付の横にいた太った老婆が音もなく近づいて、俺達の耳元で囁いた。
「お客さん、座椅子代、ひとり200円払っておくれ。」
・・・それなら、最初から入場料を1700円にしろ~!!
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