石川浩司のぶらりしりとり商店街 金町篇(BUBKA)



 前回の鎌倉・和田塚の「か」から今回は下町の常磐線「金町」へ。葛飾区にあるこのなんの変哲もない下町には、おじさんやおばさんが気軽に声をかけてくる、のんびりとした人情が漂っていた。列車が金町の駅のホームに滑り込む時に、ちらっとその車窓に見えた「ジグソーパズル専門店」というのがなんとも気になり、まずはそこに直行してみた。

 しかし、ジグソーパズルだけで、経営というのは成り立つものなのだろうか? イメージとしては、どうしてもおもちゃ屋の片隅のひとコーナーといった気がしてたのだが。とにかく入ってみる。と、中は確かにジグソーパズル一色。と、店のおばちゃんが「うちには1万ピースのもあるよ」と言って箱を見せてもらう。さほど大きい印象はない。ところが値段は3万8千円。額縁は12万円するという。
「ふひぇーっ、じゃ、だいぶ大きくなるんですか?」
 と聞くと、
「大きいなんてもんじゃないよ」
 と笑われる。
 なんと完成すると、畳何畳分にもなり、マンションとかだったら、到底エレベーターなどには載せられず、クレーンで運ぶしか方法がないということだ。クレーンでジグソーパズル・・・。途中で崩壊したら、こんな悲惨なことはないな。
 この店の奥にはブラックライトの部屋もあり、暗闇の中で光るジグソーも展示されていた。
「だけど、この部屋に入るには注意が必要なんだよ」
「?」
「入れ歯とか、鼻にシリコン入れている人とかは、ブラックライトでぼやーって光って、わかっちゃうんだよ」
 そ、そうなのか。入れ歯ならまだしも、鼻シリコンは、まずい人結構いるだろう。
「わぁ、ジグソーパズル屋さんだぁ!」
 なんて彼氏とルンルンで入って、思わぬ正体暴露でウギャギャギャーッということもあるのだな。注意しろよ。

 さて、俺達は南口の「ふれあいの街ベルシティ」に入っていく。と、陶器の店が。店頭に陶器の風車がおいてあり、こんなメッセージが。
「お部屋に一台。大人は疲労回復に、小人は科学の勉強に」
「どういう意味ですか?」
 と、店のおばさんが、
「ほら、風車を見ると大人は心がなごむだろう(なごむか?)そいで小人は、風車が回転するのを見て、科学の勉強になる(なるか?)一石二鳥だろ」
 とかなり強引。
 さて、腹も減ったのでもんじゃ焼きの店に入る。子供の頃、群馬では「ジジ焼き」と言ってたんだよなぁ、とか懐かしがりながらベビースターとかをトッピング。このヘラでこそぎ落とすのがいいんだよなぁ、とガシガシ削って食べる。
 と、イラストの山中さんが用足しに。するとおばさんが「すいませんねー、うちのトイレ流れないんですよ。あとでバケツで流しておきますから、遠慮なくしてって下さい」遠慮なくって言われても・・・ブツを見られる恐怖から、山中さんはトイレに行くふりをして、トイレの中で1分ぐらい時間をつぶしてから、何事もないように戻ってきた。じゃお会計ということで編集の林さんが、
「領収書を下さい」
 と言うと、
「すいませんねー、領収書なんてめったに書かないもんだから。宛名とか自分で書いてくれる?」
「はぁ」
 ということでトイレもすんでないし、外に出てお茶でもと「喫茶ボン」へ。テレビではちょうど「笑点」が流れていて、休日下町気分バッチリ。
「メニューください」
 と、老マスターは、
「すいませんねー、うちメニューないんですよ。コーヒーか紅茶か」
「・・・じゃコーヒーを」
 時間は6時を少し回ったところ。次回はどこに行こうか打ち合わせをする。と、マスターはすでに看板を仕舞いはじめてる。
「すいませんねー、うちの店6時で終わりなんです」
「・・・早!」
 そう、ここは腰の低い「すいませんねー」の町だったのだ。
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