石川浩司のぶらりしりとり商店街 新小岩篇(BUBKA)



 しりとり駅名で商店街を巡るこの企画。ブブカ→神楽坂→上板橋→で、今回は新小岩へ。と、南口にルミエールという大きなアーケードが口を開けていた。入ってみるが、今ひとつピンとこない。新しい店が多く、きれいすぎるのだ。整いすぎた商店街はどうしても個性が少なく、つまらない。ということで、一行はすぐに脇道へと迷い込むことにした。

 と、早速ありましたよ~「くつ下専門店44年目・ダンク竹内商店」と書かれた、古ぼけたお店が。しかもあちこちに宣伝文句を書いた紙がべたべた貼られている。
「ふんわりゆったりと、ダンクの靴下暖ちがい」
「質の良さの追求忘れれば文化消え」
「こんなによいものこんなに安く! くつ下25年」
 あれっ? さっき書かれていた44年と19年も違うんすけど・・・
 ま、そんな矛盾を深追いするのはやめにして、あぁ、今日も腹減った~ということでウインドウのサンプルが真っ黒になって、もはや食べ物を展示しているとは思えない「食堂ときわ」に。

 と、メニューの数が多い! 端から数えてみると、なんと食べ物だけで147種類! うおっ、これじゃ決断力のない人は、昼飯食おうと思って入ったものの、悩んでたら日が暮れてカラスカーカー鳴きまするー。ということで、俺は1000円とお得なウナ丼を頼む。と、これがあっ、甘ーい! ほとんどウナギの甘露焼きじゃい! と、肉豆腐定食を頼んだ山中さんがお店の人に声をかける。
「すいませーん、メレンゲ下さ~い」
 って、そりゃ、レンゲだろっ!! いくら147種類あったって、メレンゲが置いてある定食屋はないわいっ!!
 いくらウナギが甘かろうがなっ!! 

 それから衣料品店「一休」の前を歩いていると、突然、そこの親父が、
「あっ!」
 と俺を見てビックリしている。サインが欲しいというので、色紙に書いてあげると、
「ファンなんですよー、こんなところで会えるなんて、いやー神様からの贈り物ですよ! いやー、生きてて良かった!!」
 と異常に感激してくれて、しかも、
「お母さんはおいくつ?」
 と聞くので、
「・・・えっ!? 母ですか? いや、70近いですけど」
 と答えると、
「じゃ、これお母さんに持っていって!」
 と何故か婦人用の高級そうなパジャマをくれた。す、すまんねー。でも、何故母に!? と思いながら商店街もぼちぼち終わり。

 と、山中さんがここらあたりは昔赤線だったという情報から、その痕跡を辿ることに。すると、ちょっとはずれたトタンの長屋みたいなところに「喫茶スナック小蝶」という店が。こいつは怪しい。でもまさか営業していないだろうと、隣の家でしゃがみこみながら猫に餌をやっていたおばあさんに尋ねてみる。
「ここ、やってないですよね」
 すると、
「あたしの店なんだから、あたしが行きゃ、開くよ。何? コーヒーが飲みたい? じゃ今開けてあげるよ」
 ということで、昭和の香りがプンプンするカウンターだけの喫茶店に突入。と、ママさんのトークが炸裂。編集の林さんがこの近所に住んでいる、と言うと、
「カッペねえ。そういうのは、ヘドッ子ってんだよ。江戸っ子は両国から向こうだよ!!」
「この間電車に乗ったら『おばあちゃん、席どうぞ』っていう子がいたんで『あたしゃまだ婆さんじゃないよっ! でもせっかくの好意だ。荷物だけ置かせてもらうよ』と言って、その子の膝に、荷物ドカンと置かせてもらったんだ。ワハハハハ!!」
 う~ん、やっぱり下町はこうでなくっちゃ!!


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