「旅の楽しみ」(月刊 自己表現)


 旅の楽しみ、とはそもそもなんでしょう。観光地をめぐって、名物の料理を食べること? 温泉に入って、遊園地で遊ぶこと? 確かにそれもあるけど、最近の観光地は画一化され、また「名物に旨いものなし」という言葉もあります。そこで、冷静に「旅に行って何が楽しかったのか、何が結局思い出に残ったのか」を思い返してみましょう。するとそれは、地元の人とのちょっとした触れあいだったり、予想もしなかったハプニング(トラブルではなく)だったりすることではないでしょうか。ということは、それを意図的に増やせば、より楽しく、オリジナルな旅が実現するということではないでしょうか。

 ということで、僕が20代の頃からしている旅の形態があります。それが「すごろく旅行」です。まずは、友達5,6人とサイコロを用意し、その出た目の数だけみんなで進んで、その駅で降ります。だから「どこに行くか誰もわからない」旅なのです。その時点でドキドキするし、観光客が降りない町にこそ、その町の自然な生活が残っていたりして、思わぬ発見があったりします。
 時間に余裕があれば、1週間ぐらいやると、尚、面白いです。東京から出発しても、1週間後には、北海道にいるか九州にいるか北陸にいるか、まるで誰にも予測不能なのですから。こんなスリルのある旅も、なかなかできません。

 しかし確かにその下車駅が必ずしも面白いとは限りません。ただの工場地帯だったり、何の変哲もない住宅街だったりすることもあるでしょう。そこで、その下車駅では、あらかじめ作っておいた「クジ」を引き、それに従うのです。僕達がやったクジには、こんな物がありました。

「猫を一匹捕獲して、一緒に写真を撮る」
「町の人誰かひとりをばれないように尾行。その人の行動をすべてまねしながらついていく」
「食堂に入り、それぞれ今までの人生で一度もオーダーしたことのない物をたのむ」
「30分間で、なるべくデカイ物を拾ってくる。最も小さな物しか拾えなかった人が、そのデカイ物を次の駅まで運ぶ」
「神社に行き、自分がフラレタ時の話しをする」
「英語しか喋ってはいけない。男はみんなジョン、女はみんなヨーコという名前で呼び合う」
「アカペラ童謡グループ(踊り付き)を結成し、ストリートライブをやる。お金が一円でももらえるまでやる」
「次の駅まで後ろ向きに全員で行進」
 等々、クジを作る条件は、「1時間以内程度で出来ること、お金はかかってもひとり500円まで」とか決めておけば、お金もかからず、くだらなくも愉快な旅が続けられます。もちろん、思い出に残る旅になることは請け合いです。

 この旅が面白い証拠は、僕がすでにこの形態の旅行を40になるこの年まで何十回もしており、さらには台湾、韓国といった外国でもおこなってしまったことではっきりするでしょう。どの旅も、とても思い出深いものとして、残っています。
 さらに旅を面白くするヒントをもうひとつ付け加えるなら、何かひとつ、その旅でテーマを持ってコレクションをするとよいです。
 例えば、地方にしか売っていない缶ジュース、お菓子、喫茶店のマッチを集める。またカメラがあれば、その町にしかない変な看板、銅像、公園のすべり台などを撮る。ひとつではあまり面白くないものも、テーマを決めて集めてみると、案外、知られざる地域的特徴とかがわかって、面白いものです。

 とにかく、旅は少々無理をしてでも若いうちに行った方が良いと思います。「旅の恥は掻き捨て」はよくありませんが、人の迷惑にならないことなら、馬鹿なことをやるのも、若者の特権です。時には、人生が変わるような出会いがあるかもしれません。最後に、寺山修司の言葉を贈ります。

「書を捨てよ町へでよう」

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