「スイッチ」(ゲーム本)




 俺が子供の頃、もっとも好きだったテレビ番組は、ドリフターズでもアニメでもなく「ゲバゲバ90分」だった。独特の「毒」とニヤリ笑いが、子供だった俺のハートをたまらなくドッキンコと掴んだのだった。
 そのエッセンスがゲームで蘇る、と聞いて、俺は狂喜乱舞した。そのソフト1本の為に、当時持っていなかったメガドライブCDも購入した。ただ、喜び勇んで買った数週間後に、新製品のハードが出て、あっという間に値崩れしたのは、谷啓さんじゃないが「ガチョ~ン」だったが。

 ともかく、頭の中身が少々人よりプチサイズで、面倒なルールを覚えるゲームだと、解説書を読んでいるうちに、いつのまにかスヤスヤと天使の寝顔になって羽根を休めてしまうこの俺様でも、「ただボタンを押せばギャグが次々繰り出される」というこのゲーム(ゲームといっていいのか?)は、うってつけだった。
 そして「スイッチ」は期待を裏切らなかった。
「一体、いくつあるんじゃ~い!」
 と唸るほどのギャグの応酬。
「こりゃ、面白いわい~!!」
 と言うことで、やっぱりその手のゲームが好きな友人のK君を呼んでやらせてみた。
「へー、面白いね~」
 最初はクールに言っていたK君だが、しばらく遊んだ後、
「レポート用紙を一枚貸してくれるかなぁ・・・」
 とつぶやくので、何のことかわからずに、渡した。そして、
「もうそろそろ終電だけど・・・」
 と言うと、
「いやぁ、今日は泊まらせてもらうよ」
 の声。まぁいいか、と思って、
「じゃ、うちの夫婦は二階で寝ちゃうからねー、おやすみー」
 と言って、その日は眠りについた。そして次の日の朝。トントンと階段を降り、きっと眠りこけているだろうK君を起こそうとして、部屋を開けた。と、なんと、彼は昨晩と全く同じ姿勢で、ゲームを続けながら、レポート用紙に何か書いている。
「な、何やってるの?」
 と聞くと、
「レポート用紙もう一枚くれるかなぁ、足りないんだー」
 と言う。
「いや、レポート用紙は何枚使ってもいいけど、一体何してるの?」
 と聞くと、彼は特徴のあるでかい鼻の顔をニヤッとさせながら、
「どのボタンを押すと、どこにワープするか、表を作ってるんだよ」
 と答える。
「結構これが大変でねぇ・・・」
 そういいながら、すでに彼は俺達夫婦から視線をゲームに戻していた。
 何かそら怖ろしい物を感じながらも、まぁいいかと、好きにやらせておいた。そして、その夜。
「あのー、終電出るよ・・・」
「ちょうど今、仕事休みの時期だから気にしなくていいよ・・・」
 気にしてもらいたいのはこっちの方なのだが、あまりの真剣な目つきに、俺達は何も答えられなかった。
 そして2日目の朝が来た。おそるおそる部屋を開けてみると、彼はゆっくりこちらを振り返った。
「セロテープくれないかなぁ・・・レポート用紙が何枚にもなっちゃって・・・」
 その目は充血し、息をハァハァさせながら、特徴のあるでかい鼻の上に、前歯も抜けているので、まるでホラー映画のワンシーンのようだった。俺達夫婦は、セロテープを部屋に投げ込むと、
「ナマンダブナマンダブ、悪霊退散悪霊退散!」
 と、もうその日は部屋を開けることもなく、ブルブル震えていた。
 そして、遂に3日目の朝が来た。まさかコントローラー片手にお陀仏になってるんじゃないかと怯えながら、部屋を開けてみた。すると、そこにはレポート用紙を何枚も何枚もセロテープで継ぎ接ぎした紙を片手に持ったまま、彼が眠りこけていた。そして、俺達に気づくと、
「やったよ、遂に全部を解明したよ・・・」
 とクールに言った。

 その時、俺は思いだした。彼は、昔、立体パズルで、
「このパズルには1200通りの解答があります」
 というのをやっていて、俺が、
「出来た?」
 と聞くと、
「いやー出来てないんだよねー」
 と言うので、
「俺も1回も出来たことないんだよ。結構最後が合わないんだよねっ!」
 と言うと、
「いや、まだ1150通りしか出来てないってことだよ」
 とさらりとのたまっていた、特殊人間だったのをすっかり忘れていた。

 今回の「スイッチ」はまたさらにパワーアップしているとの噂で、俺も楽しみだ。しかも声優陣も豪華だという。ただ、もし貴方がK君のような性格だった場合、命の保証は出来ない。ギャグワールドに死すのが本望だというならいいが・・・。とりあえず、レポート用紙とセロテープだけは、用意しておけ!
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