「 いただきストリート2」 

ひろゆき、へいすけ、シェリーになつひこ。僕の、いやさ、うちの夫婦の親友の名だ。みんなおしゃべりで、おチョーシ者だ。イヤラシイ奴や、ゴーマンな奴もいる。でも、だれよりも友達なのだ。しかも彼等はここ数年間家に居着き、いつでも茶の間にいるのだ。・・・。
あああああ、また今日もやってしまった。きのうも2回やったというのに。「おサカンですな」って、違うわーい!!! もうこれを読んでいる人も先刻ごショーチじゃろて。そう、今宵も「いただきストリート2」のスイッチを激しくオーンにしてしまったのだ。
いや、言おう。これは冗談でなくこのゲームに割いた時間は数1000時間を裕に超えている。いや、もう、本当に、真に、馬鹿だ。もうこのゲームに登場する16人の多彩なキャラクターでも、自分より年上はへいすけひとりになったというのに、また今宵もマップを選んでる。ああっ、もうサイコロを振っている。俺はもう子供じゃねえ。どうあがいたって中学生高校生のボンズじゃないのに、またやってしまってる。
ちょっと待ってくれ。でも妻も妻だ。止めてくれたっていいのに、もう「あたしの番だね」なんて言ってサイコロ振ってるじゃねえか。おいおい。

 普通、夫婦のうちどちらかが常識的な人間なら、歯止めがあるべきものなのだが、なんとふたり揃ってただただ遊ぶ為だけに生まれてきた。そもそも、10年前の結婚の動機もそれだったもんなあ。毎日毎日デートは西武新宿駅徒歩3分のダンキンドーナツ。
別にドーナツが好きで好きでトーニョーなんて関係ないぜ、今日もドーナツ10個食いに挑戦じゃーい!!、といっていたわけではない。
では何故?の疑問には、こう答えようじゃないか。
「一番安く長時間座ってられたから」。と言っても、別に座りマニアで、「あー座るって、なんてえ快感なんだ。俺をもっともっと安らかに座らせてくれいっ!!」といってよだれをダアラダアラ垂れ流すというような特殊趣味人間というわけではなかった。そう、そこでただただ賭けトランプに興じていたのだ。
もちろん当時バイト暮しの身、その額は西原理恵子さんに聞かれたら「子供の遊びじゃねぇーんだよ!!」といきなり張っ倒されそうな金額だけど。だけど負けがこんできて「くそっ、これからじゃーい!!」という時にいつもいつも終電の時間になってしまって「こんなことなら、家が一緒ならバッタと倒れるまで毎日毎日ブってブってブちまくれるじゃねーか。よーし、結婚でい、結婚でい!!!」と籍を入れてしまったのだ。これはまぎれもなく実話である。

 さあ、その夫婦の結婚生活時間の約20%強をしめるのが、この「いただきストリート2」だ。ずばり言うと、ルールはモノポリーである。すごろくの要領でサイコロ振って、株を買ったり売ったりして儲けてなんぼのゲームである。同じエリア内に物件が買えると増資額がババーッとアップして株がぐわっと上がってムファファファこれが社会じゃーい、と大笑いするか、ウゲゲゲこれが社会ですかー、と大泣きするかのゲームである。
その「基本ルールは簡単、でも奥は深いでっせ。しかも4割の実力に、6割の運がからまりますんや。」というのがハマるゲームの大原則。麻雀やパチンコと同じだ。そしてそれに見事にズブブブと底無し沼のようにはまっていったわけだ。ビミョーな心理作戦ももちろんある。直前まで株を買わないふりして相手が売った途端、堰を切ったように株買いに走ったり、5倍買いしたり。でもそこんとこ、コンピューターのキャラクターがうまいこと、喋る喋る。
「ほほお、石川くん、ここが欲しかったようだね」
「キャーッ、ミーがダイスを振るダイスーっ」
「これで、どうじゃ!!」
この会話量は邪魔にならない範囲でちょうどいいバランスで入ってる。そこがまたうまいことツボを押す押す。カジノと呼ばれるミニゲームやカードも勝負の鍵だ。
 ただ、こういうボードゲーム系は、微妙なゲームバランスがとても大事だ。それまでこのゲームと双璧で遊んでいた「桃太郎電鉄」シリーズになんとなくのめり込めなくなったのは、キングボンビーが登場してから、少しゲームバランスがおかしくなったことだと思うのだ。
 ちなみに、家ではこのゲームを賭けてやっている。だからより盛り上がれるのだ。といってもポリースメーン達よ、銃を抜くでない。家庭内労働を賭けているのだ、安心めされい。そして今宵も洗剤つけて僕の仕事は皿洗い。それっ、キュッキュッキュー、トホホホホ。

 僕らの夫婦間での今、もっとも大きなのぞみ、未来、夢、希望は「いただきストリート3」が店頭に並ぶことだ。いつもは中古ファミコンショップばかりの僕らも、自転車を100キロぐらいの勢いでこいで、正規ファミコン店に頭から飛び込むだろう。まるでジャンキーのように目を血走らせながら。
「たのむ、ブツを、ブツをくれい!! 」
こればかりは定価に消費税をつけてズババンと払ってしまうだろう。
 なんせコスト・パフォーマンスという点で言えば、これほどお得なソフトはないのだから。

(宝島社 「このゲームを買え」ムック本) 


エッセイ酒場に戻る
トップに戻る