「マルクスの二挺拳銃」
始めてマルクス・ブラザースの映画を見たのは、まだ「たま」がアマチュアの頃、ツアーで名古屋に行った時のことだ。その日はライブもなく、宿泊場所だった飲み屋のテーブルの下からはいずり出た僕とメンバーの柳原は、町をあてどもなく徘徊していた。
そんな時、映画館でひょいとかかっていたのがこの「マルクスの二挺拳銃」である。
単に、古そうなコメディだな、と思って入ったが最後、軽やかなスラプスティック・ギャグにしてやられてしまった。
特に僕が気に入ったのは、ハーポ。口の不自由な役なのだが、スピード感あふれるひとりパントマイムの様相を呈していて、さらに笑いのセンスもなかなかにシュール。いや笑った、笑った。
そして僕は、はっと思った。
全ての笑いは、何か欠けたところから生まれるのだな、という事を。
頭が欠けている。
体が欠けている。
性格が欠けている。
人はついつい自分の欠けたところを補おう、補おうとしているが、それは「欠けている」魅力を放棄している事になかなか気付かない。
完璧になるのが難しいのと同様、「欠けた事」も才能である、という事になかなか気付かない。
なるほどなぁ、と思った。
さて僕らは口元をニヤニヤさせながら映画館を後にした。と、5分ほど歩いたところで突然、柳原が、
「サイフを落とした ! 」
あわてて映画館に舞い戻り、もぎりのお姉さんに懐中電灯を借りて、館内の椅子の下をゴキブリの様にはいずりまわってサイフを探した。
「あれー?。あれー?。」
観客はスクリーンを見て笑おうか、それとも現実に自分の足元をごそごそ動きまわる妙な男を見て笑おうか、大いに迷ったという。
(ビデオボーイ)
エッセイ酒場に戻る
トップに戻る