二重枕 





            僕は多分前世が、殿様だったのでしょう。 何故かというと、寝る時、枕をふたつ重ねて、ググーッと頭を高く高く持ち上げないと眠れないからです。  家ではもちろんそうして寝ているのですが、困るのはツアー先などです。和室の旅館ならこっそり押入を開け、もうひとつ枕を失敬してくればいいのですが、ホテルだとそういうわけにもいきません。  机の中から、しめしめと聖書を取り出して枕の下に敷いたり、敷き布団のへりを強引に折曲げたりして、なんとか枕を高くして寝るのですが、これも聖書がなかったり敷き布団が固いとうまくいきません。  自分で自分に腕枕をして、次の日腕がパンパンになって「ううーっ」と動かなくなったこともありました。  時には布団をあきらめてまでも、枕を作ったものです。つまり、寒い思いをしてまでも掛け布団を一枚折り畳んで枕にするのです。  ある夜のことでした。その日もうまい具合の物が部屋には見当たりません。  しょうがないので、持ってきたバッグを枕の下に敷くことにしました。  確か今日は衣類だけだったな、と思って疲れていたので確認もせずに寝入ってしまいました。そして、夢を見たのです。  僕は小さな小さな虫けらになって、木々の間を遊びまわっているのです。  と、突然蜘蛛の糸に引っかかり、もがいてももがいても逃げられないのです。  朝になり起きると、イヤーな予感がして、急いでバッグを開けました。  「うおー。」・・・そこには当時コレクションしていた納豆のパッケージが、ぺちゃんこに潰れて、糸をひいた大豆達がバッグの中でグチャグチャにはみ出ていました。  

 (小説CLUB)
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