はこにわポエム集会その2




****テレビ********

 さて、ますます寒さが厳しくなっているが、みんな風邪は大丈夫かいな。よく「石川さんは冬でもランニングなんですか?」という質問をもらう。答えよう。冬でも、ランニングなんじゃあ。ただし、ステージの上だけだけどな。ってあたり前だけど。本当に町をそのまんまの格好で「着いたー着いたー」と叫んだり、バチ持ってそこら中を叩いたりしてたら、こんなコーナーまかされる前に、とっくにどっかのおっさん達によって暴れられないように両手を強く捕まれて連行されとるわ。ところが世の中には本当にいつでもあの格好だと思っている人がいるみたいで、「えっ!? 今日はなんなんですか?」って、俺が服着るのは祭りの日だけなんかい。威勢をつける為に普通はぱっと上半身脱ぐもんだけど、俺はいつもが下着だから、かえって着るんかい。厚着をするんかい。モコモコになるんかい。この際、はっきりいっとくでえ。服、着てます。あと、よく言われるのが「なんか縮んでません?」って、皆のイメージの中でどうやら俺はものすごい巨大な人のように思われてる。いや確かに小さい方ではないけれど、ジャイアント馬場や小錦や奈良の大仏と同じ集合に入れたら、あかん。そして逆にこのコーナーの題字を書いてくれたギターの知久はすごい小さい人に思われてる。コロボックルや一寸法師みたいな。葉っぱの傘はささん、ちゅうねん。お碗の舟はこがん、ちゅうねん。俺と3センチしか身長は変わらん、ちゅうねん。とにかく本当にイメージ、っちゅうのは怖いもんでっせー。そしてそのイメージを作る元凶がテレビと言っても過言じゃない。
みんな結構誤解していると思うのが、「テレビに映っていることが事実だ」ということ。まぁ、最近は僕もそんなにお呼びはかからないが、まずテレビのプロデューサーには「映したいもの」がはっきりあって、そのイメージに沿う物だけを抽出する、ということを忘れないで欲しい。
だから「テレビに映っているから事実」なんじゃなくて、「それは事実かもしれないが、そのイメージをより際立たせる為、それ以外のイメージは全部カットされている」と思った方がいい。例えば、泥棒が電車で席をゆずったとして、その「泥棒」の方だけ流すか「席ゆずり」の方を流すかでまるきり違うものになるけれど、ほとんどの場合どっちかひとつしか映さない、ということだ。なんせ、今の編集技術はすごい。スマップの昔のビデオが流れたって、決してM君が映ることはないでしょう? そんなこと、お茶のこさいさいなんだよね。だからみんなわかって楽しんでね、テレビ。



 ******人形******

   おや、おたく・・・そう、あんた、あんたのことじゃ。ずばりあんた、職がないね?おいおい、誤魔化したってだめじゃ。わしはなんでも知ってるんじゃ。ということは、お金に困ってると、こういうわけじゃろう。ふぉっふぉっふぉっ、照れんでいい、隠れんでいい、惚れんでいい。こちとらなあんでもお見通しなんじゃ。そこでお主にとても良い金儲けの話を教えて信ぜよう。ヒントはぷぷっ、このコーナー。おおっと、これ以上は自分で考えてくれよ。社会は厳しいんじゃ。あぁ・・・一万円かぁ、一万円あればなんでも買えるよなぁ。夢は全部かなうんだもんなぁ。夢のお城で金銀財宝・・・お供を連れて7つの海へ・・・牛丼ならば特盛り、玉子、サラダ、みそ汁、漬物までついてテーブルの上にゃこれ以上もう並べきらんて・・・。悪くないよなぁ。今、葉書が50円だから200倍かぁ。200倍・・・そうそうない話しだよなぁ。ちょこっとポエムを書いただけで・・・おおっと、あぶないあぶない。あやうく答えをいいそうになってしまった。やばいやばい。
・・・って、俺は小学生の頭を持った老人かーい! さて、なんでこんなこと書いたかには訳がある。そう、今回もまた大賞をムッシュ・ムニエルがかっさらっていったからだ。おいおい、ムニエル、アルバイトはまだ見つからんのか?それともこれが仕事だというのか? おいっ、もう3万じゃないか! なんてえこったい。いいのか?こんなヤギの魔術師にお金をどんどん持っていかれて。誰か奴に挑戦する骨のある奴はいないのか! もっとも、「僕は骨がないんですよ。ひとつもね。フフフフ」とか笑ってスライムのような人が前に現われてクネクネ抱きついてきたら、その場で何も言わずに静かにジョージョー失禁するけれど。ということで本日のお題は「人形」。人形は怖い。どんなに穏和そうに見えても人間の方が遥かに怖いはずなのに、何故人をぶったりけったりするどころか、鼻クソひとつ自力ではほじれないまったくもって非力な人形が怖いのだろうか。つるつるすべる雪の道や、ヤシの実のなっている木の下の方がよっぽど殺傷能力は強いというのに。おそらく、「目」だな。目があるだけで人というものはそもそもすっごい単純なものだからこわいのだな。雪の道や、ヤシの木には目がないからな。「じゃあ、この人形の目をくり抜いちゃえ! そうすれば、怖くないはずだ! 」ブチッ。
・・・ウッ、ギャアアアアアアアアア!!!



***************自転車*********

   こう見えても、俺は自転車乗りだった。そう、20年ほど前一部に絶大な人気を誇った荘司としおの漫画「サイクル野郎」に感化されたのだ。高校生の時はその主人公の丸井輪太郎のように群馬から四国の徳島までひとりで自転車で走り抜けた。なんて俺ってかっこいい冒険野郎なんだ、と思った。いい気になった。そして京都。「ララー、京都ーっ、大原、三千院ーっランラララー」ってな感じで鼻唄も軽やかに坂道を下って行った時、突然交差点のところでタクシーが脇から飛び出してきた。
「君々、いきなり飛び出すのは良くないなぁ。俺が死んだらどうする気だい。覆水盆に返らず、ということわざを知っているかい。」と言うよりだいぶ早く、『ボグッ』と鈍い音がして気づいた時には俺を乗せたままの俺の自転車は俺の乗るべきではないと思われるボンネットの上にいた。「うっ。こ・・こ・・こ・か・ん・が・い・た・い!!」タクシー会社のおっさんに病院に連れていってもらった。股間が、静脈破裂していた。「もう少しずれていたら、一生子供を持てない体になっていたよ、わっはっはっ」と医者の黄色い歯が見えた。翌朝、起きてみると、股間の様子がちょいと変。触ってみる。
・・・3つある。
2つのものが、3つある。
数がひとつ多い。
そう、ちょうど隣と同じ大きさにプクーと腫れていた。それは「こんにちわー、僕『ニューたま』だよ、よろしくねー」と挨拶しているかの様だった。もちろんその時はその後、その名前のバンドで世に出るなどとは思ってもみなかったのは言うまでもない。とにかく自転車を置いて帰るわけにもいかず、そのままサイクリングを続けた。自転車をこいでいる時はなんとか平気なのだが、問題は乗り降りだ。股間がすれて、腫れた第3のたまが痛いのだ。しかし俺は発見した。乗り降りの際は、電信柱につかまり、一旦自分の体を持ち上げてからずるずる落ちるようにすれば痛みの少ない事を。ジュースを買うのでもずるずるずー、人に道を聞くのでもずるずるずー、自転車を慎重に止め、やおらその横にある電信柱に抱きついて静かにずるずる落ちるさまは、さすがになんて俺ってかっこ悪い冒険野郎なんだ、と思った。

 てなことで、そんな苦い青春時代を打ち消すように今週は少しさわやかなポエムを選んでみた。自転車をいつもより少し早くこぎながらなんとなく思いだし笑いをしてる、っていうのが実は幸せの王様のような気がする。そんなささやかな日が一日でもあれば、それだけで自分がこの世に生まれてきた価値があるような気が、するんだよなー。

(フロムA)


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