五月三十日 ゴーサーティの日



   ゴーサーとは沖縄の特産野菜ゴーヤーのことである。それが八重山諸島のとある島(地名は諸事情によって証せない)で訛ってゴーサーと言われ、それで作ったお茶のことを地元の人達はゴーサーティと言い、琉球王朝時代から飲まれていたもので、高いものになると一杯が数万円もする極上の物もあるという。しかし高級になればなるほどやはり苦みがかなりきついのでヤマトンチュー(本土の人間)で顔もしかめずに飲める人はほとんどいないと言う。
 季節的にもそのゴーサーティがいわゆる「新茶」のような旬の時期なので、この日が語呂も良いということでゴーサーティの日に選ばれたのだが、実はこのゴーサーティはその飲み方の作法がかなり厳しいことでも有名なのだ。

 まず第一に朝一番にゴーサー(ゴーヤー)を体中のあらゆる穴という穴につめなければならない。耳、鼻はもちろん口にも大きなゴーサーを詰める為、皆ほっぺたが左右ともゴーサー状に出っ張っていて赤塚不二夫の描くところの「ダヨーンのおじさん」の如きに見える。なのでもちろん喋るのもモゴモゴとしか喋れないし、そもそも耳にもゴーサーが詰まっているわけだから何も聞こえないので、この日は事実上学校や会社も休みとなる。
 そしてもちろん下半身のそれぞれの穴にも皆詰めなければならないので、この島の女性の大半のロスト・ヴァージンの相手はゴーサーということになる。他の土地から考えると理不尽な気もするだろうが、この島では先祖代々床上げ相手が皆ゴーサーなので、誰も疑問にも思っていないのだ。十歳の誕生日からこのゴーサーティの行事に参加できるので、この島の非処女率は十歳でほぼ百パーセントとなる。

 第二に自らがゴーサーの気持ちになるということで、全身をゴーサーを潰して作った染料で緑色に染めた後、それぞれゴーサー状に畑に島民がじっと横たわり、さらには事前に捕まえておいて籠に入れておいた腹をすかせた薮蚊をそこに大量に放つのだ。当然皆ボコボコに刺されて体中がブツブツになるのだが、これがゴーサーの独特のイボイボ感を出すのだ。
 他所の土地からたまたま風待ちでこの島に立ち寄った漁師がこの風習を知らずにその光景を見て宇宙人かもしくは新しい巨大な生物がこの島の人々をことごとく食ってしまい、その得体の知れない生き物に占拠されている勘違いして、泡を食って船に駆け戻りSOSの無電を打った、などという記録も残っているのでよほどその姿は奇怪かつ不気味に見えたのであろう。
 そしてそれらの儀式を終えたあと、やっとゴーサーティの時間となる。ゴーサーティは細かくして煎ったゴーサーをぬるま湯状態で長老の「ゴーサー!」の掛け声とともにみんなで一気飲みする。これが主に商売繁盛や合格祈願の願掛けとなるのだ。

 ただひとつ問題があるとすれば島民達は気づいてないのだが、島が小さいので商店というものが存在せず(買い物は近くの大きな島に舟を出して行く)、またほぼ若者の全員が義務教育を終えると漁師になるので、商売繁盛や合格祈願が全く意味をなさないことだ……。


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