五月二十九日 娯肉の日



   娯肉とは即ち「娯楽としての肉」である。
 普段は「やーい、デブ。デ・デ・デ・デブ~ッ!」などと揶揄され、囃し立てられる太った人々が今日ばかりは大手を振るって自らの体にたっぷりとついた脂肪肉を自慢し、その肉をタップンタップンいわせながら踊り狂う、言わば「肉の祭典」である。
 腹だけを使ってそれをぶつけ合い勝敗を決める「腹相撲」。ほっぺたの肉の大きさといい感じの垂み具合を競い合う「旧宍戸錠コンテスト」。太股をバッツンパッツンいわせ、その音量の大きさを競う「太股バッツンパワー」。どれもこれもスリムな体型の人はただ指をだらりとくわえて見ていることしか出来ない「肉者(にくもの)」だけが嬉々として楽しむ日なのである。

 しかし最近は痩せている狡猾な者達がやっかみから「娯肉、即ち肉を楽しめばいいんだろ」てなことで、何と自分達に肉が無いものだから、肉屋で安い獣肉などを買い求めその肉を武器としてお互いの体をペシペシと張りあって戦う「張り肉」などという競技なども行われ始めているが、所詮敗者の戯れ遊びである。生きた躍動する脂肪肉にかなうはずもない。
 デブ、豚、化け物・・・。様々な「肉者」を卑下する言葉が世の中には氾濫しているが、この日だけは「勝ちとしての肉」を存分に誇示し、肉持ちの快楽を存分に楽しむのだ。
「肉なくして人でなし」。
 昭和の大横綱、大砲関の言ったこの言葉は、肉者の座右の銘として、いつまでも後世に語り継がれるであろう。


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