五月二十七日 豪綱の日



   さて、これを記している平成十八年度初夏現在、角界で最高峰の横綱はモンゴル出身の朝青龍ただひとりである。日本の国技と言えども遙々モンゴルの大地からやってきての連続優勝記録などは文句なく立派な結果と言えよう。
 しかしみなさんは相撲での最高位が「横綱」だと信じて疑っていないのではなかろうか?
 確かに例え年配の人に聞いてみても「当然じゃ」という答えが返ってくるだろう。しかしみなさんは何か気づかないだろうか。そう、横綱の「横」という字に。
 横やり、横意地、よこしま、横入り、横浜シュウマイ・・・。
 横浜の崎陽軒のシュウマイは私の大好物だからいいとして、他の言葉はみなあまり良くない意味を持つ言葉である。そんな言葉を「綱」に付けた「横綱」が果たして最高のものと言えるのであろうか。  

 答えは、否である。

 そう、もうお分かりであろう。実は横綱よりももっと上の位があるのだ。それが「豪綱」なのである。
 しかしこの「豪綱」、一般にはほとんどと言ってもいいほど知られていない。
 それは何故か。
 そう、「豪綱」とは横綱より強い為、試合ごとに相手をあやめてしまうほどの力を持った力士だからである。当然全国に生中継しているテレビ番組などでも勝負とはいえ一種の「殺人現場」を放送するわけにはいかないので、「豪綱」になった者は自分が「豪綱」であることを隠し、さらに八百長と言われようが強すぎるその力を人前で出しきることは出来ないのである。
 言わば「闇の横綱」なのである。
 それが誰かを口にすることは出来ない。

 相撲好きの方ならご存知であろう。十年程前、とある親方と相撲取りが同じ日、ほぼ同じ時刻に急死したのを。これは「豪綱」の存在を明らかにしようとした結果、闇の手により葬りさられたのである。
 そして本日「豪綱の日」は普段隠されて表に出ないその力士を角界がこぞって表敬訪問し、日頃の御礼を申す日なのである。
 ちなみに今現在「豪綱」を張っているのは、名前は明かせないが、前頭の中盤あたりをうろうろしている、(あっ、ちょっとお待ちを。誰か来ました。こんな時間に誰だろう?・・・あっ、貴方は「豪綱」のっ!・・・ウ、ウガッ、ボクッ、グキッ・・・)


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