五月二十二日 濠に自由にの日



  五月と言えば暖かい季節にはなってきたものの、まだ海などにくり出して泳ぐというようなシーズンではない。
  しかし泳ぎが好きな人にとってはちょっとでも暖かくなれば「エイヤッ!」と水に飛び込みたいものである。しかし海水浴場などでは海開き前の遊泳を禁止しているところもある。人も少ないので波にさらわれても誰も気づかずそのままお陀仏という危険性もあるからだ。

  そこで「お濠」である。たいてい古いお城の周りにめぐらされているので、町中であることが多いので、人の目にもつきやすく、なおかつ普段は夏であろうと遊泳が禁止されているお濠を年にいっぺんぐらい解放してやろう、というのがこの「濠に自由に」の日である。
  江戸時代以前に諸国の大名が競って作ったお城。そしてそのまわりに張りめぐらされた濠。そんな歴史的価値はあるものの、実際お城は上ったり、またそのお城の中の文化財に触れられる機会はあるのに、お濠となると「ただ眺めるだけ」しかない。
  しかし自分の町の歴史には出来うる限り直接肌で感じようじゃないか、それでこそ真の意味での歴史を知るということではないか、何も蔵に仕舞ってしまうことだけが文化財保護ではないだろう、ということがだんだん教育関係者などからも指導が行われてきたのである。
  なので「濠に自由に」が記念日として設けられ、この日は大人も子供も滅多に入れないお濠で水遊びなどを自由にしてキャアラキャアラの声も微笑ましい姿があちこちの町で見られるはずだ。

  ただ、とある若者が、
「五月二十二日だから『濠に自由に』って……。語呂合わせにしてもちょっときつくないかぁ~、ヘヘヘッ!」
  と苦笑したらしいが、彼は何故か次の日お濠の中でプカプカ浮かぶ水死体として発見されたという。

   犯人は、分かっていない。


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