五月二十一日 御浮体の日



   そろそろ気候的にも夏の気配が強まってくるおり「海開き」なども本土ではもう少し先の話だが、沖縄などでは四月一日に既に始まっている。
 しかし暑くなったからといっていきなり海に飛び込んでキャーキャーはしゃぎまわるのは、こんぴらさまなどの海の神様に対して大変無礼にあたる行為だ。
 ということで「海開き」の前に、つまり海で若い者が女は胸をパッツンパッツンにしたり、男はそれを見て股間をパッツンパッツンしながらきゃあらきゃあらと嬌声をあげ、泳いだりボールで遊んだりウホホホホ~イとサーフボードの上で腰をくねくねしたりする前に海に敬意を払って御浮体、すなわち大海原にそっとひとり体を横たえ、神様に祈りながら身をまかせる儀式をするのがこの御浮体の日だ。

 もちろん、この行事は危険もともなうので、そのままブクブクと静かに海中深く没して行く者も出るが、それはいわゆる「人柱」なので御遺族の方には申し訳ないが、神の元に召されたものとして耐えていただくしかない。ちなみにその「人柱」が出た海岸也にまだ正式な名称がついてない場合、敬意を表してその没した者の名前がそこに冠されることで弔いの一環とすることもある。
 例をあげれば江ノ島一帯は単に「湘南海岸」と呼ばれているが、もっと細かい区分で「片瀬海岸」「鵠沼海岸」などと呼ばれることがあるのも、そも明治~大正期に「片瀬太郎さん」(ミュージシャンの葉加瀬太郎氏の母方のお爺さん)、「鵠沼恵美子さん」(タレントの上沼恵美子さんの母方のおばさん)などが人柱になって付いた栄誉ある名前なのだ。
 貴方も今日の夜十一時頃、誰にも見られずにそっと海に行き、この「御浮体」を経験して欲しい。

 尚、万一の事があっても海に没せず、浜に土左衛門として漂着して打ち上げられ腐ってハエなどにたかられていると、ただの御浮体ならぬ「御腐体」としてみんなの見せ物になって、棒で子供達にぷっくら水を飲んで膨らんだ腹などを突つかれ、
「ヒャ~ッ!」
 とか言われて警官が来て、
「こらこら、腐った死体で遊ぶな子供たち!!・・・おぉっ、臭っ、おぉっ、気持ち悪っ!」
 と言われて単純に溺死処理されるだけなので、その点だけは重々間違いのないように気をつけて没していってほしい。


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